表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第3章 再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/801

59.目覚め

 目を覚ました時、稜真は1人だった。──いや、顔の右横にぬくもりを感じる。頭を傾けると、水色の柔らかな羽が見えた。

「…そ…ら…」

 力のない声しか出ない事に驚く。


 そらは稜真の声で飛び起きた。

「クゥ! ク、クゥ…ルル、クル……ルゥ…」

 鳴きながら、稜真に頭をすりつける。

「心配…かけた…ね。…ご…めん」

 思うように上がらない手をなんとか持ち上げて、そらを撫でる。


 魔獣から負わされた傷はどうなったのか。

 体はだるいが、痛みは全くない。手探りで触れてみたが、胸を切り裂かれた深い傷が消えている。腕にあった浅い傷も見当たらない。


(いったいどうやって…。魔法なのかな…? そんな事よりも、早くアリアを追いかけないと…)


 稜真はゆっくりと体を起こしたが、ベッドを降りた途端、めまいがして床に膝をついた。

「くっ…」

 体に力が入らない。回復の手立てが色々あるとルクレーシアに言われたが、頭に霧がかかったようで思い浮かばない。

「クルルゥ…」

 そらが心配そうに稜真に寄りそう。


 その時。

あるじ! 私を呼んで下さい! 早くっ!!』と、切羽詰まった瑠璃の声が、頭に響いた。

 ベッド脇には水差しとコップが置いてある。この程度の水でも呼べるのだろうか?

『瑠璃、おいで』


 すぐに現れた瑠璃に、ものすごい勢いで詰め寄られた。

「主! どうして怪我をする前に呼んで下さらなかったのですか!? あのくらいの魔獣、私なら倒せましたのに!」

「……倒せる、んだ。…だって、ね。水が…見あたらなかった…から……」


「確かに最初の頃は水がなくては、主の元に来られませんでしたが、今では力も戻りましたし、どんな場所でも呼んで頂ければ行けるのですわ! 次は、怪我をする前に呼んで下さい!」

 畳みかけるように、叫ぶように言われた。

 水がなければ呼べないと思っていたのだから仕方がないが、これも自分の確認不足である事は否めない。


「…それに…どれだけ心配したと思うのですか…。主の様子が伝わって来るのに、何も出来なくて…。お側についている事すら出来なくて…。もう…もう…会えなくなるのではないかって…!」

 瑠璃は膝をついている稜真に抱き着くと、ぽろぽろと泣き始めた。瑠璃が転移出来るのは、行った事がある場所か、稜真がいる場所だ。例え稜真がいても、呼ばれなければ転移出来ない。


「心配…したのですわ…」

「…ごめ、ん」


 ひとしきり泣いた瑠璃は、息を整えて赤い目で笑った。

「私、回復魔法が使えるまで、力が戻りましたの。主をお助けできますわ」

 そのまま顔を近づけて来た瑠璃を、稜真は身振りで止める。

「…アリアと、約束…したから、…口は駄目。…それに…その姿だと、…俺、犯罪者…みたい、だし、ね…」

 かすれた声で途切れ途切れに言うと、瑠璃の目に、また涙が浮かぶ。


「お助けしたいのに…。それでは、こちらの姿ではいかがですか?」

 瑠璃は以前の妖艶な美女へと変わった。

「姿の…問題じゃ、ないから。…瑠璃に、負担が…掛かるなら、なんとか…自分で動く、よ」

 稜真は立ち上がりかけて、またふらつく。瑠璃が抱きとめてくれた。自分の体がままならない事が、歯がゆくてならない。


「もう! 主の意志を尊重しますけど、私の負担うんねんではありませんのに。回復力が違うのですわ!」

 瑠璃は稜真を抱いたまま、回復の魔力を注いでくれた。瑠璃から流れて来る優しい魔力が、ゆっくりと体を満たして行った。まだ体のだるさは抜け切っていないものの、これなら動けそうだ。


「ありがとう、瑠璃」

「もう無茶しないで下さいませね? ──主、どうして目をそらすのですか?」

「アリアを迎えに行く」

「無茶しないでと、言っているではありませんか!」

 瑠璃は言われて初めて、この部屋にアリアがいない事に気づいた。あのアリアが、意識のない稜真を置いていなくなるのはおかしい。


「アリアは、どうしたんですの?」

「俺が怪我した事で切れたらしい。魔物を殲滅しに行ったと、女神さんが教えてくれた」

「アリアは馬鹿なのですか!?」

「俺もそう思うよ」


 殲滅とはどこまでやるつもりでいるのか。アリアは今、どういう状態なのか。止めに行くのは、歪みの問題だけではない。クロというドラゴンを殺し、あんなに苦しんでいたアリアを、一刻も早く止めてやりたかった。


「主は女神様にお会いしたのですか?」

「さっき、夢の中でね」

「私も行きますわ!」

「駄目。1人で行かせて。切れているアリアが、どんな状態か分からないんだ。アリアを止めたら呼ぶから、そらと一緒に湖で待っていてくれないかな?」


「私達を…お留守番させるんですの?」

「クルルゥ…」

 瑠璃は幼女の姿に戻り、その肩に止まったそらと一緒に、うるんだ瞳で稜真を見上げる。

「…その攻撃はずるいよ。でも、駄目。一緒に留守番していて、お願い」


 稜真に困ったような顔で言われてしまっては、それ以上無理は言えなかった。

「もう! 分かりましたわ。でももし主が倒れたら、この姿で口から回復しますからね!」

「それだけは勘弁して…。倒れないように気をつけるよ」


 そして瑠璃とそらを、一緒にそっと抱きしめた。

「心配かけてごめん。行って来る」

「主の方がずるいのですわ。呼んで下さるのを待っています」

「クルルゥ」




 瑠璃とそらを見送った稜真は、コップに水を注いで飲みほした。服を着替え、ベッドに置かれていた迅雷を腰に下げると、村長を探して部屋を出る。稜真がいた部屋は2階にあった。

 まだ少し体がふらつくので、壁に手をついて、ゆっくりと階段を降りる。

 話し声が聞こえる部屋に入ると、村長とアーロンが見知らぬ女性と話していた。


 村長は稜真の姿を見て、慌てて立ち上がる。

「リョウマ様、まだ起きてはなりません!」

「大丈夫です。ご心配をおかけしました」

 稜真は頭を下げた。


 アーロンは稜真の顔を見て肩をすくめた。

「村長、これは言っても無駄だ。せめて、話す間は座らせてやろう」

 アーロンが椅子を引いてくれたので、稜真はありがたく座らせて貰い、「はぁ」と息をはいた。


 隣の椅子に座っていたのは、長く淡い金の髪で白い服を着た年配の女性だ。心配そうに稜真を見つめている。稜真を癒してくれた巫女だと村長が紹介してくれた。

 以前イルゲに回復薬の話を聞いた時、神官や巫女が人々を癒したと言った。着替えた時に確認したら、胸の傷は綺麗になくなっており、あちこちに付いていた傷も消えていた。


「ありがとうございます。お陰様で助かりました」

「確かに傷は癒しましたが、失った血は戻っておりません。しっかり食べて、眠らなくてはなりませんのに…。まだ体はお辛いのでしょう?」

「今は、寝ている訳にはいかないのです」

「お身体で痛む所はございませんか?」

「痛みはありません」

 痛みはないが、体力が落ちているからか頭がぼうっとしている。早くアリアの元に向かわなくては、と気持ちばかりが焦る。


 村長の妻が、パンとスープを持って来てくれた。

「どうぞ、お食べ下さい。その間に、アリア様の事をお話します」

「…頂きます」

 話を聞かねば動きようがない。稜真はスプーンを手に取った。稜真が口に入れるのを確認してから、村長は話し始めた。


「明け方に、アリア様はお部屋から降りていらっしゃって、馬を用意するように言われました。家にも馬がおりますので、その馬をお貸ししようとしたのですが、馬が、どうしてもアリア様の言う事を聞こうとしないのです。他の家にも声を掛け、馬を連れて来たのですが、どの馬もアリア様を、そう、怖がっていたようなのです。私から見たアリア様の雰囲気も、今までとは違って感じられました。──結局、アリア様は徒歩で行かれました」


 村長はゆっくりと話してくれた。話し終わる頃には、稜真は食事を終えていた。

「アリアは、何か言っていましたか?」

「魔物を片づけて来る、そう仰っておられました」

 徒歩で向かったのなら、馬を使えば追いつけるだろうか。

「……ごちそうさまでした。俺はアリアを止めなくてはなりません。馬をお借りできますか?」


「リョウマ様」

 立ち上がった稜真に巫女が声をかけた。

「あなた様は、本当に危なかったのです。もしも、私が後一歩遅かったとしたら……。そんなあなた様のお側に、ずっとついておられたアリア様のお気持ちは、考えて差し上げて下さい」

 そこまでの状態だったとは知らなかった。巫女に癒され、瑠璃にも回復されたのに、体が異常にだるいのは、そのせいか。



 村長の家を出ると、いつの間に外に出たのか、アーロンが馬を引いて待っていた。いつもながら手回しの良い人である。

「俺の馬が村で1番大きく速い。乗せて行ってやる」

「アーロンさん、俺は1人で行かないと…」

 村長の話を聞いた限りでは、アリアの精神状態は危うい。他の人間を連れてはいけない。

「ふらついてる奴を、1人で馬に乗せられるか。それに、山へ着いたら馬はどうするつもりだ?」


 魔物の出る山に馬を連れて行けない。繋いでおく訳にもいかないだろう。稜真は、そこまで考えていなかった。

「……あ」

「馬を連れて帰る者も必要だろう。俺はリョウマを送ったら村に戻る」

「ありがとうございます。ドラゴンの棲む山まで、お願いします」




 ドラゴンの棲む山は、ドルゴ村で見た時よりも大きく見える。

 アーロンは稜真を前に乗せ、後ろから体を支えるようにしてくれた。馬を駆けさせず速歩にしたのは、稜真の体を気遣っての事だろう。


 揺れる馬上で、稜真は眠ってしまっていたようだ。馬の動きがおかしくなり、目が覚めた。

「すみません、アーロンさん。眠っていたみたいです」

「少しでも休めたなら、それでいい。山の麓が近くなったら、馬の様子がおかしくなった。──何か感じているのだろうな。どうやら、馬で行けるのはここまでのようだ」


 そう言われて山を見た稜真にも、不穏な空気は感じられた。

 敏感な馬は、もっと鋭敏に感じているのだろう。

「ありがとうございました。ここからは歩いて行きます」

 稜真は馬を降りた。


「…まだ顔色が良くない。止めても無駄なのは分かっているが、お嬢さんと会う前にやられるなよ」

「はい」

「必ず村に2人で戻って来い。皆で待っている」


 馬首を返して立ち去るアーロンの後ろ姿に頭を下げ、稜真は山へ向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ