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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第3章 再会

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67.レンドル村へ

 きさらからの景色を堪能していると、レンドル村が見えて来た。飛び立ってから、まだ1時間も経っていない。


「早いね。馬だと何時間掛かるんだろう?」

「あれ? 稜真はどうやって山まで行ったの?」


 村を出てから稜真に会うまで、アリアの記憶は曖昧だ。馬に嫌われて乗せて貰えず、山まで走った覚えはある。稜真が嫌われる訳がないから、きっと馬で移動したのだろう。

 それなのに時間が分からないのは何故だろう、とアリアは不思議に思った。


「アーロンさんの馬に乗せて貰ったんだよ。でも俺、途中で眠ったから時間は分からな──」

 稜真は途中で言葉を止めた。前に座っているアリアから、怪しい気配を感じるのだ。

「なぁ、アリア。何か余計な事を考えてないか?」

 にんまり笑って妄想にふけっていたアリアは慌てふためいた。自分の表情が見えない筈なのに、何故分かったのだろうか。


「え、えへへ?」

「何を考えたのか、正直に言ってみようか?」

「な、何も考えてないよ! 本当だよ! ほんのちょっぴり妄想しただけなの! 馬で眠ってたなら、きっと体をアーロンさんに預けてたんだろうなとか、横座りしてたら最高とか、眠っている稜真を支えて2人乗りだなんて、稜真がまるでお姫様みたいだなとか想像しただけなの!」

 取り繕ったつもりが繕いきれず、背後から冷気を感じて、アリアは更に慌てふためく。


 お姫様抱っこでダメージを受けていた稜真は、追い討ちをかけられ、頬がひきつるのを感じた。

「……そうか。そんな事を想像したんだ。今度まとめてお返ししてあげるから、覚悟しておいて」

 稜真は低い低い声で、アリアに告げた。

「あわわわわ…」


(怖っ! さすがに萌えられないよぉ! …ああでも、稜真様の低く響く声…格好いい……)


 萌えられないと言いつつも、しっかり萌えている所がアリアである。




 稜真とアリアは、村からは見えないだろう位置で、きさらから降りた。グリフォンを屋敷に連れて行けるかはっきりしないので、しばらくきさらの存在は隠しておく事にしたのだ。


「ありがとう、きさら。またね」

 そう稜真が言って喉元を撫でると、きさらは「クォン」と一声鳴き、飛び立って行った。石笛で帰す事も出来たのだが、近いから飛んで帰るという、きさらの意思が伝わって来たのだ。


「またね~」と、アリアがきさらに手を振った。

 稜真はアリアにバレないように、そっと息を吐いた。体のだるさが抜けていない。山では瑠璃が度々回復してくれていて、ここまでの疲れは感じなかったのだが。別れ際にしてくれた回復効果が切れてきたのだろう。


 そらがアリアの肩から、心配そうに稜真を見ている。大丈夫だよと思いを込めて、そっと撫でてやる。

「行こうか」

 稜真は言うと、疲れを顔に出さないようにして、ゆっくりと村へ歩き出した。




 村の入り口にいた男が2人を見つけて叫んだ。

「アリア様、リョウマ様、お帰りなさいませ! おーい! お2人が戻られたぞ!!」

 集まった村人達の中から、男女が駆け寄って来た。真ん中にはサージェイの姿がある。

「申し訳ございません、リョウマ様。この子のせいで、お怪我を…」

 その男女は、サージェイの父ベンと母テレサだった。3人で深々と頭を下げている。


「俺はこの通り大丈夫ですから、頭を上げて下さい。それにサージェイには助けて貰いました。あの魔獣から隠れる場所を教えてくれましたし、助けを呼んでくれました。彼が頑張ってくれたから、俺も助かったんですよ」

 そう言って、そっとアリアの背を叩く。アリアはサージェイを見て、顔をしかめていたのだ。


(…そうだ。あの子も必死で…頑張ってくれていたっけ)


 アリアは、稜真が怪我をした時、サージェイが必死に走り回っていた姿を思い出した。


「兄ちゃん、助けてくれてありがとう。それと、ごめんなさい。……怪我、大丈夫?」

「もう大丈夫だよ」

 稜真は軽く笑い、サージェイの頭を撫でた。サージェイの両頬が真っ赤に腫れている。

 家に帰ったサージェイは、テレサにひっぱたかれた後、ベンにも叩かれたらしい。巫女が治療を申し出たが、サージェイ自身が断った。自分が起こしてしまった事への、罰なのだからと。


「それよりも。どうして皆さん、俺に『様』付けなさるのでしょうか?」

 アリアはともかく、これまでは『リョウマさん』と呼ばれていたのだ。


「リョウマ様の倒された魔獣の話は、アーロンから聞いております。アーロンは、サージェイから話を詳しく聞いて、確信したそうです。あの魔獣は次には村を、人を襲っただろうと」

 サージェイの父親は、そこで息をつき、周りの村人達と頷き合った。


「家畜小屋の壊され方からして、もし村が襲われていたら、全滅していた可能性が高いそうです。村を救って下さった恩人を敬うのは当然でございます」

 きっぱりと言われ、稜真は受け入れるしかなかった。サージェイの両親は改めてお礼を言った。

「この子を、村を助けて下さって、ありがとうございました」

 後ろにいた村人達も、揃って頭を下げて来る。不甲斐ない自分に頭を下げられては居たたまれない。稜真は困り果てていた。


「ほらほら、そのくらいにして、お2人を休ませて差し上げましょう。お2人とも、今日は家にお泊り下さい」

 稜真を見かねて、村長が言ってくれた。稜真は村人達に頭を下げられている事に、身の置き所のなさを感じていたので、ありがたかった。

 村人達は口々にお礼を言いながら、立ち去って行った。


 稜真とアリアは村長の家へ向かった。その途中、ついて来たサージェイが、どうして岩場に行ったのか話してくれた。


「友達にカレンって女の子がいるんだけど、体が弱くてさ。すぐに熱を出して体調を崩すし、いつも食欲がないんだ。プルムの実が大好きだから、食べて元気になって欲しかったんだ」

「そうだったのか。プルムの実は渡した?」

「ううん。これを採りに行ったせいで兄ちゃんに怪我させて、皆に心配かけたと思ったら渡せなかった」

 サージェイは、ポケットからプルムの実を取り出した。大人の拳大程の大きさの赤い実は、あの騒動でも痛んでいない。


「渡しておいでよ。俺は大丈夫だったんだからさ。でも、これからは無茶しないようにな」

「約束する! 俺、兄ちゃんみたいに格好いい冒険者になるんだ!」

 アリアや瑠璃、そらに散々心配かけた自分が言う事ではないと思うが、「家族に心配かけないように頑張れよ」と稜真は言った。

「うん!」

 サージェイは稜真に手を振ると、カレンの家に向かって走り出した。


「ん~? 稜真、どうして顔が赤いの?」

「格好いいなんて、言われた事がなかったからね」

 演じたキャラクターは美形揃いだったから、イベントでは稜真にも黄色い声は上がった。だが、あくまでもキャラクターの魅力であり、自身は平凡だという自覚がある。

 サージェイは素の稜真を格好いいと言ってくれたので、なんとも照れくさいのだ。


「稜真は格好いいよ? 何を今更」

「はいはい。どうせ声だけでしょ? お世辞はいいから行くよ」

 稜真は肩をすくめ、先に立って歩き出す。

 アリアはため息をついて、稜真の背中を見つめた。


(声だけじゃなくって、全部格好いいって思ってるんだけどなぁ。言っても信じてくれなさそう。そりゃあ今でも声は大好きだけど、それだけじゃないのに。出会った頃と違って、今の稜真は戦う事を知って強くなってる。童顔は変わってないけど、身に纏う雰囲気が違っている。だから本当に格好いいのにね。──って、私がいくら言っても、信じてくれないんだろうなぁ)


 アリアはもう1度ため息をついて、稜真の後を追いかけるのだった。





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