第四十六話 森の中のあれこれ
すごく閑話休題っぽく!
(=゜ω゜)ノ
第四十六話 森の中のあれこれ
☆岩の迷宮
ダンジョンコア定着から四日目未明
「どうなってるんだ?」
先行したガザム達を追いかけて、探索部隊の本隊は不眠不休の強行軍でやっと岩の迷宮に辿り着くが、そこは大変な混乱状況に陥っていた。
後詰めを任されていた副隊長ダスターは、兵士の七割近くが行方不明になり、ガザム隊長も行方不明だと言う事態を把握するのに実に二時間近くを時を注ぎ込まねばならなかった。
これは謎の女剣士の施した記憶操作魔法の影響が耐性によりバラバラであったため、生き残った兵士達の情報が極端に食い違っていたのが原因だ。
副隊長ダスターにとっては迷惑でしか無い出来事ではあるが、未だ情報は錯綜しており、そもそも何が起こったのかすらわから無いのだから
「……どうすりゃいいんだ? 迷宮に入り込んでいる可能性だってあるんだぞ?」
記憶操作が迷宮脱出直後に行われたため、ロイドですらその数時間前迄の記憶を失ってしまい、分かっているのはガザム隊長達が岩の迷宮に探索に入ったと言う事だけだった。
そして皆恐ろしく消耗している。
迷宮出口には何が争った痕跡はあったが、ダスターが辿り着いた時にはバルログやヘルハウンドの死体は消え去っていたため、事態の把握はさらに難しくなっていた。
(……あの稲妻のガザムが逃げ出すとも思え無いし、簡単に殺られるとは考えられん)
ダスターはジッと迷宮入り口を睨む。
「……ちくしょう! この状態で入り込まなきゃならんのか!」
この時、ダスターは開拓村から増援が送られて来ている事をまだ知ら無い。補給部隊の定期便がくると事前に聞いているだけだった。
その時、部隊付きの上級騎士が駆け寄って来る。
「副隊長、やはりあれ以上の情報は引き出せません。ガザム隊長は未だ迷宮の奥にいる可能性が高いかと思われます」
本来なら、ここで連絡のハトを送る事も出来る。だがそれは
(まさかガザム隊長が逃げ出したような報告を送る事は出来んしな)
ジェラルドの子飼いでもあるダスターは裏の事情を知っており、この現状をそのまま報告する事に躊躇してしまう。
「……どうします? やはり捜索隊を編成しますか?」
そう、探索では無く捜索だ。
岩の迷宮は一階層しか無く、迷い難い代わりに広い洞窟型の迷宮だ。簡単に調べ終わるとは思え無い。何らかの異変が起こっていた場合、さらに被害だけを拡大させる可能性も高いのだ。
一頻り思案したダスターは
「仕方ない、取り敢えずキャンプを設営しろ! それから捜索隊を編成し、複数のパーティを送り込む」
「……分かりました。ではキャンプの設営を急がせます」
「……頼む」
そう命じながらも、ダスターは不安の色を隠せ無い。
しかし、不眠不休の強行軍、このまま兵士を送り込むのは幾ら何でも無理がある。
刻一刻と時間が過ぎていくなか、それでも仕方無くダスターは捜索隊の人選を始めた。
♢開拓村
同じ四日目早朝
アンネローゼは腹心と共に岩の迷宮への増援部隊の中に居た。
同行するのはヨシュアを含めて四人
そして事前に雇い入れた現地の冒険者である三人は、既に前衛として森の中を移動している。
「アンネローゼ様、そろそろ出発の時間です」
「……分かった」
事前の調査で、迷宮迄の古い道はまともに通れるのは途中まで、最後は森を掻き分けながらの行軍となる事が分かっていた。
その為、部隊の半数以上は荷物運びのポーター達になる。
当然、アンネローゼ達も騎士とは言え徒歩での行軍だ。
(アンネローゼ様をお守り出来る様に手練れを連れて来てはいるが)
ヨシュアはそれでも不安を拭い切れない。
それほど岩の迷宮への道程は深い森の中を進まねばならないのだから。
♢
そして、それをジェラルドが副官であるロドスと共に見送る。
ジェラルドはジッとアンネローゼ達を見ている。
「……そんなにあの美人監査官が気になりますかな」
「……ああ、気になる。どうかね? 俺と腹を割って話す時が来るかな」
「……その時は下手をすればお互い共倒れの危機かもしれませんぞ」
「確かに!」
ジェラルドはアンネローゼの後ろ姿を見送りながら、現地に入っているガザムの事を考えていた。
(上手くやってくれよ! お嬢様を無事に送り返して貰わないとな)
そこへ兵士が慌てて走り寄って来た。
「ジェラルド様、蒼天騎士団本部より使いの者が参っております」
「分かった! 今行く!」
(……このタイミングで? 何かあったのか?)
宿舎に戻りながら、ジェラルドは森の中に消えて行くアンネローゼを一度だけ振り返る。
(お嬢様、ちゃんと帰って来いよ)
♢ジュール大森林 北東部
その時
ガザムは森の中を真っ直ぐに開拓村を目指していた。
重い鎧を脱ぎ捨て、大剣だけを担ぎ深い森の中を必死で走り抜けている。
一刻も早くジェラルドの元に情報を届けなければならない。
そして、あの謎の女剣士とだけは遭遇しないように、ワザと古い道を外れ、道無き道を掻き分けて走り続けていた。
(少なくとも二つの陣営が入り込んでいるのは間違い無い。いや、もっと多いかも知れん)
しかし、ガザムの行く手を遮るのは深いジュール大森林の樹々だけでは無い。
そう、ここは魔境なのだ。
「ちぃっ! 囲まれたのか!」
ガザムは周囲を取り巻く殺気に気が付いた。
それは血に飢えた獣の匂い
「……グレイウルフか」
何時の間にか群の領域に足を踏み入れていた様だった。
そして、徐々にその包囲を狭めて来る。
彼等は明確にガザムを敵として認識していた。ゆっくりと、それでいて確実にその牙を剥かんと追い縋って来る。
(こりゃあ、逃げ切れそうには無いな)
ガザムはそっと足を止め、森の中をジッと見つめながら気配を伺う。
それに気が付いたのか、群れが包囲網を完成させてさらに接近して来た。
そっと大剣を背中に留める金具を外し、再びブンッと振るうと、カザムは森の中を見据え構える。
ここで余計な時間を取られる訳にはいか無いのだ。でなければ何の為に一人脱出したのかわから無い。
「……さあ来い! 相手してやるぜ!」
森の中で、ガザムの死闘がはじまる。
♢ジュール大森林南西部
「……お腹空いたな〜」
少女が一人、森の中をとぼとぼと歩き続けている。
少女は冒険者では無い。
農奴である、いや、農奴であった少女は、母親に売られ、農業奴隷としてギリギリの生活をしていたのだ。
だが、ジュール大森林近くにあったその集落はモンスターの群れに襲われ、持ち主も含めて全て食い殺されていたのだが、たまたま仕事の不始末を咎められ、地下蔵に閉じ込められていた所為で運良く生き残る事が出来た。
そして、その騒乱を一人震えながら耐え、辺りが静まったのを確認して、そっと地下蔵から脱だす事に成功する。
痩せ細った少女は必死で格子窓の桟を外し、その隙間をすり抜ける事が出来たのだ。
「何時も録に食べさせてくれなかったおかげかな」
地下蔵を抜け出し、少女は家の中の食料を持てるだけ持ち、街ではなく森へ逃げ出す。
自分を売った母親や、録に食事も与えず働かせる男、何時も陰でイジメて来るその息子達の死体を見ても、少女は何も感じなかった。
皮肉にも少女がお腹いっぱい食べたのはこの時が初めてだったので、逆に少し感謝したくらいである。
ただ、唯一優しくしてくれた近所の奥さんが、無惨に食い殺されているらしい姿を見た時は少し涙が出た。が、それだけだった。
それよりも、やっと自由になれた事の方が嬉しかったから。
決して助かった訳では無い。
何時自分もモンスターに襲われるか分からないのだが、それでも少女は街に助けを求めに行くつもりにはならなかった。
大人に見つかれば
また──
だから少女は森の中を一人歩き続けていたのだ。
既に持ち出した食べ物も尽き、食べられそうな木の実で飢えを凌ぎながら歩き続けている。
「…私…このまま死んじゃうのかな……」
それでも良いかなと
少女は思った。
何故なら
今
少女は自由だから
母親に売られ
決して自由にはなれない
願っても決して叶わないと諦めていた。
その自由を手に入れたのだから
少女は飢えに苦しみながら
意識も途切れ途切れになりながら
森の中に座り込みながら
それでもなお
不思議な満足感に満たされていた。
(……最後にもう一度お腹いっぱい食べたかったな)
しかし
森の中に座り込み
ぼんやりと前を見ている少女の前に
不思議な生き物が現れる。
その生き物は
羽根を生やし、シッポをフルフルさせながら、何故かウサギを抱えてフワフワと浮いている。
少女は襲われるのかと覚悟を決めたが、何時まで経ってもその気配は無い。
その生き物からは敵意を感じる事は無かった。
その生き物は良く見ると人の形をしている。
しかし、農奴である少女は何の教育も受けておらず、それが何なのかを知ら無い。
どうしようか?
どうすればいい?
少女は悩んだ。
それでも、勇気を出して声をかける事にした。
どうせダメで元々なのだ。
だから
「……貴方はだあれ?」
少女はウサギを抱えた生き物に声を掛ける。
最後の
一縷の望みと言うにはあまりに儚い願いに全てを託す事にしたのだ。




