第五十四話 来訪者
第五十四話 来訪者
☆迷宮カトリーヌ
「おまたせしました〜☆」
「……ブレア…その手に抱いているのは…」
「洞窟ウサギのレアです!」
満面の笑みでブレアは──あれ?
「……何だか色が違うのか?」
「えへへ、ピンクは凄く珍しいのです☆」
「し〜っ! 二人共静かに! せっかく侵入したキツネが逃げてしまいますよ!」
「おおっ! そうだった! ブレア、あのキツネをリクルートしてくれ無いか?」
「ほほう☆ キツネ……あれ⁉︎ 尻尾が二つあります! ではアレは」
「そうです、ナインテイルフォックスに育つ可能性も有りますね」
九尾妖狐
本来なら自然定着を待つ方針だったのだが、ブレアさん曰く「あの個体は子供ですね。親と逸れたのかどうかは分かりませんが、このままグレイウルフが定着すると逃げ出すでしょうね」と言う事だったので一気にリクルートする事にしたのだ。
元々は古代中国における九尾の狐に連なる種族らしい。成長すれば高い魔力を誇るマンティコアやキメラを遥かに凌駕すると言う。
「は〜い☆ でも一人ぼっちなんですね〜! よ〜し、お姉さんに任せて下さい!」
そう言ってダンジョンの片隅からこっそりと近寄っていくブレア。
行くのだが
「は〜い☆ 君は一人ぼっちなの?」
「!!! …………」
あれ? 滅茶苦茶警戒してる。
ブレアの魅了が通じて無いのか?
影に隠れてTABLETで確認しても様子がおかしい。
ブレアが近ずく度に逃げて行くのだ。
「……もしかして…精神耐性が既に有るのかもしれませんね」
エレノアさん曰く、テイルフォックスは幼い頃から素晴らしい魔法スキルを所有する個体がいるらしい。
「かなり当たりなのかも知れません!」
凄い喜び様だが
その目は洞窟ウサギを見る目に似ている気がする。
「さあ、怖くありませんよ〜☆」
「……ク〜ン…」
だがその距離が縮まる事は
「ああっ! どうして逃げ出すのよ!」
終ぞ無かった。
にじり寄るブレアに恐れをなしたのかテイルフォックスは迷宮の外に走り出して行く。
「……行ってしまいましたね」
エレノアさんの目に失望が浮かんでいた。
「……うう…残念です〜」
少し主旨がズレている気がするのは気の所為だろうか?
まあコレも縁だ。
また機会はあるだろう。
この後二人が洞窟ウサギのコロニーに行って密かに癒されていた様だ。
そこまでか?
洞窟ウサギ恐るべし。
「…逃げだの?」
「うわぁっ! カトリーヌか!」
騒ぎを聞きつけてカトリーヌの分身体がフヨフヨと現れた。
ダンジョンウォークを駆使して浮きながら移動するのは少し幽霊っぽくて怖いから止めてくれ。
「…残念……」
そう言ってカトリーヌは洞窟ウサギのコロニーに入り込みモフモフしてからフロア02に戻って行った。
何だか洞窟ウサギがセラピードックになっている気がする。
いや、まあ良いんだけどね。
♢フロア15 ミスリルマイン
「さて、ノームはどうしてるかな」
「ノームは洞窟を掘るのがライフワークですからね」
エレノアさんと共にフロア15に移動するとーーやはり掘りまくっていた。
(何百匹もの地精霊が一斉に動くのって何だか凄い)
グレムと違って躍動感がある。
さすが精霊だな。
茶色い奴に混じって灰色と黒い奴が居る。
「何時の間にか鉱精も集まり始めてますね。やはり鉱脈が近いんでしょうね」
TABLETでQ&Aしてみると、鉱脈とは一つの鉱石が採れるだけでは無い様だ。
一番違うのは比率らしい。
だから場所によっては聖銀が採れたり銅が取れたり様々なんだそう。
魔素の濃さが重要なんだとか。
たとえ有り触れた鉄でも、それを武器や防具にするとその差が歴然とするとか。
鉄のインゴットでも十分に価値が有るのには有難い。
(取り敢えず何でも良いから採れてくれ)
続々と元の体積が十分の一程に圧縮されたノームタイルが積み上げられて行く。
城でも造り上げそうだな。
城ねえ
何かに再利用出来無いかな?
頭の隅に留めて置こう。
実際にノームはコレで壮麗なる神殿を造り出す事も稀に有るらしい。
迷宮の中でやられると困るんだが、このノームタイルは耐久性もさる事ながら結合や加工も地精霊なら簡単にやってしまうと言う。
魔力付与も容易だとか。
俺とエレノアさんはドンドン積み上げられて行くノームタイルを眺めながら走り回る地精霊に唯々感服するばかりだった。
「鉱物、いや好物は何なんでしょうね?」
「確か金平糖だったと記憶していますね」
「金平糖ですか?」
この世界にも有るんだな。
何れご褒美に与えてやるか。
上手く行けばこの迷宮の柱になるんだからな。
♢フロア02
「カトリーヌ、あとどの位で第9工程は終わりそうだ?」
「…一時間位…かな?」
足元を見るとアラクネがカトリーヌに纏わり付いて遊んでいる。
サッと身を隠すが決して慌てて逃げ出したりはしない。
少し慣れた様だ。
まだ撫でさせてくれそうには無いが。
どうやらカトリーヌは弱っている時にずっと側にいて撫ででやっていたのが良かったらしく、遊んで欲しいのか脚でツンツンとスカートの裾を引っ張ったりしている。
「…お姉ちゃんの邪魔しちゃ駄目! もうすぐ終わるから待ってなさい!」
「!!! …………グルルッ」
怒られてもそれでも纏わり付いてまた怒られるのを繰り返している。
何だかアラクネがしおらしい。
やはり専用フロアでも設けてやろうか?
蜘蛛の巣だって張りたいだろうしな。
アラクネは希少種らしいから大グモを集めて眷属支配させるのも良いかも知れん。
なんなら直接ジュール大森林で仲間を集めさせても良いだろう。この迷宮は魔素が大変澄んでいるらしいから昆虫も良いのが集まる可能性が高い。それがレアな個体なら餌にもなるし採集に来る冒険者もやって来るだろう。
「椎葉、実は一つ提案があるのですが」
カトリーヌとアラクネがじゃれ合っているのを眺めているとエレノアさんが真剣な顔で話し掛けて来る。
「はい、何ですか?」
「森の樹々が怯えています。どうやら最近ジュール大森林の北東部で禍々しい魔素が濃くなり始めたと思って心配していたら、今度は北部で瘴気が溢れはじめ、このまま影響下に巻き込まれるのを大変恐れている様です。どうでしょうか、トレントやウッドフォーク達にフロアを提供するのは。定着を望む個体も現れると思われますが」
「森の小人達ですね。悪く無いな。専用フロアを設けてるのは問題無いです。元々定着させるつもりでしたからね」
希少種でもいたらめっけものだ。
ただまだフロアが足り無いんだよな。
さて如何するか。
今日完成するフロア02を仮のコロニー化して大量に受け入れるのは有りかもしれ無い。
その分迷宮で回収出来る魔素も増えるだろうしな。
「エレノアさん、お願いしてもよろしいですか? 取り敢えずフロア02を解放しますから、そこにウッドフォークのコロニーを先ず作り、その後専用フロアを作成しましょう。余りにも低層階に専用フロアを設けると冒険者が集中し過ぎて狩り尽くされるのが心配ですからね」
「はい、ウッドフォークは森の管理人とも呼ばれていますからね。彼等が定着すれば他の古い個体も安心して移住して来る可能性が高くなるでしょうし」
ウッドフォークの勧誘はエレノアさんに任せる事にした。天井を高くした専用フロアに定着して護りを固めて貰うのならこちらにもメリットがある。
迷宮定着から四日
徐々にではあるが布陣が整いつつある。
今はただジッと備えるしか無い。
カトリーヌは今日の第9工程を終えて総延長を5012mまで延ばした。
そして迷宮入り口の左右に新たに二つの侵入口を設ける隠蔽をし、先ずは明日コボルトを受け入れる事にした。
そしてグレイウルフが来ればもう一つを提供する事になるだろう。
それが成れば俺は迷宮の守護者と森の警戒網の二つを手に入れる事が出来る。
その時はまだ沼の迷宮の異変は伝わって来ては無い。
後に凄まじい闘争を繰り広げる事になる相手のお陰で俺は迷宮の準備を整える事が出来たのだから、世の中とは皮肉なものだと後に納得する事になるがーーその時はそこまで気が回ら無かったのは間違いない。
俺は何も気が付かずにたた自分の迷宮を、カトリーヌの事だけを考えていた。




