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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第26章 王立学園2年生

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663.対面の前に

「はぁ…」と、稜真はいつもよりも深いため息をついた。


 どこぞの女神さんが面白がってつけた称号に効果なんてない。ないったらないと自分に言い聞かせて、稜真は称号を非表示にした。

 横道にそれてしまったがお手入れを始めるか、とアリアの髪を乾かす所から始めた。──のだが。


 椅子に座ったアリアは稜真に背を向けている。その背中から不穏な空気を感じるのだ。


(うっふふふふ~。『万物』って『万物』だよね。つ・ま・り! 線の細いたおやかな精霊の少年とか、小生意気な獣人の少年とか、麗しいエルフの青年とか…。ふ…ふふっ。ふふふふふ。みんなみ~んな稜真が調教しちゃうのね! 調教ならドS様が降臨するのかな~。是非とも調教現場を……っ!?)


「痛たたたたっ!? り…稜真? 頭が…ミシミシ鳴ってる気が…するのですけど…」

『………黙りなさい』

 稜真の声音が、雰囲気が変わった。


「ひゃいっ!!」

 頭を押さえられているアリアは振り返れない。


『先日からお嬢様の妄想は治まるどころか、加速している気がしてなりません。きっちりとお話しさせて頂きませんと』


「ひっ!? もしやドS様!?」

『その呼び方は頂けません。お嬢様』

「申し訳ございません!!」

『私から罵られたいとのご要望でしたね?』

「そのような要望は出していなかったと思いますですけど?」

『くくっ。お嬢様がご満足行くまで、たっぷりと罵って差し上げましょう』

「ひえぇぇぇっ!?」



 罵られながらのお説教&お手入れが終わると、マナーレッスンのおさらいをさせられた。このところお説教やお仕置きはされていてもマナーレッスンは授業のみだったから、アリアはうっかりミスを多発してしまった。ドS様の雰囲気に怯えてしまったせいでもあるが、そんな言い訳を聞いて貰える空気ではなかった。


 厳しいマナーレッスンは深夜まで続く。


(ううう…。罵りボイスは聞きたかったけど、自分が罵られたい訳じゃなかったのに…。調教シーンは見たくても自分が調教されるのはイヤ~~~っ!!)


 イヤと思っているのに、稜真の声で顔がにやけるのはいかんともし難く。


『そのお顔はなんです。お嬢様は状況を理解しているのですか?』


 稜真の罵りとレッスンの厳しさが増し、悲鳴を上げるアリアであった。




 ──後日。


 学園でマナーは、全生徒が学ぶ一般教養必須教科となっている。ドS様のレッスンのお陰で、アリアは教師から直々にお褒めの言葉を頂いたのだった。




 さて。稜真とアリアが学園に行っている間、マーシャは瑠璃と伯爵邸内の雑務をしているが、有能なアンとペルがいるので仕事は多くない。空いた時間でマーシャは、ブランと絆を深めるようにしている。


 それでも時間が空くので、せっかく冒険者ギルドに登録した事だし、初心者が受ける薬草の採取依頼を受けてみた。マーシャだけで行かせるのは不安だった稜真も、アンが修行がてら付き添うと言ってくれたので安心できた。一応何かあった場合の拘束係として、ももを付けた。──本当は瑠璃も行きたかったのだが、精霊の正体がバレる危険性があるので断念したのだ。


「ブラン。この薬草がどこに生えてるか分かる?」

 ブランは薬草の匂いをクンクンとかいだ。

『分かるでし! 向こうの方にあるでし!』

 ブランはそちらの方に何歩か歩いてから、マーシャを振り返る。王都から外に出る前に、勝手に走り出さないように言い聞かせられているのだ。これまでなら言われていても忘れて走っただろうが、そこはしつけの成果であろう。


 幸い魔物には遭遇しなかったが、マーシャは魔物を倒した経験がある。メルヴィル領でスタンリーに指導されていた時、イネスと一緒に経験を積まされたのだ。


 イネスはこれまでにも増して料理の勉強を頑張っている。


 

 こぢんまりとした王都の伯爵邸に専属料理人はいなかったが、新しいお屋敷が建ったらそうはいかない。領地の料理長を任されているライダルは、結婚して子供も出来たので領地を離れるつもりはない。その為事務所では、メルヴィル領出身で腕の良い料理人がいないか探している。

 イネスが頑張っているのは、王都の伯爵邸に行きたいと願っているからだ。やはり王都は憧れの場所だし、きっと色んな料理があるだろう。もっと料理を学びたい。ついでに稜真の近くにいたいという気持ちもあった。




 採取を終えてマーシャ達は王都に戻った。


 何事もなく門をくぐると、アンは用事があると言ってどこかに行ってしまった。可愛らしいコボルトのアンと歩いていると人目を引いていたのだ。アンがいなくなった途端に視線がなくなり、マーシャはホッとした。


(王都かぁ)


 マーシャは、改めて町並みを見回した。

 馬車がすれ違える広々とした道、あちらこちらに流れる水路。建物もメルヴィル領より高い建物が多い。何よりも人の多さに目が回りそうになる。

 まだ見て回った場所は少ないが、賑やかでせわしないと感じた。メルヴィル領だって近年は訪れる人が増えて賑やかになっているけれど、それとは違う賑やかさだ。どう違うとは説明できないのがもどかしいが、マーシャはメルヴィル領が好きだ。


 親戚に会う日はきっと近い。マーシャはそのつもりがないけれど、王都に住む日が来るかも知れない。


『マシャ。どうかしたでしか?』

「ううん。なんでもないよ。さ、ギルドに報告しに行こう」

『はいでし!』




 マーシャとブランが受けたのは、採取依頼だけではなかった。王都内で配達をしたり、届け物をしたり。細かな依頼も受けた。それはブランが考えなしに動かないようにする勉強の為であり、マーシャがブランをどう動かすかの勉強でもあった。

 商業区内のお使い依頼は特に多かった。


 商業区には、もしかしたら祖父の商店があるかもしれないと思っていたが、商業区にはないと伯爵家を訪ねて来たグレゴリーが教えてくれた。

 マーシャの祖父バルナバは貴族相手の商売をしているので、店は高級商業区にある。グレゴリーは店の場所も教えてくれた。ブランを連れているマーシャは、商業区と一般住宅街しか行かないようにしていたので、わざわざ見にいこうとは思わなかった。


 白い子犬を連れてお使い依頼をこなすマーシャは、商業区と一般住宅街で次第に知られるようになる。


 足をくじいた老婦人を助けて持っていた回復薬で治したり、迷子を見つけてブランと一緒に親を探したり、水路に人形を落として泣いていた女の子の為にブランが水路に飛び込んだりもした。無事に人形をくわえて戻ったびしょ濡れのブランが、マーシャと女の子の前でブルブルしなければ満点だったのだが…。


 そんな日々を送っていると、ようやく祖父との対面が決まった。


 あれだけマーシャと会うのを拒んでいた祖父だ。どんな顔をして会えば良いのか分からない。不安なマーシャだったが、アリアと稜真が付き添ってくれるので頑張ろうと決めた。


 対面する場所はフォーテスキュー侯爵家となった。


「マーシャお嬢様。こちらへどうぞ」


 いかにもといった風情の執事に案内され、緊張しながら廊下を進む。

 アリアが手を繋いでいてくれるので心強い。──ちなみに稜真は、玄関を入ってすぐに侯爵家の双子に連れ去られてしまった。


 今日は、さすがにブランは留守番させた。


「こちらでお待ちかねです」

「ありがとうございます」


 案内された扉を開けると、ソファに腕組みをして座っているグレゴリーがいて、そのとなりにグレゴリーに負けないくらい厳つい顔をした老人が座っていた。

 その老人はマーシャを見ると、カッと目を見開いた。厳つい冒険者に慣れているマーシャでも思わず後ずさる迫力だ。


 ゆらり、と立ち上がりこちらへつかつかとやって来たかと思うと、マーシャはガバっと抱きつかれた。抱っこというよりは羽交い締めに近い。


 次いで。


「うぉおおおおおーっ」と、勝ち鬨と勘違いしそうな大声を上げての号泣に、マーシャは目を白黒させて固まっている。




「う~ん」


 羽交い締めをほどいてマーシャを助けるべきか、それとも様子を見るべきか。判断に迷うアリアであった。


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