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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第4章 休息

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82.買い物 前編

 翌朝。稜真は厨房で、きさらについて話していた。


「──リョウマがテイムしたグリフォンか。何を食べるんだ?」

 料理長が気になったのは、やはり食事面だ。

「なんでも食べます。生肉が主食だけど、好きなのは葉っぱだと言っていました」


「葉っぱ? グリフォンは肉しか食べないと思っていたな」

「葉っぱ好きは仲間内でも珍しいそうです」

「そう言うって事は、リョウマはもう会話出来ているのか。テイムして間がないのに、えらく早いな」

「何故か懐かれまして、向こうからテイムを望まれたんです。そのせいだと思います」

「グリフォンの方から、か。リョウマらしいよ」


「あ、はは…。食事ですけど、普通に料理も食べていました」

「本当になんでも食べるんだな。肉と野菜を多めに仕入れるか。どれだけ食べるんだ?」

「自分の体くらいの肉を、1日で食べると言っていました」

「……そりゃあ、大食らいだな」

「はい。その内、肉を調達に行こうと考えています」

 伯爵が予算を組んでくれたが、それに甘えるのも申し訳ない。


「リョウマ君、今度グリフォンに紹介してね」

 隣で話を聞いていたエルシーが、うずうずしたように言う。女の子で可愛いグリフォンだと聞いて、気になって仕方がないらしい。

「はい」




 保存食作成は着々と進んでいる。

 料理長が作っていた、豚の頭肉を固めた料理が出来上がった。まるでテリーヌのようで、想像していた物と違い、おしゃれな料理に仕上がっていた。薄く切って食べるそうだ。


 燻製も燻し終わり、外の保存小屋に移された。せっかく燻製小屋があるのだから、今度は魚を燻製にする予定だ。料理長は、網で取りに行くか購入するか検討している。

 稜真は、魚が来るまでのんびりしたらどうだと言われた。


「リョウマ君。お嬢様がお使いを頼みたいと仰っていましたよ。ついでに冬物を買って来たらどう?」

 エルシーが言った。重ね着して凌いでいるが、外出用の上着は早急に必要だ。

「そうします」





 アリアの部屋を訪れると、そらと一緒におやつを食べていた。

「お使いって何かな?」

「これこれ」

 アリアが稜真に渡したのは、自身の大剣だった。

「ちょっと傷んで来たから、今の内に手入れをお願いして欲しいの」

「分かった」

 稜真は大剣を受け取った。


 昨日町に出た時もそうだが、冒険者活動をしない時は普段着で、迅雷も装備しない。つまりはアイテムボックスに入れたままなのである。

 このまま大剣をアイテムボックスに入れれば、きっと壊してしまうだろう。稜真は迅雷を出して言い聞かせる。


「いいか迅雷。この大剣はアリアの物だ。預かるだけだから、壊さないでくれよ」

 一瞬チカッと光ったので、分かってくれたのだろう。稜真は迅雷と大剣をアイテムボックスに入れた。


「それと、これ」

 アリアが金貨を5枚差し出していた。

「これは?」

「防具が必要でしょ? これで買って来て」

 稜真の軽鎧は、魔猿との戦いで壊れている。


「多すぎない?」

「そんな事ないよ。うちの領地には高価な品物はないだろうけど、身を守る防具に出し惜しみしちゃ駄目。妥協はしないで選んで欲しいの」

 稜真としては自分で買うつもりだった。魔猿の報酬もあるのだから。


「あのお金で稜真の防具を買うのは嫌なんだもん…。それにこれは必要経費だよ。春になったら、また貯金頑張ればいいの。だから、ちゃんとした防具を買ってね!」

「……分かったよ。それにしても多くない?」

「冬服代も入ってるから。それも必要経費だから、ここから出して買って来てね」

「それくらい自分で買うつもりだったけどな。──はいはい、分かったよ」

 アリアが口を尖らせたので素直に受けとる。


「……これ」

 アリアは眉をしかめ、複雑そうな顔で袋を寄越した。中をのぞくと、稜真が以前使っていた軽鎧だ。黒い染みは血の跡だろう。

「……これよりもいい物が欲しいって言えば、分かりやすいと思う…」

「了解」

 稜真はそう言って、アリアの髪をくしゃっと撫でた。


「あのお金で、きさらの首輪と野営用の道具を買うよ。それから、訓練用に木刀を作って貰おうと思っている。残りはきさらの食料。それは構わない?」

「うん」

「木刀はいいのか。アリアの基準が分からないよ」

「だって嫌なんだもん…」


 本当は一緒に行きたいアリアだが、きさらの登録で出かけたので、しばらくは外出禁止を命じられている。──サボったのがバレたのだ。

 稜真は買い物であちこち回らねばならないから、そらには留守番とアリアの見張りを頼む。


「え~!?」

『えー!?』

 ぷふっ、と稜真は吹き出した。アリアとそらが、揃って頬をふくらませたのだ。

「買い物だけだから大丈夫だよ」

「むぅ…。疲れたら休んでよ?」

「分かったよ」

『あるじ、やくそく、ね?』

 過保護さに稜真は苦笑した。


「約束する。行って来るね」






 今日はどんよりとした曇り空だ。

 重ね着をしている稜真だが、強い風が吹くと肌寒く感じる。風邪を引かない内に、まずは冬服の購入をせねばなるまい。稜真は、エルシーに教えて貰った服屋へと向かう。


 ここは古着屋だ。基本的に、商人が持ち込む古着を仕入れて売っている。だが1部の商品は新しい品物だ。

 セーターやマフラー、手袋等の編み物は、冬の手仕事として主婦が納品している。基本的に下着などは各家庭で作るが、作れない独身男用に、こちらも新品が売られている。


 店の中に入ったが人の気配がない。

「すみませーん!」

「はいはい。お待たせ致しました」

 奥から出てきたのは、初老の男性だった。焦げ茶の髪と青い瞳の物腰の柔らかな人物だ。


「冬物の服が欲しいのですが、こちらでの冬が初めてでして、相談に乗って頂けますか?」

「よろしいですよ」


 冬用の下着を何枚か。

 毛糸のセーター、フリースのような暖かい生地のシャツ、軽鎧の下に身に着ける服を多めに。鎧の上からの防寒用には、厚手のマント。マントの首元には毛皮が縫いつけられており、とても暖かい。

「成長期でしょうから、少し大きめの服をご用意しましょうね」と、服は邪魔にならない程度に大きなサイズを進めてくれた。


 店主の言葉に、稜真は自らの年齢を思い出した。ここ何か月かで背が伸びた気がするし、今からまだ伸びるだろう。毎年購入していたら、お金がかかる。

「そうします」


 次に選んでくれた上着は薄茶色で、肩幅はそれ程でもないが、袖が長かった、指先が辛うじて出るくらいだろうか。屋敷で外仕事をするのに着たいのだ。これでは邪魔になりそうだが、来年も着るならこの大きさでないと、と言われた。

 袖を内側に折って縫い留める身上げをすればいいと教えてくれた。


 稜真は身上げという言葉に懐かしさを覚えた。中学校に上がる時「成長期だからね」と、大き目の制服を注文し、母が身上げしてくれた。──同じく大きめの制服を買った高校時代。おろす事なく卒業したのは、苦い思い出である。


 内側が毛皮張りのブーツは、底に刻み目があって滑りにくい寒冷地仕様だ。就寝用の生地の厚いパジャマ。手袋とマフラーと帽子。


「…冬支度はお金がかかりますね」


 当初稜真は、服の予算として銀貨5枚を用意していたのだが、全く足りなかった。アリアからお金を貰っていなければ、危ない所だった。

「これだけ1度に揃えると、どうしても高くなってしまいますね」

 店主は申し訳なさそうに言った。


 上着はそのまま身に着け、残りの品物はアイテムボックスに入れた。店主にお礼を言って、次の買い物へ向かう。




 冒険者ギルドの近くに、武器屋と防具屋が並んでいた。まずは防具屋へ入る。

 カウンターで手持無沙汰な様子で座っていたのは、どこかで見たような男性だった。お互いに顔を見合わせて考え込む。


「ああ、じゃんけん大会の……」

 賞品に果物盛り合わせを選んだアランだった。

「伯爵様の所の……」

 収穫祭の時、稜真は裏方に徹していたので、アランからしたら顔は見た気がする、といった程度の認識だったようだ。


「アリアお嬢様の従者の稜真です」

 この町の住人は、アリアが伯爵令嬢であると知っている。稜真は名乗り、軽く頭を下げた。


「アランさんは、防具屋の方だったんですね」

「はい。2代目です。今日はどういったご用件ですか?」

「使っていた軽鎧が壊れまして、新しい物を探しに来ました」

「以前使われていた鎧はお持ちですか。修理もうけたまわっておりますよ?」

 稜真はアリアから預かった袋から、軽鎧を取り出した。


 アランは見た途端に絶句した。

「──これは。残念ですが、修理は無理です」

「みたいですね…」


 思えば、正面から切り裂かれたのだ。軽鎧には魔獣の爪跡が生々しく残っている。

 アランは顔をひきつらせた。

「…リョウマさん、よく生きてますね」

「…はは…自分でも思います。それで、これよりも防御力のある防具が欲しいのです」

 やはり動きやすい方がいいので、同じ軽鎧タイプがいい。


 アランは何種類か出してくれた。


 皮で作られているが、特殊な魔獣の皮で作られており、防御力の高い黒い軽鎧。金貨2枚。

 金属製で重い分、今までの物より防御力が高い、銀色の軽鎧。金貨1枚と銀貨2枚。

 茶の皮と銀の金属で作られた合成品。金貨1枚と銀貨5枚。


「革製が1番高いのですか?」

「希少な皮で作られていまして、この中でも1番防御力が高いのです。軽いですし、お勧めですよ」


 どれも今までの物より防御力が高い。値段的に合成か金属製のどちらかにしようと思ったが、アリアが革製にしろと言う姿が目に浮かぶ。

「……皮の軽鎧にします」

「ありがとうございます。一応サイズ合わせしますね」

 稜真は上着を脱いだ。


「──うん。問題ないようです。いかがですか?」

 稜真は体をひねったり、屈んだりして動きを確認してみた。動きやすくて軽い。

「いいですね!」


「少しの傷みなら修理できます。くれぐれも命は大切にして下さいね」

 身に染みて分かっている稜真は、忠告を有り難く受け止めた。今までの軽鎧の引き取りも出来ると言ってくれたが、戒めの為にアイテムボックスに入れておく事に決めた。

 軽鎧を脱いでアイテムボックスに入れ、もう1度上着を着る。支払いをすませ、お礼を言って店を出た。




 次はアリアのお使いだ。

 稜真は隣の武器屋へ入った。出迎えてくれたのは、いかつい中年の男性だ。稜真は挨拶をしてアリアの大剣を渡す。


「お? 珍しく傷んでやがるな」

「珍しいんですか?」

「ああ」

 いつも手入れを頼まれても、軽く磨く程度だそうだ。なんでもアリアの使い方が特殊で、剣に気を籠めて切るから傷まないと言ったらしい。

「普通は出来る事じゃないんだが。……まぁ、アリア様だからな」


(ああ、出たな『アリア様だから』。山ではキレていたから、いつもの使い方が出来てなかったって事かもね。群れを倒して、木を切り倒して、岩を砕いて……)


 傷まない方がおかしい。と言うか、出来るのもおかしい。


(…鉄の剣を木剣で受け止めた事もあったっけ。あの時も剣に気を籠めるとか言っていたな)


 ──自分に出来るのだろうか。


 ともあれ、きさらの首輪が出来る頃に取りに来る事にして、大剣を預けた。




 そのまた隣に木工細工師の店がある。

 屋敷で使っている木剣を作っている職人の店で、スタンリーに紹介された。職人は細身の男性だ。稜真は迅雷を出して見せ、木刀が作れないか尋ねた。


「えらく細い剣だな。触っても?」

「ちょっと待って下さい」

 稜真は小声で迅雷に言い聞かせる。

「いいかい? 迅雷を使う練習の為に木刀を作って貰うんだから、あの人に触らせるよ。くれぐれも雷を落とさないように。光るのも禁止。分かったね?」


 反応はない。迅雷が分かってくれたのかが心配で、稜真は恐る恐る手渡す。

「これは…。この刀身の輝き、バランスが素晴らしい…斬れ味も良さそうだ」

 木工細工師が触れても何事も起こらず、静かに寸法を図らせている。稜真はひと安心した。


「使う所を見せてくれないか?」

「……店の中では」

「そうだな。ちょっと着いて来てくれ」

 木工細工師は先程の鍛冶屋へ向かった。

「おい。裏を貸してくれ」

「いいぞ。って従者様じゃねえか。見た事のない剣を持ってるな?」

「従者様?」

 そう言えば木工細工師には名乗っていなかった。稜真は改めて挨拶をする。


 興味津々の鍛治屋が案内してくれたのは裏庭だ。そこは出来た武器の試し切りをするスペースになっていた。藁筒が並べられている。


 稜真は剣を握るのも久しぶりなのだ。上着を脱いで、軽く体を伸ばした。剣帯と迅雷を左腰に着け、鞘から抜き構える。

 使う時の体の動きを見たいと言われている。稜真は幾つか型を見せた。迅雷に意識をやれば、自然と体は動いてくれた。


 木工細工師は稜真の動きを見て頷きつつ、追加でメモをした。

「その剣と重さが近くなるように作る。何本か試しに作るから、何日かしたらのぞきに来てくれ」

「はい。よろしくお願いします」


「なぁ、ついでに斬れ味も見せてくれねぇか。さっきから気になってよ」

 鍛冶屋が言った。

「構いませんけど…」

「向こうにある藁筒を切ってくれ」

「分かりました」

 鍛治屋が指差した藁筒は、思ったよりも太い木の柱に藁が巻き付けてあった。


(これを切り倒すのは、ちょっと自信がないなぁ。さて、どうするか──)


 ゲームに映画にアニメにCDに、と付き合いが長いキャラクターがいる。幕末に活躍した左利きの凄腕の剣士。彼だったら簡単に切り倒すだろうな、と稜真は迅雷を右腰につけ直し意識を切り替えた。

 藁筒を見て距離を測る。稜真は腰を低く落とした。目を閉じて精神を研ぎ澄ませる。


『ふっ』と息を吐くと、ひと息に斬りつけた。


 柱はズズッ、と斜めにずれて落ちた。その断面は艶やかだ。──意識を戻した稜真は、成功した事に安堵し、迅雷を鞘に入れた。


(…沈黙が痛い。どうして?)


「……ははっ…。まさか…それを切り倒すとはな…」

「…驚いた」

「え? 切り倒すものじゃないんですか?」

「その細い剣だろ? 1番奥にある細い木を倒して貰うつもりだった」

「まさか1番太い奴を、あっさり切り倒すとはな」


 そう言われて見ると、手前から順に木が細くなっていた。稜真が切ったのは1番太い物だ。これは、大剣などの試し切りに使うものだったらしい。

「早く言って下さいよ……」

「だってお前、切る気満々だったろ? やれるもんなら見せて貰おうと思ってな」



「「まぁ、アリア様の従者だからな」」

 2人は飲み仲間だそうで、息もぴったり声をそろえて言われてしまった。


(やらかした!? 最近その言葉ですまされる事が、増えている気がする…)




左利きの剣士は、使おうかずっと迷っていました。

けれど、使いたいネタがいくつも浮かんでいるので、やっぱり使う事に決めました。


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