表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第4章 休息

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/801

92.帰宅後の模擬戦

 バインズの町に戻った稜真は、エイブと2人でギルドに報告をした。

 2人で仲良く依頼を行った事に、パメラは驚いた。それはそうだろう。その少し前の騒動を知っているのだから。


「村全体の雪下ろしを2日で終わらせたの? あなた達だけで?」

「きさらが手伝ってくれましたから」

「グリフォンが…雪下ろしの手伝いを? はぁ、すごいわね」

 ともあれ、エイブもちゃんと依頼を受けて行ったので、ギルド的に問題はない。村の人達が元気で喜んでいたと報告すると、パメラも嬉しそうだ。




 ギルドでエイブと別れた稜真は、夕方には屋敷に戻った。


「そら。どうやってウサギを氷漬けにしたのか、教えてくれる?」

 稜真は厩へと歩きながら、気になっていた事を尋ねた。

『そらね、ふぅ、って、したの』


 そらは稜真の肩から雪の上に降り、ちょんちょんと木の杭まで歩いて、ふぅ~、っとブレスを吐いた。木の杭がパキパキと凍りつく。


 驚いた稜真がそらのステータスを確認すると、レベルが9に上がり、スキルに『氷のブレス』が追加されていた。

「氷のブレス…か。すごいね、そら」

『あるじのおてつだい、いっぱい、できるよ。うれしー』

 自分を手伝ってくれようとして、頑張ったのだと分かった稜真は、そらを抱き上げて肩に乗せた。

「ありがとな、そら。きさらも。今回はたくさん手伝って貰って助かったよ」

 そらときさらは、得意気に胸を張ったのである。




 稜真の休日も終わり日常に戻ったが、この所アリアの姿を見ない。不思議に思った稜真は、練習場にやって来たユーリアンに聞いた。


「ああ。アリアは今、お前に会うのも禁止なんだよ。それで一昨日から、機嫌が悪くて大変でね…」

 ユーリアンはため息をついて天を仰いだ。


 ギルドで捕獲されたアリアは、練習場の使用と稜真に会う事を1週間禁止されたのだ。機嫌が悪くとも、両親にはあたれず、その分ユーリアンに愚痴って来るそうだ。


「……お疲れ様です。でも、こちらも大変でしたよ」

 稜真はギルドでの出来事を話した。

「そうか……」

 ははは…と2人で顔を見合わせて苦笑しあう。

 やられっぱなしも悔しい。今度こそアリアに勝てるように、スタンリーにしごいて貰うのだった。




 ──この日も稜真とユーリアンは練習場にいた。


「リョウマ。僕は明日、ここには来られないから」

 ユーリアンが稜真から顔をそらした。


「っ!? そんな、ユーリ様! 俺…ではなく、私を1人にするおつもりですか!?」

「スタンリーがいるだろう。僕はそろそろ、学園に戻る準備を始めないとならないからね」

「準備なら、俺…っと、私もお手伝い致しますから、明日もこちらにいらして下さい!」

「明日だけは駄目だ。リョウマは頑張ってくれ」

「1人は嫌だと! 言っているではありませんか!」


 ユーリアンは、稜真と目を合わせないようにして、淡々と答えている。何故か必死の様相の稜真は、両手でユーリアンの手を掴み、懇願するように訴える。


「ユーリ様! お願いですから!」

「リョウマ…僕も辛いんだよ」

「……ねぇ? 2人で手を握って見つめ合って…何してるの?」


「「アリア!?」」


 稜真とユーリアンは悲鳴に近い声をあげ、稜真は慌てて言い直した。

「じゃなくて、お嬢様!」

「もしかして……私から逃げようと…してたの? まさか…よねぇ?」

 うふふふ、と笑うアリアは、背に禍々しいものを背負っているかのようだ。


「ア、アリア…。まだ1週間たっていないよ? どうしたのかな?」

 青ざめたユーリアンが聞いた。

「私、今日までものすごく頑張ったの。だから、お母様が1日早く謹慎を解いて下さったの。すごく、すっごく頑張ったの…。だからねぇ、お兄様、稜真。お相手して、下さるわよねぇ?」

 アリアは微笑みながら木剣を構える。


「「………」」


「こうなったら覚悟を決めましょう…。ユーリ様」

「ほぼ1週間分の鬱憤だぞ…。生きて帰れるのか? 僕達…」

 ひきつった稜真とユーリアンは、こそこそと話し合う。それを見たアリアは更に黒い気配になった。


「…お2人とも…いつまで手を握り合っているのかしら? 私がいない間に、随分と仲良くなられたのですねぇ…」

 2人は慌てて手を離した。


 禁足が明けるアリアの相手をしたくなくて、明日は休むつもりだったユーリアン。1人で被害を受けたくないから、必死で引き止めようとしていた稜真。どっちもどっちである。


「…師匠。一緒にやりませんか? 3対1なら、勝ち目がある気がします」

「………俺は審判だからな。見守ってやるよ」

 ユーリアンと稜真には、3人でも無理だろうよ…、と言うスタンリーの心の声が聞こえていた。




 ──その頃。アリアの母クラウディアは、優雅にお茶を楽しんでいた。


「奥様。よろしかったのですか? お嬢様に許可を出されて」

 お茶のお代わりをカップに注ぎながら、メイド長が聞いた。


「あれでは練習になりませんもの。指を刺してばかりいて。1度息抜きをさせなければね。──それにしても、体が動かせない事と、リョウマに会えない事。あの子にはどちらがこたえたのかしら?」

「どちらでございましょう。どちらにせよ、とてもお辛そうでした。……今頃、ユーリアン様とリョウマは、どんな目に合っているのでしょう。お気の毒に」

「男の子ですもの。女の子の思いは、受け止めてあげるのが義務ですよ」


 クラウディアはくすくす笑って、お茶を飲んだ。




 模擬戦では主に稜真が狙われて、連携を取るどころではなかった。アリアは余程、稜真が1人でギルドに行った事が気に入らないようだ。


 終了後。ユーリアンは立っていられたが、稜真は立ち上がれずに床に転がっている。

「アリア、リョウマと話したらどうだ? それとリョウマ。今更だから、僕の前で言葉を取り繕わなくていいぞ。今日は、ぽろぽろとボロが出ていた」

「あはは…。そうさせて貰います……」


 一応、ご家族やオズワルドの前では『私』と言っていたのだが、自分でも今日はボロボロだと分かっている。



 アリアはユーリアンと目を合わさず、ぷっくりとふくれている。

「僕は荷物の整理に行くからね。お疲れ様、リョウマ」

「はい、ユーリ様。お疲れ様でした…」

「俺も行くわ。ちゃんと話し合っとけよ」

 スタンリーも練習場から出て行った。


 未だにふくれているアリアは、稜真に背中を向けて座っている。

「…アリア? どうしてふくれているの?」

「だって稜真、私を置いて行ったもの…。知らない内に髪も短くなってるしさ」

 ふぅ、と稜真は息を吐いた。


「あのね…アリア。自分で言った事を覚えてないのかな? アリアは俺と一緒にランクを上げたいって言ったよね?」

「……言った、けど?」

「一緒に上げるなら、俺が早くランクアップの試験を受けられるように、依頼を受けないといけないでしょ?」

「………私が言ったから? 私の為だったの?」


 稜真は苦笑して体を起こし、床に座る。

「私、またやっちゃった…」

「アリアだものね。鍛錬になったから、今回はいいよ」

「うう…、ごめんなさい」


『よくない! のっ!!』

 そらが全身の羽と冠羽を逆立てて怒っている。スタンリーとユーリアンがいる間は、我慢していたのだ。

『あるじ、どいて! おねえちゃ!!』

「……はいぃ……」

 何をやられるのか分かったアリアは、渋々立ち上がる。


 練習場の隅に移動したそらは助走をつけると、アリアのみぞおち目掛けて斜めに突っ込んだ。前回よりも体が大きくなり、レベルも上がったそらは速さも増している。

「うぐっ…!」

「あーあー。そら…」

『だって、やくそく! だもの!!』

「ごめんなさい。反省してます」

 あまりの痛みに体を折ったアリアは、そのまま土下座に入った。


 アリアは謝り続け、なんとかそらにお許しを貰った。


「それにしても、稜真。どうしてあんなに慌ててたの? 稜真らしくなかったよ?」

「ああ…。2人でアリアの相手をするつもりだったのにさ。ユーリ様が急に明日は来られないと言うから、調子が狂ったんだよ。なんとか説得しようとしていたら、アリアが来て…」

「それであんなに怪しい状況になったのかぁ。そうかぁ。…お兄様、1人で逃げようとしたんだ。ふぅん。私から逃げようと、ねぇ。うふ…うふふふふふ」


(……ユーリ様、すみません)


 きっと稜真の二の舞になるだろう。申し訳なくなった稜真だが、自らの行動を思い返して額を押さえた。

 両手を握りしめて、すがり付いてひき止めた。


(テンパっていたにしても、何やっているんだ、俺。ないわぁ……)


 そんな稜真にアリアが追い討ちをかける。

「お兄様は置いといて。稜真ったら、お兄様にすがりついた上に、見つめ合ってるんだもんね~。すっごく怪しい雰囲気だったよ!」

「言わないでくれる? 必死だったんだよ」

「必死になられる私って…。いいけどね。それにしても、1人にしないでとか、私も言われてみたいなぁ」

「そんな事言った? ……言ったか」


 にやつくアリアを突っ込みたい。けれど自分の行動を省みると突っ込めない。

「もしかして稜真。お兄様に本気になってたりする?」

「……ふ、ふふ。…アリア。もう1度言ってごらん?」


(やばい!?)


「人が! 今回は突っ込めないと反省しているのに! どうしてアリアはそうなのかな!?」

 稜真はアリアのこめかみを拳骨でグリグリとえぐる。

「痛い痛い痛い~~っ! だって、お兄様と稜真、仲良すぎるんだもの!!」

「そりゃあ、2人で倒したい目標がいるからね。仲良くもなるよ」

「…やっぱり私、ラスボス扱いなのね……」




 アリアは体を動かしてすっきりし、稜真が1人で依頼を受けた理由にも納得できて、精神的にもすっきりした。


「稜真、何か話して?」

「…何をいきなり」

「1週間は長かったんだもん。稜真様成分が足りないの!」

「前にもそんな事言っていたよね。今回は自業自得でしょ」

「そうだけど…分かってるけど…。でも頑張ったんだよ?」

「…ったく。何かって、何を?」

「歌っ……」

 アリアが言い掛けた言葉は、即座に遮る。

「歌以外で」

「え~っ!?」

「屋敷ではもう歌いません」


 アリアに知られてからは、そらにも歌っていないのだ。


「それじゃあね~。何か甘い言葉が聞きたいな」

「何かって…。そんな漠然とした事言われてもね」

 いきなり言われて思いつくものではない。

「ああ、クッキーとかマフィンの作り方を教わったから、たくさん作ってアイテムボックスに入れておこうか」

「ホント! 嬉し…い? って、そういう甘いじゃないよぉ~~!」


(俺はアリアに甘すぎる気がするよ)


 稜真はアリアの手を取って、そっと撫でた。

「ふえっ!?」

 この1週間、いらいらしながら刺繍をしていたのだろう。指が腫れている。

「お嬢様。頑張っておいでなのですね。こんなにも指を腫らしておられるとは」

 チュッ、とリップ音を立てて、その指先に口づけた。

「ふみゃ~~っ!?」

「今度、努力なさっている作品を、見せて頂けますか?」

 アリアは真っ赤な顔で、勢い良く首を縦に振る。意識して甘くした稜真の声は、アリアを骨抜きにする。


「楽しみです。お待ちしていますね」

 そう言って微笑むと、稜真はアリアの髪に手をやった。

 軽く1つに縛っていた髪が乱れていたので、髪ゴムを外す。さらり、と流れる髪。稜真と出会ってから切りそろえた髪が、出会った頃の長さに戻っていた。手櫛でそっと髪を梳き、整えてやる。


「髪が伸びましたね。私はお嬢様の髪が好きですよ。緩やかに波打って、陽に透けると炎の様に見える髪。お嬢様にはとてもお似合いです。美しいですね」

 髪をひと束手に取り、チュッと口づける。


「はわああぁ~~」

「お嬢様? どうかなさいましたか?」

「もう無理~。脳みそ溶けちゃう~~」

「1週間分、ある?」

「充分ですぅ。腰が抜けた~」


 くっくっ、と稜真は笑う。手櫛で整えたアリアの髪は、ざっと編み込みにして結んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ