表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第1章 出会いとスキル
17/757

17.スキルの検証

 冒険者活動に際し、2人が伯爵と約束した事は2つだけ。


 一つ、ひと月に1度は帰宅する事。

 一つ、無理はしない。


 ひと月に1度とは、長すぎないか伯爵に確認したところ、何ヶ月も音沙汰がない事が当たり前だったから、ひと月でもありがたいそうだ。


 アリアには知らされず、稜真が伯爵に約束した事がある。


 一つ、宿の部屋は別々。

 一つ、アリアには手を出すな。

 一つ、帰宅時にはマッサージを行う。

 一つ、自分の身の安全も考慮する事。


 誓約書まで書かされた。3つ目には目が点になったが、最後の1つは伯爵の優しさだろう。




 アリアが入学を目指している学園は、15歳から入学できる。4年間で卒業。専門的な授業を個人で選択し、専門的な技術を身につけるらしい。

 魔法や錬金術を極める者。武術を極め騎士を目指す者。国の内外の知識を身につけ、役人を目指す者など様々である。



 学園の入学金は、金貨20枚だ。

 月の学費は銀貨5枚。その他に教材費等がかかり、冬には暖房費も必要らしい。優秀な生徒は学費が免除になるらしいが、優秀になるつもりがないアリアは、考えに入れていない。下手をしたら、イベントを見るために授業をサボりそうだ。


 王都では伯爵家の別邸で暮らす予定である。

 学園の寮もあるのだが、規則に縛られてしまう為、少しでも学費を稼ぎたい2人には向かない。学園の休日は、ギルドで依頼を受けるつもりなのである。


 ちなみにこちらの世界のお金は、日本円に換算すると以下のようになる。


 赤銅貨  十円

 銅貨   百円

 黄銀貨  千円

 銀貨  1万円

 金貨  十万円

 聖金貨 百万円


 紙幣はなく硬貨のみだ。




「なあ、アリア。思ったんだけどさ、従者として学園に行くなら、俺の入学金いらないんじゃないの? 制服とか授業料とかも必要ないよね」

「え? だって、課外活動とか、同じクラスにならないと、一緒に行けないよ?」

「従者は主について行くんじゃないのか?」

「詳しく知らないけど、授業全部にはついていけないと思うし…。ほら! 私、何やらかすか分からないでしょ! 目を離したらいけないと思うよ!」

「やらかす事が前提!? 理由がそれって、どうなんだよ。──ところで、平民でも入学出来るのか?」

「平民も関係なく受け入れてるの。入学試験に受かれば大丈夫!」

「………入学試験…ね」


 貴族としての勉強をするだけなら、貴族用の学校があるそうだ。ユーリアンが通い、アリアが目指しているのは、貴族、平民問わず学べる学校。当然優秀な者に限られるので、入学試験は難しい。




 ちなみに伯爵は、従者として学園に連れて行くと思っている。アリアは同級生として、一緒に学園に入学するつもりである。

 入学年齢は決まっているが、お金に余裕のない平民は、学費を貯めてから入学する為、年齢に幅がある。


「2人分で金貨70枚あれば余裕かなって思ってるの」

「金貨70枚って、3年で7百万も貯めるって事?」

 今は秋である。入学はアリアが15歳の春。という事は、入学まで3年と少ししかない。


 入学金が金貨20枚。

 月の学費が12か月分で銀貨60枚、金貨で6枚。

 制服一式が金貨3枚。

 これを2人分で金貨58枚。それに加えて、王都までの交通費に宿泊費、そして日々の生活費がかかるので、多めに見積もって金貨70枚と見積もったらしい。貯まるのだろうか、不安そうな稜真にアリアは元気よく言った。


「私が2年で金貨20枚貯めたから、あと金貨50枚だよ。2人なら余裕で行けると思うんだよね~。頑張ろうね! そのためには、スキルの検証からだけど、うふふふ、色々考えてあるから、頼りにしてね~」


(毎回思うけど、何をやらされるのか不安になる笑顔だなぁ……)


 『冒険者のアリア』と『伯爵令嬢のアリアヴィーテ』は別人に思わせる話は、アリアも伯爵に聞かされたそうだ。

「目を付けられて、学園に行けなくなったら困るもんね。イベント鑑賞出来なくなっちゃうもんね! 気を付けなくっちゃ!!」

「基準が全部そっちなんだね…」





 まずは稜真のスキルを検証しようと、そらを連れてやって来たのは人目につかなさそうな森の奥。ここは、2人が初めて出会った場所でもあった。

 御者のマイケルが森の入り口まで送ってくれた。とりあえず、2週間は冒険者活動をする予定である。


 検証中は危ないから、そらには離れていて貰う。背後の木に止まり、そらは興味津々でこちらを眺めている。


「そらを捕まえた時の風の呪文、あのゲームの他の呪文から試してみない?」

「他の呪文ねぇ。そう言われても、中々思い出せないけどな。取りあえず、1つは思い出した」


 本来は術具を構えて行う呪文だが、そこは剣に変えてみる。稜真は剣を縦に構え、覚えていた短い呪文を発した。

風刃ふうじん!!』

 すると剣からシュシュっと風の刃が飛び出し、正面の木を切り裂いた。

「使えるね~」

「……使えるんだなぁ」


 剣を持たなくても、使えるかどうか。

 反対に言葉を言わないとどうなるか。

 アレンジは出来るのか。


 ──以上を試した。


 結果は、剣がなくても発動可能。だが威力は格段に落ちる。

 呪文なしでは発動しない。

 風を剣にまとわせて、魔法剣のようにすることは出来た。稜真のイメージでアレンジが可能という事なのだろう。切れ味が向上し、風の追加ダメージを与えるようだ。



「それじゃあ次は、他の技が使えないか試してみよう」

「他の?」

「例えば、ヴィーラント戦記の魔法使いサイガが、ライトの呪文唱えたでしょ」

「ヴィーラント戦記の…サイガ…?」


「テレビアニメのシリーズで、主人公達が立ち寄った町で出会う、白い長髪ローブの魔法使い。主人公を迷宮に案内するときに、ライトの呪文使ってたよ。その後、主人公を罠にはめようとしたけどバレちゃって、迷宮の途中でやられたキャラ」

「ああ。あんなちょい役、よく覚えているね」

 アニメでは、2話しか出演していないのだ。

「稜真様情報なら任せて!」


「はいはい。──魔法かぁ、杖なしで出来るのかね?」

 アニメでは、右手の上に光を出していた。

『ライト』

 昼間なので分かりにくいが、手のひらの上に、光の玉が出現した。宙に浮かせる事も、一緒に移動することも可能。強弱もつけられる。つまり、調整は稜真の意志で可能なようだ。

「うふふ~。他の作品でもOK。という事は……ふふふふふふ」

「…アリア…楽しそうだねぇ…」


「うん! すっごく楽しい!!」

「……そう…」


「次行ってみよう! あの岩に向かって、ライトニング・ブレードって、言ってみて~」

 アリアが指した岩は、稜真の身長の3倍はある大岩だった。

「どの作品のキャラで、どんな技だった?」

「いいから、いいから」

「ただ言うのも、恥ずかしいんだぞ…。ライトニング・ブレード」


「私をからかう時は、生き生きして色気出すくせに…」

 アリアは稜真に聞こえないように、ぼそりとつぶやく。


「何か言った?」

「言ってません! えっと、言っただけじゃ、何も起こらない、と。──次は、剣をこういう風に振りながら叫んで」

 アリアは体を回転させながら、飛び上がり、岩に向かって剣を振り下ろす。


「こういう風って、その動きはレベル高いぞ。俺に出来るかな? しかも叫べって……」

 今は言われた通りにするしかない。以前の自分には、到底できない動きだったが、1ヵ月の訓練で更に身体能力が上がったらしく、軽々と真似る事が出来た。

「ライトニング・ブレード!!」


 特に何も起こらない。


(いや~ん! 稜真様の叫び声~。はっ! いけない、集中集中!)

 稜真の声に意識を持って行かれそうになるのを、アリアは必死で抑え込む。


「動作と技名だけじゃ駄目みたいね~。稜真、今の技はね。ドラゴン・サーガの主人公クライヴの旅の仲間、ジェフが使う剣技で、光を纏って敵を倒すの。思い出さない?」

「ドラゴン・サーガのジェフ?」

「子供向けのファンタジーアニメ。稜真が20代後半の頃の作品かな。赤い髪がツンツンした頭の主人公クライヴの友達で、金髪の少年がジェフ」

「あー、思い出した。そう言えば、あんな技名だったか」

「ではでは、もう1度やってみよ~!」

「……もう1度、ね。了解」


 稜真は、思い出したアニメの画面を思い描き、先程と同じく剣を振りながら叫ぶ。

『ライトニング・ブレード!!』


 自分の体が光を放ったかと思うと、剣が大岩を真っ二つに切り裂いた。ただ真似た時と違って、自動的に体が動いた感がある。

「うわぁ…。自分でやったとは思えない、綺麗な切り口……」

 切り口はガラスのようにつるつるだった。

「なぁ、アリア。……あれ?」

 近くに見に来ていると思っていたら、最初の位置から動いていないアリア。稜真は近づいて声をかける。

「アリア? もしもーし、アリアさん?」


「ああ~。恰好いいよぉ。稜真様の叫び声、素敵すぎる」

 検証中は頑張って意識を集中していたアリアだが、上手く行きそうだと思ったら、煩悩に忠実になったらしい。


(またか…。このお嬢様は、ったく)




「思った通りだったよ、ふふ。他に稜真が使えそうなの、考えてみたんだけどね」

 正気に戻ったアリアは、アニメやゲームの作品名と技を次々と上げる。

「爆裂ヒーローのアルティメットバズーカとか闇姫伝の緋王斬とか…。あ、DEVIL&DEVILのダークソードだって使えるんじゃない? 夢が広がるよね~」

 割と最近の作品が多かった為、稜真にもすぐに思い出す事が出来た。


「どんな夢なのか…。少なくとも、俺の夢じゃないわ。──アリアは本当に詳しいよね。子供向けアニメに携帯ゲーム、……BLパソゲーの技まで…さ」


「それはあれよ、あれ、えっと…あれ。そう! 弟に付き合ってたからね!」

「BLは?」

「……」

「なぁ、BLも弟が?」

「そこは突っ込まないで下さい」



 ──結論。


 稜真のスキルは、行うキャラクターをしっかりイメージすることが第一。そして動きを真似し、セリフを言えば発動するようだ。動きなしだと威力が落ち、セリフなしだと発動しない。

 もう1つ、アリアに言われて気づいたのは、イメージをしてスキルを使った時、自然とキャラクターの声を作っていた事だ。


 欠点は、剣を使ってスキルを使う場合、剣の痛みが激しい事だろう。今回の検証で剣が折れた。




「今日は、宿に泊まろうよ。そうと決まれば、町に行こう!!」

「はいはい。元気だね、アリアは。なんだろうな…俺、師匠とユーリアン様の2人がかりで鍛えられた時よりも…疲れたよ」

「スキルを使いすぎたのかなぁ。宿にお風呂もあるから、ゆっくり休もうね」


(うん。使いすぎが理由じゃないと思うな…)





作中に出てくる作品名・呪文・キャラ名は架空のものです。

もし、存在していたらすみません m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ