自我を
夢中になったものがありました。
それは本棚にぽつんと置かれていました。それが「ハリーポッター」です。何かに取りつかれたかのように、読みまくりました。毎日。朝から晩まで。ずっと。次の日、学校が休みだと徹夜して、上下巻を読み終える勢いでした。
もちろん、私はグリフィンドールの、ハーマイオニー・グレンジャーになろうと決めていました。「アズカバンの囚人」の映画を見に行き、ピンクのパーカーと薄緑がかったジーパンが似合うこと、似合うこと!すぐさまGAPに行って、私にしては破格の大金であった、九千円のジーパンを購入。「これで私もハーマイオニーね!」満足いたしました。そしてハリーと恋に落ちたり、双子のフレッドとジョージに言い寄られたり、恋の波乱…!星空の向こうから、シロフクロウが手紙を運んできてくれて、冬にはボーダーのマフラーを巻く。それはもう、脳内お花畑状態でした。私の心のオアシス!私の妄想シンドロームのおかげで、沙織に嫌なことを言われても、ちょっとの事は耐えられました。
年に一回、ドッジボール大会がありました。
東京都の養護施設にいる小学生が、男女混合のチームを組んで、トーナメント形式で行います。
何と無駄な大会!しかも男女混合とはなんぞや…。死を覚悟せねば。
常々、疑問を持っていました。あの遊びは、ただのSMですよ。ボールを持ったら、誰かにめがけて剛速球!何の恨みがあるのか。それにぶつからないよう、小さな白線の中を必死に逃げ惑う。しかもぶつかるまでは、決して終わらない。当たり所が悪かったら、脳震盪、骨折、打撲…。
事実、私は小学六年生の卒業式の前日に、
「最後だからみんなで仲良くドッジボールをやろう!」
と誰かが言いやがって、骨折しましたからね。指に包帯をぐるぐる巻いたまま、卒業証書授与ですよ。そんな写真、胸糞悪くて即行捨ててやりました。
それは置いといても、私はドッジボールが大嫌いでした。ここで張り切っちゃうのが、出ました!沙織です。寮に張り紙がされるとすぐに、
「先生~、うちと、美代子とあやか出るから!」
ちょっと待てぇーい!!私に聞かず?それ決定?冗談じゃないぞ、こればっかりは止めてくれ。私は涙が出てきました。それを見た冬美が、
「おい、沙織!あやか泣いてんじゃん。嫌がってんだろ。勝手に決めんなよ」
「え~。まぁ、美代子と一緒に出るから別にいいけど」
よし。よくぞ言った。糞野郎だと思っていたけど、さすがお姉ちゃんだ!今日だけはミルクティー何十杯でも作ってあげよう!というか、茶葉からこだわって、ミルクも温めてから注ぐようにしよう。しかし、今日だけだぞ!
私はその場になんとなく居づらくなって、トイレにこもった。外の様子をうかがい、頃合いを見て出ていくと、沙織も機嫌が直って、夕飯が始まろうとしていた。ああ…、一安心した。その後、部屋で美代子に、
「あやかは良いなぁ。本当はうちも出たくないんだ」
と言った。本当に出たくなかったら、君も泣いてみろ!とは言わなかった。それから毎年、私は絶対にドッジボール大会には出なかった。年上の命令だろうと関係ない!確固たる意志。不屈の精神。これは、誰かに褒めてもらいたい。