第四話 迷宮契約
またまたくどいかも( ̄◇ ̄;)
序章
第四話 迷宮契約
☆
霧島管理主任の後を俺とカトリーヌは必死で付いていく。
そして関係者以外立ち入り禁止区域の札のかかる扉に進んだ。
「ここは? 」
兵士に守ららたその奥ーー二重扉の認証システムの前で数人が待ち構えている。
「カテゴリー4の七人はすでに契約の間に入りました」
「すでにガイダンスを新人マスターに渡し、これから個別研修に入ります」
「全員異常ありませんが、ダンジョンコアメンタルに先程から微弱な波形の乱れが観測されております」
「よし、私が到着次第順次契約を進める。その様に準備しろ。ガイダンスはなるべく早く終わらせ、今日はダンジョンコアメンタルとのコミュニケーションを優先させる様に通達。……波形の乱れ…か」
目の前のエレベーターの認証キーを差し込む
[Level7 GATE]の文字が光る。
「……[Level7 GATE]か」
「……怖い?」
開いた扉の中に入るとーー〈キーン〉と言う甲高い音と共にエレベーターは地下に降りていった。
カトリーヌが握った手に少し力を込めて聞いて来る。
「……いや、怖くは無い。けど、質問は山の様にあるな」
「その質問には最後の適正検査が終わり次第嫌と言うほど聞いて貰うわよ。でもーーその前に」
〈プシュー〉とエレベーターの扉が開くとーーそこはまるで別世界だった。古い遺跡の様な場所に所狭しと様々な機械やパソコンが並べ立てられている。多くの科学者や軍人と思しき人達が忙しそうに走り回っていた。
そして、その中の一人がこちらを見つけ走り寄って来た。
「霧島管理主任、こちらにどうぞ!」
「契約の準備はどうなっている?」
「はい、全ては整いました。あとは……」
そう言って俺とカトリーヌをジッと見る。気がつけばーーそのフロアにいる全てのスタッフがこちらにに視線を寄せていた。
(なんなんだ? 一体なにが?)
「よし、随時行う。では、椎葉君、こちらの部屋に入ってくれ」
指差されたのはこのフロアに作られた通路の奥だった。俺とカトリーヌは兵士に先導され、小さな個室に通された。そこには大きなモニターとノートパソコンが一台だけ置かれていた。そしてーー女性が一人
「ようこそ! ダンジョンマスター殿!」
そう言ってその女性はタブレットを渡して来た。
「それは君専用にカスタマイズされたマジックアイテムだ。認証マークをタップしてくれるかな」
「は、はい」
言われるまま俺はその六芒星のマークの中にある掌のマークをタップする。
〈キィンッ!〉一瞬眩い光が部屋の中を包みーータブレットが起動した。
「あ、あの、ダンジョンマスターってどう言う事ですか? それとカトリーヌの事をダンジョンコアとか? この会社は確か不動産管理と開発がメインの世界規模の会社だと聞いていたんですが、これは何かのアトラクションなんですか?」
そう言うと女性は大きな声で笑いはじめた
「ははははっ! アトラクションか! そうだね、そう言えばそうとも言えるな。さて、説明させて貰おう。と、言いたい所だが、これは機密事項が含まれている。だから、先ずはその隣にいる[カトリーヌ]との契約が完了するかどうかが重要なんだよ。それが、最後の試験だ。今の所だが君は完璧に合格している。しかし、次の試験に落ちれば、この話は無しになるんだ。なに、簡単な事だよ。[契約の間]に赴き、ある宝石に触れて貰う。それで判定出来るんだ。それで契約出来れば合格! その後の配属先を教えよう。……契約出来なければ、君は少し守秘義務を持って頂き、地上に戻り、新人研修の続きだ。簡単だろ?」
俺はその女性に聞く
「……仮に俺が落ちたら…カトリーヌには会えないと言う事ですか?」
「[カトリーヌ]には[カトリーヌ]の仕事があり、椎葉君には椎葉君の仕事があるーーと、言う事だね。まあ、今の君達を見れば、契約は可能だよ。それくらいは見れば分かる。すでに[カトリーヌ]は椎葉君を選んでいるからね」
選んでいる? 俺を? この赤い髪の少女が?
「……椎葉は…いや? 私と契約する…の?」
「そんな事は無いが、そもそも何の契約なんですか?」
「それは私が説明しようか」
「霧島管理主任!」
「彼女は異世界におけるダンジョンと呼ばれる拡張型魔法空間形成個体の中核、[ダンジョンコア]と呼ばれるエネルギー変換炉の制御機構である魔導生命体にして固有の人格を有する独立進化精神構造体、我々はそれを[ダンジョンコアメンタル]と呼んでいる。そして君はそれをコントロールする[ダンジョンマスター]と言う名の迷宮管理者にして幼い[ダンジョンコアメンタル]を優しく育み育てる幼稚園のお兄さんと言うわけさ」
俺はひとしきり思案して
「全然分かりません」
「だろうな」
「拒否権はあるんですか」
〈ビクッ〉とカトリーヌの肩が震える。彼女の動揺が伝わって来るのがよく分かるのは何故だ? まだ会ったばかりの少女に……
「当然だ。契約とはその為にあるものだろ」
そしてこう付け加えた。
「もし君が拒否すれば彼女はまたこの地下世界の住人だ。彼女は人では無いのだからね。そしてーーまた別のご主人様が現れるのをただジッと待つのさ」
この地下でたと! そしてまた別のご主人様だと!
「……それは…カトリーヌが望んでいる事なのですか」
そんなバカな事はある筈が無い。この暗い地下空間で?
「……彼女はそれしか出来無い。選択する意思すら無い。それを与えられるのは君達、[ダンジョンコアメンタル]に選ばれた[ダンジョンマスター]だけなのだよ。彼女達はただ[ダンジョンコア]であり[ダンジョンコアメンタル]であるだけなのだからね。そこには何の他意も無いのさ。そして[カトリーヌ]は覚醒してから既に五百年が経過している。[ダンジョンマスター]を選んだのは椎葉君が初めてだよ」
「……にわかには信じられませんが、例えばそれが本当だとして、俺が契約出来なければまた五百年間この地下空間でカトリーヌは過ごすんですか」
「……そうだな。そうなる…可能性は高い」
「…………」
「ただ、口で言われただけでは椎葉君も信じられ無いだろうから、一つ参考迄に証拠を見せようか。[カトリーヌ]が人智を超えた超常の存在である事を目の当たりにして貰おうかな」
そう霧島管理主任が言うとーーそっとカトリーヌが頷きーー俺の手を離した。
二歩三歩後ろに下がるカトリーヌ
「……お、おい、どうしたんだ? カトリーヌ! 霧島さん、一体なにを……!!!!!」
「いいかい、[カトリーヌ]」
するとカトリーヌはコクリと頷く。その目には何故か強い力がこもっていた。
次の瞬間
霧島管理主任は腰の拳銃を抜きーーそのまま両手でカトリーヌに向けた。
「!!!!! な、何を!」
しかし飛びつく間も無くその引き鉄は引かれーー鈍い発射音と共に放たれた弾丸がカトリーヌの顔面を捉えた
そう〈バンッバンッ〉と二発放たれた弾丸は確実にカトリーヌの顔面を捉えたーー筈だったのだがーー〈ギンッギンッ〉と言う少女には相応しく無い金属音と共にコトンとカトリーヌの足元に落ちた。
その二発の弾丸は押し潰されたかの様に圧縮して画鋲の様にひしゃげていた。
そして
カトリーヌは俺にこう言った。
「……もしも…椎葉が私の事が怖いなら…私はこのままいつもの部屋に戻る…そして……もう二度と……会わない…残念…だけど……仕方ない」
そう言って
カトリーヌは後ろを向いてしまった。
そう
ゲームに勝って捕まえる前のーー出会い話をする前のカトリーヌにーー戻っていた。