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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第27章 2年生の夏期休暇

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707.野盗の要求

「ヒャッハー!」と叫んで馬車の前に飛び出したイガルは、手斧を振りかざした。


 すごみを利かせて、「馬車を止めろ!」っと言い放ったのはいいが、そこでようやく馬車が止まっているのに気づいた。


「……お?」

 御者台にいた少年2人が御者台から降りて、呆れた顔で自分を見ているではないか。恥ずかしさにイガルの顔が赤くなる。


「へ…へへへへ」

 イガルは笑ってごまかした。少年2人の顔に恐怖の色が全くないが、単に怖くて固まっているだけだろうと思い込む。


 自分達は泣く子も黙る野盗なのだ。


 黒いシミが抜けない服、厳つい体、毛皮のベスト、頬の傷にむさ苦しいひげ。怖がられないなんてあり得ない。今日までに襲った旅人の中には、腰を抜かす者もいたではないか。


 気を取り直したイガルは手斧の刃をペロリとこれ見よがしに舐め、醜悪な笑みを浮かべた。そして「馬車で1番価値のあるもんを出しな!」と言い放った。



 そのセリフは不味いかも知れない、と稜真が思ったのは大当たりで、バタバタバタッと馬車から慌ただしく降りた女子&従魔達が稜真の前で壁を作る。


「稜真は渡さないんだから!」

「渡しませんわ!!」

「うん!」

『渡さないでしよ!』


 ももとさちが台になって高さをカバーし、そらがその上で体をふくふくにふくらませて威嚇ポーズを取る。ちょこもそらの後ろに立ち、両手を挙げた威嚇ポーズを取っている。


 アリアと瑠璃と従魔達は分かるが、マーシャとブランも加わっている。フレアは付き合っただけかと思いきや、殺る気満々の戦闘態勢だ。

 フレアの足下に蔓が芽を出している。稜真が許可を出そうものなら、野盗は血祭りにされかねない。──まだ行動していないのは、ルディが止めているからか。本人が成長したからか。


「……おい」

 野盗が価値のある物と言ったなら普通は金品だろうに、どうして揃いも揃って稜真だと思い込むのか。そんな場合ではないのに、突っ込まずにいられない。


「ぷふっ」

 ディアンは肩をふるわせて笑っていた。




 一方。

 林に残っていた野盗達は先走ったイガルに呆れていたが、本来守られるべきであろう少女達が馬車から降りて立ち向かう様子を見て戸惑っていた。


「──お頭。どうします」

「お頭は止めろ。獲物に待ちかまえる頭があったのは予想外。女共まで出てきたのは、もっと予想外だが、やる事は変わらん。女にかばわれる男など、戦力に数えなくてもいい。目にもの見せてやれ」

 頷いた4人は武器を抜いて林を出て行く。


「お前の出番が来るかも知れん。用意しておけ」

「かしこまりましたよ、お頭」

 大仰に一礼した7人目の男。この男だけは清潔な服に身を包み、細身の剣を腰に下げていた。


 お頭と呼ばれた男はため息をついて、部下の後を追って林を出たのである。




 次々に現われる野盗に、アリアが一歩前に出て大剣を抜く。


「……アリア。打ち合わせを忘れたのか?」

「覚えてるけど! 稜真を出せなんて言われたら黙ってられないし!」

「俺を出せとは言われてないだろうに…」

「1番価値のあるのは稜真以外にないもん!」

「あのなぁ…」


 問題のセリフを吐いた野盗は、目を白黒させて反応に困っているではないか。同情する気はこれっぽっちもないが、野盗の仲間が増えたのだからいつまでもこうしてはいられない。


 稜真は瑠璃に、従魔達を止めるように念話で頼んだ。

 マーシャとブランは、ディアンが説得に動く。今にも野盗を倒しに駆け出そうとするアリアを止めるのは稜真の担当だ。


 ここに来るまでに仲間で相談していた。

 町で聞いた話。あの道はいいよと言葉巧みに誘導する男。おかしな点をピックアップしたアリアは、旅慣れているディアンと相談して予想を立てた。


 実は噂ほど良い道ではないのでは?

 何らかの利権がからんでいるのでは?

 道を通ると、連れ去られてしまうとか?

 賊が待ち伏せしているのかも知れない。


 その中でアリアが押したのが賊の待ち伏せだった。


 町の人が噂に踊らされているのか、町の人もグルなのか。

 賊だった場合は問答無用で倒さずに、無力化して話を聞き出そうと決めた。無力化するのは稜真とディアンにしようと決めて2人が御者台に座ったのだ。無力化するまで残りの皆は馬車から出ない筈だったのに、予定が狂いまくりである。


「予定通りに俺が行くぞ」

「私がやるの! 稜真を手に入れようとするなんて、許せないもん!! ──万が一稜真が捕まって売られて、あんな事やこんな事をされたりしたら」

 後半はつぶやきだったが、しっかり稜真の耳に届いた。つぶやきながら頬を染めるとは、何を想像しているのか丸わかりである。ちなみに、「捕まって」の辺りで察したそらの合図で、ももがマーシャの耳をふさいでいる。


 ここでさちがアリアを拘束して正座させた。


 それでも動こうとするアリアの耳に、稜真は「黙って見ていろ」と低くささやいた。腰砕けになったアリアを置いて、稜真は駆ける。

 グズグズしていては、稜真好きアリア予備軍が暴れかねない。予備軍に自分の声が効くとは思えないのだ。


 稜真の動きで野盗のフリーズが解けた。──が、例え我に返ろうとも、稜真の敵ではない。


 掌底で顎を突き上げられて気を失ったのは、ヒャッハー男イガル。

 後ろにいた野盗4名は腹やら首やらを打たれ、これもあっという間に意識を刈られた。意識を取り戻す前にと、ディアンが手際よく縛り上げる。


 残るは衣装の汚れが少ない男1人なのだが、稜真は男の前で動きを止めている。稜真が見ているのは男の足下だ。

 どう動くか考えあぐねた稜真は、片付ける順番を変更した。男の動きを制御しつつ、「……いつまで見ているつもりだ?」と言った。


 稜真の声で、木立からぬるりと男が現われる。


「おやおや。気づかれるとはねぇ。見かけによらず、中々の腕をお持ちのようだ」

 男は黒髪をかき上げてポーズを取った。


「ふふふ。まさか…この私の出番が来るとは」

 1度のポーズ決めでは終わらず、男はぬるり、ぬるりと動いてその度に決めポーズを取る。こちらの世界の拳法でも極めているのだろうか、と稜真は警戒を強める。──ただ、この男()殺気はない。


「縄をほどいてやってくれないか? その者達は悪ではない。崇高な目的の為に働いているのだからね」

 言葉を発する度に男はポーズを取る。そして、チラチラと物言いたげに稜真を見ているのだ。


「あれは何がやりたいんだ?」

 稜真はぼやいた。

「話の流れからして、何者だ!とでも、聞いて欲しいんじゃない?」

 答えたのはディアンだ。2人とも聞きたい事は山ほどあるが、男の登場に毒気を抜かれ、質問する気が失せてしまっていた。


「あれにからみたくない…」

「うん。出来れば俺もやりたくないな」

 そんな話をしている間に、衣装の汚れが少ない男も拘束されていた。拘束したのはももとさちのコンビである。


「はいは~い! 私が聞きまっす!」と、さちの拘束がなくなったアリアが手を挙げたので、ここは任せる事にした。



 コホン、と咳ばらいをしたアリアは声のかけ方に一瞬悩み、悪役令嬢ムーブをすると決めた。演技めいた相手には、演技めいた対応をすべきだろう。アリアは右手の甲を口元に当てると、「ほーっほっほっほ」と高笑いをする。


「崇高な目的ですって? そもそもあなたは何者なの!」

「くっくくくく。よくぞ聞いてくれた。聞いて驚け! 私は蒼炎の勇者である!!」


「「「「「「はああああっ!?」」」」」」


 ぬるり、ぬるりと取るポーズは、男の中では格好良い勇者ポーズのつもりだと判明した。稜真サイドの面々が自称蒼炎の勇者をにらみ付ける中、稜真だけは地面に膝をついて頭を抱えていた。




ぬるぬる動く偽勇者が気に入ってます。

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