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ダンジョンコアメンタルは恋をしない  作者: 菜王
第一章 迷宮を作ろう!
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第五十六話 三者会談

第五十六話 三者会談


☆開拓村 仮設冒険者ギルド


 冒険者ギルドの二階

 金髪の受付嬢が奥まった一室をノックする。

「ギルドマスター、商業ギルドのナフラグ様と村長がおみえです」


「通してくれ」


 王都の冒険者ギルドから直接派遣されたラウルはジッと窓の外を見ていた。


「人の欲には止まる事が無いな」


 元々が騎士の出であり一流の冒険者でもあったラウルは一人呟く。

 既にこの開拓村に来て一カ月になるラウルは半ば呆れ気味に──いや自嘲気味に窓の外を見下ろしていた。

 冒険者ギルドと双璧を成す商業ギルドの代表と村長──つまりこの世界における民意の縮図の様な三人の会談は日々熱を帯びていく。

 始まりは開拓村を村長でありラウルと同じパーティで冒険を繰り広げて来た盟友でもあるゼアムの野心だった。

 自らの城となる場所を求めたゼアムが私財を投じ魔境であるジュール大森林の開発を目論んだのだ。

 だが、事態はある時を境に急変する事になる。

 この様な危険な魔境を開発する場合、様々な特権も認められていた。

 それは支配権である。

 つまり、簡易的とは言え領主となる事が出来るのだ。

 ただ、冒険者ギルドと商業ギルドを介在させると言う暗黙のルールが有りはするが、資金さえあれば冒険者なら目指す者が多い道だとも言える。

 この世界ではこうやって魔境を削りとり辺境と言う人の領域に改変していた。

 だが、そこに急報が入る。

 王都の調査団が突然開拓村に現れたと思うとあっという間に貴石や希少金属の鉱床が見つかり、保護の為と詳しい調査の為にこの国最強の蒼天騎士団の尖兵が乗り込んで来たのだ。

 ここに至って冒険者ギルドと商業ギルドは内密に調査を進め、幾度と無く協議を重ねた結果、二人の凄腕ギルドマスターを送り込む事を決定した。

 ギルドの判断は簡潔だ。

 この国は黒

 この謀を見極め二つのギルドの損害を最小限に抑えつつ利益を頂く。

 そして自らのメンバーの安全を図ると共に開拓村に最大限の協力をする。


 陸の回廊であり山々に囲まれ地積の無いこの国に於いて、ジュール大森林は大国と幾つも国境を交える危険な領土であると共に、何れの大国にとっても譲る事の出来ない重要な場所でもある。

 しかも比較的低強度のモンスターしか現れ無い魔境


 しかもそこに有望な迷宮が見つかったと言う報せ。

 既にダンジョンコアを討伐されギルドの監視対象からも除外された三つの迷宮からの信じられない、この世界の常識を無視するかのような発見は二つのギルドに最大限の警戒を促すのには十分だった。


(飛んだ茶番だがギルドと国には約定がある。簡単に反故には出来んからな)


 ラウルはギルドお抱えの冒険者を連れ乗り込んで来たのだ。

 それは商業ギルドでも同じである。

 国と交わした約定はその権利を主張する為の大切な担保なのだ。

 ある程度実情を把握してはいるが、今の所この国の思惑にまんまと乗せられた格好になる。

 現実にこの国の仕上げた策略のお陰で開拓村の開発は倍以上のピッチで進んでおり、それはこれからも間違いなく継続していくだろう。


「失礼するぞ」


「おう、待ち兼ねたぞ村長、いや仮初にも領主様かな?」


 ゼアムは苦笑いしながら答える。


「誰に聞いた! 今日正式な王印が届いたのを!」


 そう、遂に王国がこの開拓村を認めたのだ。

 いや、正確には開拓村の村長をこの国に仕える領主の一角に認定したのだ。

 あくまでも一代限りではあるが 。

 それでも領主だ。

 特権も多い。


「ふん! 成り上がりにしては悠長な事を言うな。やれやれ、もう楽隠居でも始めるつもりなのか?」


「がははははっ! 貴様がもっと楽をさせてくれたならな」


「やれやれ、なんとお気楽な。命あっての物種ですぞ」


 そう言ってナフラグは部屋の中に入るとそっと周囲を伺い扉を閉める。


「……良く無い報せか?」


 老獪な冒険者は全てを悟った様にナフラグに問い掛ける。


「ゼアム殿、どうやら三つの迷宮の異変は間違い無い様です」


「……それはどう言う事だ」


「はい、今まて我々は此処の所に起こった迷宮での出来事はこの国の仕組んだ事だと結論付けていましたが、どうやらそれだけでは済みそうも有りません。実際に三つの迷宮とその近辺で異変が起こり、特に岩の迷宮では既にかなりの損害が出た模様です」


「ゼアム、さらに付け加えるなら、このジュール大森林に幾つかの勢力が入り込んでいる」


 ラウルはお抱えの優秀な冒険者の内、今回は単独での探索や警戒のスキルを持つ者を数人連れて来ていた。表向きは迷宮の探索であったが、実際は他国の動向を監視する為だったのだが、図らずもそれが当たった事になる。


「他所の国か?」


「いや、それもあるだろうが、もっと厄介な奴等もいる」


「それは?」


「エルフだ。それもウッドエルフ」

「!!!!!」

「!!!!!」


 この世界ではエルフは珍しいとはいえ見掛けぬ訳では無い。だがウッドエルフとハイエルフは別だった。その緑の瞳は度々新しく出来た迷宮の近辺で目撃されていた。

 ただし、それは最近になって分かり始めたのだ。

 冒険者ギルドが優秀な者を新しく出来た迷宮の調査に乗り込ませた時、たまたま隠密と忍足の高ランク保持者が複数おり、幾つもの迷宮の周辺や内部で確認したのだ。

 当初は偶然かと思われたが、一部のギルド関係者と研究者は新しい迷宮の発生に何らかの関係があると睨み、その秘密を探り続けていた。そして今回もである。


「ただ、どうも少し様子がおかしいのだ」


「さらにおかしいのか? 迷宮の発生に関係がある事意外にも」


 ラウルはコクリと頷くと地図を出す。

 それはこのジュール大森林の簡単な地図だった。

 其処には幾つもの赤い印が打ってある。

 ただそれには誰の目にも明らかな特徴が見て取れた。


「……ジュール大森林の西側に集中しているな」


「そう、三つある迷宮の一番西にある沼の迷宮にも現れてはいるが、一番多いのは南西部だ。だが、そこには迷宮が見つかってはい無い。幾つかの洞窟があるだけだ。そしてまた一つ報告があった」


「ほほう、それはどの様な?」


 ここでナフラグが身を乗り出す。

 

「……ジュール大森林を抜けた南西部にある小さな村がモンスターに襲われ全滅した。ジュール大森林の外にモンスターが溢れたのは数十年振りの事だ」


 ゼアムとナフラグは顔を見合わせる。


「……迷宮の発生に関係すると予想しているウッドエルフがまだ迷宮の発見されてい無い場所で大量の目撃情報があり、そしてそこからさほど遠くない村が壊滅したのか?」


 そこから導き出される結論は一つだった。


「……つまり新しい迷宮が?」


「そう、発生するのか、それとも既に存在しているのかは分からんがーー限りなくその可能性が高い」


「それが王宮の星読みの言う異変の可能性も有りますな」


 そう、王都のナフラグは宮廷関係者からその詳細情報を得ていた。

 その予知があったのは間違い無い。

 それに後乗りした形だったものが、実際に現実になろうとしているだけだ。

 だが


「少し調査を出したいな」


「だがそうもいかん」


「何故だ? これは危険な事が起こる前兆かもしれんぞ。先ずは正確な情報を集めなければなるまい?」


「騎士団からの依頼で水晶の迷宮と沼の迷宮への冒険者の緊急派遣依頼が来た。特に沼の迷宮では何か起こったらしい。今招集している所だ」


 冒険者ギルドはあくまでも民間組織だ。国の様に捨て駒にする事は出来無い。何故なら依頼を受けるのはあくまでも個人なのだから。

 もしくは契約しているお抱え冒険者はまた話が違う。かと言って死んで来いという訳にはいかないのだが。


 この時点で、ラウルが送り込めるのは連れて来た冒険者の中でも腕利き達だけだと判断している。

 それはウッドエルフすら出し抜く達人たちだった。

 それ以外の者からは報告は一切あがらなかったのだ。


(奴等ならダンジョンコアの破壊も出来るだろうがな)


 しかし水晶の迷宮の様に貴石や希少金属が採れるなどと言われればそれすら儘ならない。


「それでもそのままにはしておけまい。やはり何人かは探索に出すべきでは無いのか?」


 三人は考え込んだ。

 もしも騎士団の意向以外の探索を行っている事がバレれば要らぬ腹を探られかねない。そして国が謀の真っ最中なのだ。迂闊な言質は死んでも取られたく無いのが本音である。

 しかも派遣されている騎士団はあの有名なジェラルドとドロスのコンビだ。

 小国とは言え有力貴族の息子とその家臣なのだ。


(噂に寄れば問題行動は多いが才気溢れる男だとか。なら尚の事不評を買いたくは無いな)


 ラウルは眉間に皺を寄せ考え込み始めた。


 そこへナフラグが提案する。


「私共の仲間に優秀な若い商人が居ります。その者は冒険者ほどでは無いが武に秀でており、辺境や魔境にまで乗り込む変わり者でして、良ければその者と配下の商隊をジュール南西部、つまりアスラガルド南西部に派遣し、そのまま壊滅した村まで調査がてら向かわせるのはどうでしょうか? 何れにせよ我々はルートを確保する必要が有りますからな」


「では我々冒険者ギルドに護衛の依頼を出すと?」


「騎士団は何かとお忙しいでしょうからそれは問題に成らぬかと存じます」


「……それでいいんじゃねえか? 俺もその壊滅した村が気になるしな」


 三人は目を見合わせ合意に至る。


「では商業ギルドから護衛依頼を挙げさせていただきましょう」


「じゃあ村にも依頼をくれや。まだ若い奴等は余ってるんだ」


 これは牽制の意味もある。

 抜け目の無い村長は情報の重要性を良く理解していた。


 商人であるナフラグはニヤリと笑うと部屋を後にする。



 そしてゼアムとラウルはさらに密談を持つのだった。


「どう思う?」


「ナフラグは何か知っていた可能性が高い。商業ギルドが自前の武装商隊を編成しようとしているって情報は前から上がっていた。商業ギルドは大っぴらには認めてはいないがな」


 そしてナフラグは売り出し中の遣り手だと言う情報も得ていた。そして手段を選ばぬ強引な男だとも。


「まあいい、何れにせよ俺の村の利益を害する奴等は順次この森から退出して貰うだけだ。ラウル、お前は俺の味方なんだろうな?」


 ニヤリとゼアムは笑う。


「残念だな、俺はギルドの回し者だ」


「はっはっはっ! それはちげぇねえ! さあ、飯でも食いに行こうぜ! 今日は街から荷が届いた筈だ。良いワインが有るんだよ」


「仕方ない、これもギルドマスターの仕事だからな」


 騎士団の目の付く所で遊興に走る。

 そして目に見える利益供与

 二人は見事に開拓村に於ける村長とギルドマスターを演じていた。

 そして村に一つしか無い酒場にはナフラグも現れる事だろう。

 三人はしたたかな才気溢れる者達だった。


 この時送り込まれる事になる若者達は、この後々重要な役割を担う事になる。

 それはこの三人ですら想像も出来無い事だったのだが、それにはまだ暫くの時を要する。



「ジェラルド様、あの三人がまた接触を持った由にございます」


 ジェラルドは地図と報告書を見つめながら古い書物をパラパラと紐解いていた。


「またかよ、あのおっさんらも本当に懲りんな」


 腹心であるドロスの手の者が三人、ラウル、ナフラグ、ゼアムの情報を集め報告してから、ジェラルドは監視対象として追跡させていた。


 この三人はそれ程危険な男達だったのだ。

 ジェラルドにしてもドロスにしても似た様な者ではあるが。


「何やら掴んだ模様ですな。騎士団からの依頼とは別に三人で組んで動く気配だと。詳細は掴めておりませんが」


 そしてドロスはジェラルドの持つ本に目を止める。


「……それは古い歴史の本…史書と言うより伝承に近いモノのようですな」


 ジェラルドの手にあったのは数千年前にあった争乱の物語の記録。


 その時もこの地は大変な事になったそうだ。

 そこにはウッドエルフとハイエルフの記述も出て来る。

 詳しく何かが書かれている訳では無いが、その争乱と今回の出来事の類似性を捜し出そうとしていたのだ。


「まあ、星読み達の警告が気になるんだよ。実際に異変は起こっていると見て良いんだろうしな」


「確かに。騎士団の魔法使い達も魔素マナの流れがおかしいと言う者が現れております」


「だろうな(俺ですら感じているんだからな)」


 そして気になるのは岩の迷宮に送り込んだ筈のガザムの事だった。


 その時、兵士が駆け込んで来る。


 勢い良く開け放たれた扉から現れた兵士は小さな書簡筒を持っていた。赤い紐が掛けられている。


「何事か!」

「岩の迷宮よりハトが参りました」

「!!! 見せてみろ!」


 定時連絡では無い。

 ドロスは急ぎ書簡を紐解く。

 そして──その目は一瞬宙を仰ぐ。

 それでも直ぐにジェラルドに報告する。


「岩の迷宮へ送った部隊のうち、先行して迷宮入りしていた部隊が壊滅していた模様、指揮官であるガザムは行方不明、詳細は生き残った者達が何らかの精神干渉を受けている様で委細不明との事!」

「!!! (これが策略なのか?)」


 ジェラルドはガザムが行方不明なのが気にかかる。

 が、それ以上に

 アンネローゼ達の事が気になるのだった。

 既に行程は半分近い。

 今更引き換えさせる事は出来無い。


「動き始めたか」


「その様ですな」


 既に手は打ってあるが


 言い知れぬ不安をジェラルドは感じ取っていた。

 そしてこれが始まりに過ぎない事も。


 ジェラルドとドロスは沈黙の中、ジッとジュール大森林の地図を見ていた。

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