6.稜真のスキル?
風の蛇が捕らえたのは、水色の鳥だった。
小屋の前に座る稜真が動かずにいたので、好奇心に駆られて近寄って来たのだろう。たまたま、この鳥が近寄って来た時と術の発動が重なり、風の蛇が捕えてしまったのだ。
「クルルゥ…」
捕らわれた鳥は、風の蛇が捕らえたままの状態で地面に転がり、不安げに鳴いている。稜真が鳥を見ると、その情報が目の前に浮かんだ。
名前 未定
性別 メス
種族 ライム・パロット(幼体)
レベル1
氷の魔力を持つ魔鳥。
リョウマ・キサラギの従魔。
「ステータス、だよなぁ、これ。見ると浮かぶなんて、ゲームっぽい」
どういう条件で見えているのかも分からない。試しに自分のステータスが見られないか念じてみたが、見える事はなかった。
「魔鳥…か…。そりゃあ、召喚魔法が使えないかと思ったけど、まさか冗談でやったゲームの呪文が発動するなんて…」
稜真は頭をかいた。
これで、この鳥は自分の式神になったのだろうか? 大体、式神という概念がこの世界にあるのだろうか? 稜真の疑問は尽きない。
半透明の蛇が捕まえている鳥は、しばらくバタバタと暴れていたが、今は大人しくなり稜真を見上げている。
「蛇、その子を放してやれ」
稜真が言うと、蛇は鳥を解放し風に溶けた。言う事を聞いてくれるかが心配だったが、ひとまずホッと息をつく。
解放された鳥は立ち上がって、羽をパタパタと動かした。逃げようとはせず、稜真をうかがうように首を傾げている。
「いきなりごめんな? おいで」
優しく招くと、鳥は稜真の手に飛んで来た。
「クルルルゥ」
喉をならすように鳴く鳥は、まだ羽も生えそろっておらず、ふわふわの産毛が残っていた。きっと、巣だって間もないのだろう。
ステータス情報には、幼体と表示されていた。偶然とはいえ、子供の鳥を捕えてしまうなんて…、稜真は罪悪感にかられた。
大きさは鳩くらいだろうか。ずんぐりとした体形で、大きめの嘴を持つオウムのような鳥だ。目がくりくりしていて可愛らしい。
左手に止まった鳥をそっと撫でてやると、気持ちよさそうに「クゥ」と鳴く。
鳥はすりすりと、稜真の手に頭を擦りつけた。羽毛はふわふわで、産毛は更にふわっとした手触り。触れた手に感じられる温かさに申し訳なく思う。
改めて鳥のステータスを見ると、『リョウマ・キサラギの従魔』との表示に気づいた。『式神』ではなく『従魔』。この世界的な修正なのかは分からないが、完全に自分が捕らえてしまったのに間違いはなさそうだ。ついでに名前の表記は、姓と名が逆なのだと分かった。──思えばギルドカードにそう記載してあったが、色々ありすぎてスルーしていた。
こうなれば良い名前を付けて可愛がってやろうと思うが、全く名前が浮かんで来ない。
(どうしようか…。水色っていうよりも空色って感じだよね。空色だから、『そら』。それしか出て来ないって……。俺、ネーミングセンスなさすぎだろう…)
自分で突っ込んでみたものの、どうしても他に名前が浮かばない。空色だから『そら』では、あんまりだと頭を絞って考えるが、出て来ないのである。
「…そら…」
「クルル?」
「そら」
「クルルルル!」
「お前の名前、そらでいいか?」
「クルゥ!」
そらは、嬉しそうに稜真の周りを飛び回る。
「センスなくて、悪いな」
「クルルゥ!」
そらは、嬉しそうに稜真に頭を擦り付ける。
「あははは、気に入ったのか?」
稜真はしばらく、そらと戯れていた。
ふと、右手方向から熱い視線を感じた。
稜真が目をやった先には、木陰にしゃがんでいるアリアがいた。頬に手を当て、ほわんとした表情で、じっとこちらを見つめているのだ。
「……なぁ、そこの不審者さん。出て来たらどうかな?」
「はふぅ。鳥と戯れる稜真様、いいわ~」と、呟いている。果たして、稜真の声が聞こえているのだろうか?
「いつから見ていたんだ、アリア?」
「笑い声がもう最高…」
アリアはしゃがみ込んだままである。そらが頭に乗り、ツンツンと突いても全く反応しない。
稜真が近づいても気づかない。稜真は深々とため息をつくと、アリアのこめかみをグリグリと抉る。
「痛たたたっ!!」
「だ・か・ら! いつから見ていたのかって、聞いているんだよ!」
「えっと、九字を切った辺りからかな」
それは、ほぼ最初っからではなかろうか。牛狩りが早く終わったのか、それとも稜真が考え込んでいた時間が長かったのか。
「……という事は、呪文…聞いた?」
「もっちろん! そのあと稜真様を取り巻いた風が、蛇に変わって鳥を捕まえた所まで、ばっちり見たよ! ゲームのまんまだったなぁ~。恰好よくって、ドキドキしちゃった! ごちそうさまです!!」
「……また『様』…ついているぞ。なぁ、俺さ。結構長い時間、そらと遊んでなかった?」
「え? そんなに時間たったかな?」
立ち上がろうとしたアリアがよろける。
「あ、あれ? 足がしびれてますね…。えへへ~。ねぇ稜真様、顔赤いよ?」
(よろけるまでの長時間、熱中して見ていた、と。くそぉ、俺をからかうとは、いい度胸だ。覚えてろよ…)
稜真がじろりとアリアを睨むと、そそくさと目をそらす。
「冗談で試していた事を見られていたら、恥ずかしくなるのは当然だろうが!」
しかも身ぶり付きなのである。
「だって、思わず見入っちゃったんだもん。でも、冗談から出た真だよね。風の力を使うのが、稜真のスキルなのかな?」
「どうなのかな。あー、ちなみにこの世界には…」
「聞きたい事は分かるけど、あんな呪文はないと思う。風系統の魔法はあるし、魔獣使いは魔獣をテイムするよ。でも、風を蛇にして魔獣を捕らえるなんて、聞いた事ない」
「やっぱりか…」
ここが乙女ゲームの世界といえど、稜真が使ったのは他のゲームの呪文なのだ。まず間違いなく自分のスキルだろうが、何故発動したのか法則が分からない。
「他にも捕まえられないか、試してみる?」
「しばらく考えさせてくれ。アクシデントで捕まえてしまったこの子を、大事にしてやりたいし」
そう言って、稜真はそらの頭を撫でた。そらは稜真から離れたくないのか、その肩に乗り、頬に頭を擦りつけている。
「そっか。それなら町に向かいましょ。ギルドに報告と牛の納品に行かなくちゃね」
「町は遠いのか?」
「そうでもないよ。ここから1時間くらい~」
そして、2人と1羽は町に向かって歩き始めた。
そらは少し辺りを飛び回っては、稜真の肩や頭に戻って来る。たまにアリアの頭にも止まった。
「そらって綺麗な色だね。青空の色みたい。ん? もしかして『そら』って名前は…」
「……聞かないでくれるかな…」
「うふふ、そらが気に入ってるみたいだから、いいんじゃない。可愛いし」
「呼ぶ時は平仮名で。平仮名…、あれ? こっちの文字って?」
「日本語じゃないよ~。私はいちから、言葉を覚えたもの」
「話している言葉も?」
「今、話している言葉も、日本語じゃないよ~」
全く意識していなかった稜真は、改めてギルドカードを取り出してみた。表示されている文字は、確かに日本語ではない。だが問題なく読めるし、書くのも大丈夫な感じがする。
「……そらって名前は、平仮名の方が可愛いのになぁ」
(そこに拘ってたんだ…。あ~ん、稜真様が可愛いよ~)
こっそりと身悶えるアリアである。
「言葉が分かるのは、女神さんの加護なんだろうな。助かるけど。でも、俺の中では『そら』は平仮名。アリアもな」
「はい、了解しました!」
アリアはピシッと敬礼した。
「……それで、ね。聞くのを忘れてたけど、稜真は私と一緒にいてくれるの?」
「女神さんに頼まれたからね」
「そう…だよ…ね。頼まれたから…だもんね……」
アリアの表情はくるくると変わる。明るく元気な表情が物憂げに曇った。まだ短い付き合いだが、アリアは元気な顔をしている方がいい。稜真はそう思って、アリアの頭に手を乗せた。
「頼まれたからだけど、俺はこの世界が分からない。アリアに教えて貰わないといけないからな。──それに」
「それに?」
「アリアを見ていると面白い。どこか抜けている所とか、ね」
ふっ、と笑うとアリアの顔が染まる。
「面白いとか抜けてるとかって、ひどいよ!」
「ははっ! この世界も気になるし、学園までつき合うさ。──ハリルには会いたくないけどな」
「本当に!? わぁい! 稜真様と学園に通える!」
「入学するとは言ってないぞ?」
今さら学生生活を送る気はないのだが、アリアは聞いていない。
「頑張って2人分のお金、貯めようね!」
この先どうなる事やら、全く先が読めない稜真であった。




