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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第26章 王立学園2年生

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693.マダラの助言

『ボース!』

「キューイッ!」

 そらとちょこがマダラに尊敬のまなざしを向けている。


 ぽよぽよと揺れているももとさちの表情は読めないが、同じ感情を向けていると稜真には分かる。稜真の尊敬の念を感じたからだろうが、猫達からの尊敬を集めている彼は頼りがいがある人物に違いない。


(自分だったら、これだけおかしな点満載の人物を追求しないでいられないのに。ボスはすごいよなぁ)


 自覚していないが、稜真は従魔達と同じ瞳でマダラを見つめていた。そんな視線を向けられているマダラは、くすぐったくてならない。


 マダラは獣人である事を隠して、王都の猫を束ねている。

 普通の人間なら疑問を持ち、質問を浴びせかけるだろうに、稜真は何ひとつ聞こうとしない。いつから猫を束ねているのか、人としてどこで暮らして、何をしているのか。

 稜真がかもし出す雰囲気から信用に足る人物だと思ったマダラは、ある程度疑問に答えようと考えていたのだが。肩すかしにも程がある。


 主が信用したら、従魔もあっさりとこちらを信用する。お人好しな主従に、マダラの方が心配になってしまった。




(──それにしてもボスは格好いいなぁ)


 獣人姿のマダラは、髪をうしろで束ねている。茶色と黒色がメインのまだらの髪は、白やグレーもまだらに入り交じった不思議な髪だ。

 髪質は猫の時と同じなのか、ふんわりしているように見える。その髪を1つに束ねているのだが、束ねた髪はふさふさの尻尾に似ていて、まるで上にも下にも尻尾があるかのようだ。


「束ねておかんと、どうにもまとまりが悪くてな」

 稜真が髪を見ていると気づいたマダラが、そう言って頭をかいた。


 1度短くしてみたら、あちこちにはねて収拾がつかなくなり、腹を立てて刈り上げたら従者に嘆かれてしまった。以来、髪を伸ばしているのだ。


 マダラの年齢は40代だろうか。

 魅力的なバリトンボイス、右目に走る傷跡、不敵な笑み。いかにも手下を抱えていそうな雰囲気。細身ながら鍛えられた体は鋼のようで、海賊アニメに登場してもおかしくない人物だ。


 こんな風に年齢を重ねたいと思わせてくれる、魅力的な男なのだ。

 稜真が1番憧れているのはグスターヴァスだが、どれだけ鍛えても身体に筋肉がつかないので、諦めかけていた。だが、マダラのような人物になら、なれるのではなかろうか。


(憧れるなぁ)



「リョウマ。今日声をかけたのは、匂いの隠し方を教えるだけじゃない」

「え?」


 マダラが話を続けようとした時、そらがピクリと反応した。


『あるじ、なにかくる』


 マダラは猫に姿を変え、『部下共だ』と言った。猫になったので、猫達に獣人なのを隠していると稜真は分かった。


『あ、俺はどうしたら』

『お前はそのままでいい。今さらだ』

『そうでしたね…』

『言葉に気を付ける訓練もしとけ。猫は人の言葉も理解できる』


 つまり、人間の姿で猫語を話すなと言っているのだ。言われて気づいたが、稜真は無意識に相手の姿に合わせて猫語で話していた。


「……気を付けます」

 稜真とマダラが警戒していないので、従魔達も気を抜いた。


「ク…ゥ…ルニャ。ニャウ」

「キュ…ニャウ?」

 そらとちょこが猫の鳴き真似にチャレンジしている。声を出せないももとさちの頭には、こっそり猫耳が生えていた。可愛い、とほっこりしようとした稜真は、現われた部下猫達に群がられてそれどころではなくなった。


『若だ!』

『若〜』

『おお? 若、ボスの引き継ぎっすか?』


 ミミオレ、ウマヤ、クツシタ、オナシ、クロ、ブチ、ミケ、オナシ。稜真が名前を知らない猫もいるが、皆が魔貂と戦って稜真が回復薬を飲ませた猫達だ。

 もふもふにまみれて幸せを感じそうになるが、駄目だろう!?と気を引き締める。


「………ボス。あの呼び方をやめさせて貰えません?」

『ククッ。無理だ』

「説得する努力は!?」


 ユニコーンにまみれるよりは精神的ストレスは低いものの、若呼びは困る。──もふもふに慕われるのが嫌ではないのがまた困る。


『お前等いい加減にしろ。報告があるんじゃないのか?』

『そうでした!』


 ミミオレが前に出てマダラに報告を始めた。内容を聞いた稜真は頭痛を覚えて、額を押さえる。


 ──報告は冒険者ギルドについてだった。


 王都の夜が何やら騒がしい。

 何者かが建物の屋根や壁を飛びかっている。

 どこかの間者なのか、何が目的なのか。


 存在に気づいたのは、気配察知のスキルレベルが高い職員だったが、その正体が分からない。

 まだ城から問い合わせは来ていないが、来る前に調べて置くべきだろう。依頼を出すべきかどうか、ギルドでは判断に迷っているらしい。


 冒険者ギルドに出入りしている猫は何匹かいる。

解体で出た屑肉の処理を手伝ってやっているのだ。猫好きな職員は多く、餌を与えながら愚痴をこぼしたりするので、聞かされている猫はギルドの情報に詳しい。


 魔貂のように、王都に潜んでいる魔獣がいたとしたら、その情報が入るのは冒険者ギルドか騎士団だろう。マダラはどちらにも手の者を送って、情報を集めていた。


『冒険者ギルドが問題じゃない。夜の闇でこれ見よがしに動く連中がいるせいで、後ろ暗い奴らが息を潜めた』


 騎士団が何やら調査しているという噂も広まっていて、行動を自粛する組織も現れた。裏社会の盗賊や暗殺者等、後ろ暗い者ほど勘ぐる。


 夜に騒がしい原因について、マダラはすぐに気づいた。マダラだけでなく気づいた部下もいたのだ。コボルトの動きを観察すれば、ただ単に鍛錬しているだけだと理解できて脱力。コボルトの棲み家を調べれば、メルヴィル伯爵家に行き着いた。


『リョウマ。犬共はメルヴィル伯爵家の者だろう。なにか対策しておけ』

「………はい。ありがとうございます」


 猫関係の騒動で、コボルト達に注意するのをうっかり忘れていた稜真なのである。




 助言を貰った稜真は翌日の放課後、アリアと一緒に冒険者ギルドを訪れて、ベティを呼んだ。

 別室に移動し、王都の夜を騒がせている輩の正体を聞いたベティは、大きなため息をついてテーブルに突っ伏した。


「………はぁ…」

「ごめんなさい。アンとペルに注意したし、他のコボルトにも屋敷の外で鍛錬しないように言い聞かせたから」

 ゆるして?とアリアは手を合わせて愛想を振りまいた。


 稜真がアンとペルに話をした時、まさか気づかれていたとは思いもしていなかった2人は指摘されて固まった。それだけ自分達の動きに自信を持っていたのだ。


 アリアも気づいていなかったし、稜真も猫になって初めて気づいたのだから、優秀なのは確かだ。だが索敵に特化した冒険者はいるし、後ろ暗い稼業の者共はもっと気配に敏感だ。

 コボルトの行動でメルヴィル伯爵家に目を付けられる可能性もあると聞かされ、2人は猛省していた。


「…どうやって上に説明したらいいのかしら…」

「それなんですが、『山から都会に下りて来て、浮かれてしまったのです』と自分で説明に来るそうです」

「アンとペルが、うるうるピルピルして告白したら、絶対ほだされるでしょ?」

「………それは…そうね」


 ベティは、町でコボルトを見かけたと、嬉しそうに語っていたギルド長の姿を思いだした。


「なるべく早く来て欲しいわ」

 大きな問題になりかけていて、5つのギルド全部で話し合われる会議が明日に迫っていた。その場に2人を出席させると決めた。


 大方の予想通り、強面ギルド長達はあっさりアンとペルに陥落する事となる。




 ベティへの告白をすませて、ギルドの外に出た稜真は思わずずっこけた。

 見知った猫達が集まって、ピシッと凛々しい顔をしておすわりし、扉の両脇に並んでいたのだから。


「わ〜お。猫の出待ちなんて初めて見た」

 アリアがぷぷっと笑う。

「俺も初めてだよ…」


 出入り口でこんな真似をされて誰も文句を言わなかったのかと思ったら、用事のある人間を裏口に誘導しているではないか。どうやらここの冒険者は、猫好きが多いらしい。


「君達は何をしている?」

『若の手助けをしようと思って!』

『なんでもやりまっせ~』

『ご指示を!』


 稜真に向かって猫達が言う。


 猫の手を借りる予定はない。適当な事を言おうものなら、すぐさま行動にうつりそうだ。そんな彼等に、手助けの指示なんてもっての外である。稜真はただひと言「散れ」と言った。

 稜真のひと言でピシッと姿勢を正した猫達は、蜘蛛の子を散らすようにあっという間に姿を消したのである。


「帰ろう」

「うん。帰るのはいいんだけど、稜真に新たな二つ名が増えたみたいよ〜?」

「………帰るぞ」

「は~い」




 稜真に付けられた新たな二つ名。それは『猫使い』だったりする。



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