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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第1章 出会いとスキル

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1.プロローグ

乙女ゲーム系の作品群を読んでいたら、この主人公が出来ました。

将来的には学園物になる予定です。


R15と残酷描写は保険で、ほのぼのコメディーを目指してます。


 その日は、月が綺麗な夜だった。

 男は出演していたアニメ番組の打ち上げの帰り、終電を降りアパートへ向かっていた。


(今日は結構飲んだな。そろそろ無茶は出来なくなったか…)


 少しふらつく足元に、体の衰えを感じ始める年齢かと、自嘲する。


 如月きさらぎ稜真りょうま35歳。本名で活動している声優である。中堅の声優…と本人は思っているが、元気な少年から落ち着きのある青年まで、幅広い役をこなし演技力に定評がある。その艶のある甘い声で、ここ10年は乙女ゲームの出演がとみに増えており、女性ファンの多い人気声優であった。


 容姿は、ごく一般的な日本人男性。良くもなく、悪くもなく、中肉中背撫で肩。強いて特徴をあげろと言われれば、童顔、と言った所だろうか。とても30を越えているようには見えない。

 その表情には、どことなく人の良さがにじみ出ていた。


 稜真はデビュー当時、バイトをしなくては食べていけなかった。仕事が順調になり、声優の仕事だけで食べていける現在を、ありがたく感じている。

 友人も多く充実した毎日を送っているが、彼女いない歴が長くなるにつれ、寂しさを感じるようになっていた。


(いかんいかん。せっかく気持ちよく飲んで来たんだ。今夜は暗い事は考えないぞ)


 明日は久しぶりに布団を干して、部屋の掃除もしよう、洗濯物も溜まっていたな、そう考えながら公園の脇を通りかかった。

 ここは木々が多く植えられた広い公園で、中央には噴水がある。昼間は子供連れ、夕方にはカップルの姿が多く見られる。さすがにこの時間、人気ひとけはない。



 ──稜真はふと、青く感じる月の光に魅かれた。



 秋の冴えた空気。深呼吸すると、酒に火照った熱を冷ましてくれている。

 ただ真っすぐ帰るのもつまらない。なんとなく、水に映る月が見てみたい、と風流な気持ちになった。


 木々がさざめく音を聞きながら、のんびりと公園の中央へ歩いて行く。


(ん? 水の音がしない…。噴水、止まっているのか?)


 いつもなら、この辺りまでくれば水の音が聞こえるのだ。稜真は残念に思ったが、せっかくだからと噴水まで歩く事にした。




「…なんだ、これ?」

 夢を見ているのだろうか? 稜真は自分の目を疑った。


 水が止まっている。

 出ていないのではない。噴水の中央から上がった水が、空中で止まっていた。水しぶきが宙に浮いているのだ。


 そのまま時間が止まったのであれば、水が落ちる水面は波立ったまま止まっているだろうが、不思議なことに水面は鏡のようだった。冴え冴えとした大きな月。その光を反射し、宙に浮いたしぶきがきらきらと輝く。


「……幻覚か? そこまで飲んだ覚えは…ない、んだけどなぁ…」


 余りにも現実感のない光景だった。稜真は不思議に思いながらも、空に光る月よりも、水面に映る月の輝きに魅せられた。

 水面は硬質なのだろうか、それとも柔らかいのだろうか。

 月に触れてみたい。そんな衝動に駆られ、そっと水面に手を伸ばして月に触れた瞬間──。




  ぐるり、と。



視界が。



    入れ替わった。



      稜真は水の中から自分を見上げている。



  水面を見下ろしている自分がいる。



                       その自分と、目が。



            合った気がした。








 下へ、下へと落ちる。



 不思議と身体に水は感じなかった。



 ゆっくりと、ゆっくりと。




 月の光に包まれて。





 ──落ちて行った。



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