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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第27章 2年生の夏期休暇

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705.実力確認の続き

 夕闇が迫る一歩手前の時刻。

 曇り空に青空の色をした鳥が映える。馬車の行く手方向から飛んで来る鳥はグングン距離を縮め、あっという間にこちらに到達する。


『あるじー』

 一気にスピードを落とし、そらは稜真の肩に降りた。


「お帰りそら。いい場所は見つかった?」

『みつけた、かんぺき!』

 ふふん、と稜真の肩でそらが胸を張る。「ご苦労様」と稜真はそらの頬をかいてやった。


 稜真の指示でそらが探したのは今夜の野営地だ。今夜は他の人間がいない場所でのんびりしたいと、全員の意見が一致したからである。


 そらの誘導で街道をそれる。


 一応道ではあるが馬車は入れないので、ここからは徒歩だ。カフェを外した馬車をアリアがアイテムボックスに入れると、ディアンとルディが目をむいた。──普通のアイテムボックスに、馬車は入らない。


「…そう言えば…アリアヴィーテさんも…勇者様だっけ…」

「……だったねぇ」

 2人の中では稜真の存在が大きすぎて、アリアの力を知っているのに頭で理解していなかったのだ。


「チッチッチ」とアリアが指を振る。

「いい加減にアリアって呼んで」

「はいはい。アリア嬢ね」

「嬢いらな~い。アリアで」

「でもなぁ…」

「ミアちゃんに、ディアン様にパンツ見られたって話しちゃおっかな~」

 稜真を含めた周囲の冷たい視線が突き刺さり、ディアンは平身低頭で頭を下げる。

「申し訳ございません!」


 結局ディアンもルディもアリアと呼び捨てにし、アリアもディアンに様をつけるのは止めた。学園ではそうは行かないが、旅の間くらいはいいだろう。



 カフェの手綱を引いた稜真が先導してたどり着いたのは、岩場にある野営地跡。野営地跡を囲むように大小様々な奇岩があり、見ていて飽きない。


 街道が整備されてからは何年も使われていなかったようだが、岩々のお陰で風も吹き込まず、場所によっては雨宿りも出来る。

 野営地はそれ程荒れておらず、広々しているのでアリアは馬車を出した。


 焚き火をおこす場所には、腰掛けられる岩が幾つも並んでいる。上面を削って座りやすくされている岩だ。

 水場が近くにないのだけが問題だったが、稜真もアリアも水樽をアイテムボックスに入れているので問題にもならない。



 早めの夕食を終えた後は、実力確認の続きである。



 もうやらなくてもいいのでは、と稜真は思っていたのだが、アリアにアイデアを貰ったマーシャとブランが張り切っているのだ。

 結界を張って、ももとさちとアリアが準備を行い、マーシャ&ブランペアの演技が始まる。


「7番、マーシャとブラン。行きます!」

『行くでし!』

 大きくなったブランに乗った、マーシャのかけ声でスタートだ。



「──これは…。考えたな」

「息の合ったペアっぷりを見せるのが1番だと思ったの~」


 ブランとマーシャが走る先には障害物があり、ブランは軽々と跳び越えて走る。障害物としてコースに置かれているのはジャンプ用の柵、平均台代わりの丸太などだ。

 高さを変えた柵はももとさちが。丸太を出したのはアリアだ。──その内使おうと思ってアイテムボックスに入れていて、コロッと忘れていた物である。


 マーシャはブランに呼吸を合わせて、体を低くしたり、体重を移動したりしている。従魔と主の実力を見せるにはもってこいだ。


 最後にブランが最大の大きさになって、マーシャの合図で氷のブレスを放った。放った先の岩が砕け、ブレスで氷の道が出来る。

 そしていつものサイズになったブランがマーシャの隣でお座りして、マーシャが一礼して終了した。


「お疲れ様」

「良かったよ」

 口々にマーシャとブランを褒めていると、アリアが「わぉ」と声を上げた。稜真がアリアの視線を追うと、カフェが尻餅をついて呆然としているではないか。


「私、尻もちついた馬って初めて見た〜」

 アリアも稜真も、転がって4本の足を天に向けてピクピクしているユニコーンは見たことがあるが。カフェがパカッと口を開けた顔は、放心状態のちょこのようだ。


 稜真を蹴ろうとして教育的指導をされたカフェのプライドは折れたかに見えていたが、反骨精神は残っていた。このままでは、群れの中で自分は最下位になってしまう。位置向上を目指したいと、ずっと機会を狙っていた。


 カフェの中では、稜真がこの群れの最上位だ。

 皆に守られ、その実力も目の当たりにしているし、自分でも大好きな人間になっている。


 アリアと瑠璃と従魔達にはかなわない。

 精霊のフレアも同様である。

 ディアンとルディはよく分からないが、稜真が大切にしている友人だ。

 稜真が可愛がっているマーシャに手出しはしない。


 残るはブランだけだった。

 自分より小さいし、踏まれないと思い込んでいるのか、カフェの足下をちょろちょろする行動が気に障った。──ブランからすると踏まれてもダメージがないから、自分の進む道を歩いているだけなのだが。


 実力確認が終わった頃を見計らって、カフェもブランに対して上位付けするつもりでいた。


 それなのに、ブランがただの犬ではないと見せつけられてしまった。今度こそボッキボキにプライドをへし折られたカフェは、従順で素直な馬に変貌した。


 伯爵家に到着後はレインの下につき、従順ですばらしい馬だと言われるようになる。




「次は俺の番だね。──8番ディアン」

 ディアンが手を挙げて剣を抜く。

 幼い頃からレオに鍛えられているディアンは強い。ギルドランクがDなのは、エドウィンに合わせているからだ。

 

 簡単な型を披露したディアンは、上を向いて剣を口に入れて行く。大道芸でよくある剣飲みだ。


『すごいでし! どうやってるんでしか!? ボクもやってみたいでし!』

 興奮したブランが、ワフワフ吠えながらディアンの周りを回る。


 ディアンは柄まで剣を飲んでから、ゆっくりと剣を抜いた。


 微笑んだディアンが一礼すると、拍手喝采だ。種を知っている稜真とアリアだが、目の前で見たのは初めてだったので大きく拍手した。


 ちょこのお悩み解決をした時に、路銀をなくした話をしたディアン。

 彼は自分の身を守る為に、お金を稼ぐ芸を身につけた。飲む剣は実戦用の物ではなく、細い剣である。この旅に持って来ていなかったが、芸の披露をする事になったので、寄った町で購入しておいたのだ。


「さーて。芸は披露したから、次は実力を見せないとね。──リョウマ、手伝ってくれるかい?」

 何故芸と実力披露の両方をしなくてはならないのか。今さら言っても意味がないのは分かっているので、稜真は「了解」と答えた。


 木剣と木刀での手合わせだ。


 学園で何度も手合わせしているので、慣れたものである。ただし、学園では模範的な剣しか使っていなかったディアンは今、違う剣を使っている。

 それだけ本気なのだ。

 本気のディアンと本気の手合わせ。幼少時からレオに鍛えられ、あちらこちらに連れ回されたディアンの剣は冒険者よりだ。フェイント、蹴り技なんでもあり。


 お互いに楽しくなって剣を交えていると、我慢できなくなったアリアが乱入して来た。


「おわっ!?」

「うっふふふふ。ま~ぜて~」

「こら! ディアンの実力確認の場だぞ!」

「だって楽しそうなんだもん。実力確認なら、私が混じってもいいじゃない」


 逆さづりで鬱憤がたまっているのは分かっていたので、後で相手をするつもりだったのに、ここで乱入するとは…。稜真はため息をついた。


「姫ちゃん。…俺…2人を相手するの?」

 アリアの木剣を受け止めているディアンの顔が青ざめている。実力を見せるのに稜真の胸を借りたが、勇者2人相手は無茶ぶりにも程がある。


「いや。俺と一緒にやろう」

「それは心強いや」


 ユーリアンと組んで対戦した時よりも動きやすかったが、それでも勝てなかった。



 20分後。息も絶え絶えの稜真とディアンが地面に転がっていた。「ウィナー!」とアリアが勝ち鬨を上げている。


「……負けたかぁ」

「うちのお嬢様が悪かったな」

「いやー。さすがは赤嵐の勇者様」

 ははは、と稜真とディアンは笑った。ディアンと組んだ稜真は手応えを感じたので、機会があればユーリアンと3人でラスボスアリアに挑んでみたいと思う。


 立ち上がった稜真は、体に付いたホコリをパンパンと払う。


「これで実力確認は終了したな。…全員優秀すぎるだろう」

「えっ? 私まだやってないよ?」

「……さっき、あれだけ実力を見せつけておいて何を言うやら」

「隠し芸やってないもん!」

「………それは必要なのか?」

「皆がやったんだから、私もやりたい~!」


 そんな訳で。アリアの隠し芸披露が決まってしまった。


 野営地周辺の大小様々な奇岩の中で、もっとも稜真とアリアの目を引いたのは10階建てのビルのような岩だった。その高さもさることながら、バルコニーのような出っ張りがあったり、窓に見える模様があったりと、マンションにも見える。


「9番アリア、行ってきま〜す!」


 そう言うと、アリアは岩山を登り始めた。

 ひょいひょい登って行く姿を、稜真はハラハラして見ていられない。稜真の心配を読み取って、ももとさちが落ちたら受け止められるようにスタンバイした。


 そんな心配をよそに、アリアは無事にてっぺんに到達した。どうやら登っただけで終わりではなさそうで、アリアは何やらシュ、シュシュッとカンフーポーズを取ってからピタリと止まった。


(何をやるつもりだ?)


 嫌な予感がした稜真は、全員にもっと距離を取るように指示をした。




 静止しているアリアは、どんな隠し芸にしようか悩んでいた。登って来たはいいが、何をやるか全く考えていなかったのだ。

 

「よ~し、決めた!」

 アリアは意識を集中して全身に魔力を流し、「秘技、グランドバスターミラクルパ~ンチ!!」

 適当な必殺技名と同時に拳を足下に叩き込んだ。


 ひびが入る程度を予想していたのだが、岩山はパカンと縦真っ二つに割れて左右に倒れた。


「お? おにょああああああっ!?」


 足場がなくなったアリアは当然落下。下で待ち構えていたももとさちが、無事に受け止めたのである。




 この日は色々とありすぎた。


 結界がとかれた静かな野営地には、稜真の声だけが響いている。その声をBGMに、アリア以外はすやすやと眠りについていた。


(ちょっと調子に乗っただけなのに~~!)


 アリアの岩山登りにハラハラさせられ、一歩間違えば仲間に怪我をさせる危険があった事やら、本人も怪我をしそうだった事やら、ディアンにパンツを見せた事やらなんやかやで稜真はキレた。


 雲に隠れた月明かりの下で、正座させられたアリアは長々とお説教を受ける羽目になったのである。


(うわ~ん! 私も稜真の声で安眠したいのぉぉぉっ!!)




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アリアなら地球割りいつかやりそうで怖い。地球じゃないけど。
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