第三十六話 突破
第三十六話 突破
☆岩の迷宮
「うおおおおおおおっ!」
ガザムの大剣がオークを両断する。転がり落ちた首を群れに蹴り飛ばすが、恐れる気配は無い。
(眷属支配が効いてると厄介だな)
囲まれぬ様に巧みに迷宮の狭い通路と広い空間を利用しながらの攻防は数時間に渡って続いている。しかし、この罠(あくまでも想定ではあるが)を仕掛けて来た奴等はそれ以上の干渉をする様子は無い。数が多いとは言え、それだけではガザム達を倒す事は出来ない。それなのにこれ以上の手を打って来る気配は無かった。
「隊長! どうします、このまま止まれば幾ら何でも殺られちまいます」
その通りだった。アーチャーの矢も無限では無い。何処かで決断しなければなら無いのだ。
事前に確認した迷宮の地図では、ここは単純な構造だが完全な一本道では無かった。後どれだけモンスターが居るのかは判らないが、上手く引き込みながら敵を躱せば、出口に辿りつけるかも知れない。ガザムはオークの群れを蹴散らしながら最後の決断を下した。
「よし、彼奴らを一旦引き付け、後ろの通路に飛び込むぞ! [ファイアーウォール]は使えるんだな!」
「は、はい! やれます」
ソーサラーに確認し、ガザムは全員と視線を交わす。
「いくぞ!」
ガザム達は迷宮最奥からの脱出をはかる。
♢
既にガザム達は約二割のモンスターを打倒していた。そしてローガン達と二人の侵入者との戦闘で一割弱が倒されている。そして、この迷宮に施されている術式が自動的に倒された生贄のマナを吸い上げ、再度召喚を始めていた。
もしもこの時ーーさらに奥で逃げ続けていれば、この最奥部にあるジェネレーターから現れたモンスターに挟撃され、ここで全滅していた可能性が高い。
ガザムは辛うじてそれを躱した事になるが、まだ助かった訳では無い。その命を繋ぐ細い道は未だ予断を許さぬ厳しいものだった。
そしてまた、激闘が始まる。
♢
「[ファイアーウォール]!」
ソーサラーは狭い通路に飛び込んだ後、ガザムの指示で追い縋るオークの群れに炎の壁を叩き込む。暫く継続するこの炎の壁を後方の盾とし、迷宮出口に向けて突破を開始する為だ。
細かい状況判断が出来ていない事を察知し、引き付けるだけ引き付けてからの逆襲だ。局面を素早く動かし、敵の隙を突くべく狭い通路を走り抜ける。そこには驚くほどモンスターは居なかった。しかし、気配は凄まじい。つまり、何処かにモンスターハウスが出来ている可能性が高い。問題はそれが何処にあるかだ。
出口までにある幾つかの躱せない大きな空間に必ず居る。ガザムはそう確信していた。
そして事実、その内の三つにモンスターは居た。但し、ローガンが指示を出して移動させ、そのまま放置されているので、狭い通路を走り抜けるガザムは未だ遭遇していない。
だが、そのモンスターハウスに飛び込めば、そこからは当然修羅場となるのは間違いない。後方のオークの群れは未だ追い縋って来る気配は無い。恐らくあと数分は炎の壁の効果は持続する筈だ。そして間も無く一つ目の大きな空間に辿り着く事になる。
そこからが命懸けの突撃になる。
ガザムはキッと唇を結び、迷宮の闇を走り抜けて行った。
♢
数分後
ガザムは最初の大きな空間に辿り着くと、アーチャーに気配を探らせる。
『……何で数だ…』
気取られぬ様に索敵したアーチャーはその数に舌打ちした。今迄倒したよりも遥かに多いモンスターが犇いている。ガザムの元に急ぎ戻り、その事を伝えると、やはり皆に動揺が走る。
カザムはここで地図を確認すると、こう指示を出し始めた。この後ろ、20m後方にある唯一ある分岐点からなら、目の前の空間の側面に繋がる狭い通路にたどり着ける。そこへ敵を引き込み、手薄になったところを側面の通路から強襲を掛け目の前の空間を突破する事が出来ると判断した。
そしてカザムは大きく深呼吸を一つして、作戦を伝える。
「よし、トレインを仕掛ける! 追いかけっこだ!」
手練れのジェラルドの部下達は諦め顔で頷く。それはモンスター狩りではよくある事だが、この狭い迷宮の通路では余りにも危険な選択だった。しかしそれしかこの大群を躱す事は出来無いだろうと皆分かっている。目の前の勇猛果敢な男に、稲妻の異名を持つこの男の決断に命運を賭ける事を男達は決断したのだ。
「いくぞ」
戸惑う時間は無い。
後方からはいつオークの群れが現れてもおかしくは無いのだ。一刻の猶予も無い追い込まれた状況の中で、決死の突撃が再び始まる。
♢
「[ファイアーボール]!」
突然部屋に飛び込んだ一団が火球をモンスターの群れに放った。そして続け飛び込んできた二人が鉄の矢を雨の様に降らせる。この時点でやっと事態を把握したモンスター達は目の前の侵入者に敵意を剥き出しにしてその牙を剥いて襲い掛かって行った。
狭い通路の出口に下がった一団と入れ替わる様に屈強な男達が踊り出ると、寄せて来るモンスターの群れを蹴散らし始める。
中央に立つ大剣を振るう男は立ち所にゴブリンやオークを斬り裂き、肉塊に変えていく。そして両脇を固める男達はその巨大な斧を振り回し、近寄るモンスターを10m近く吹き飛ばしていった。
しかし、どれほど仲間を倒されても怯む事を知らないモンスターの群れは圧倒的な数に物を言わせ、徐々に追い込んでいく。
そして群れの中央に炎の壁が巻き起こると、一団は徐々に通路に下がり始める。ジリジリと睨み合いながらモンスターの群れを引き寄せていくと
「よし! 逃げるぞ!」
その声と共に一気に走り始めた。
つられる様にゴブリンやグレイウルフが飛びかかっていくのを尻目に一団は狭い通路を走り抜けて行った。
「釣れましたかね!」
「一周回ったら分かるさ!」
アーチャーとウォーリアを殿にガザムは通路を戻り、分岐点を曲がって再度あの空間に戻るべく疾走していた。稼げる時間は僅かであり、あの空間の群れの内、引き寄せられるのは多くても三割までだろう。それほどモンスターの数は多かったのだ。
(だが、これであの空間を突破出来る!)
ガザムは全力で走り抜けながら獰猛な笑みを浮かべていた。その修羅をまるで愉しむかの如く。そして真横を走るウォーリアはこう思った。
(この男と一緒にいたら決して楽には死ねん)
しかし、歴戦のウォーリアは次の瞬間には全ての雑念を決し、意識を両手で持つ巨大な斧と目の前の敵に集中する。
「よし! 飛び込むぞ! ファイアーボールだ!」
再びあの空間に迂回して舞い戻ったガザムはモンスターの側面に飛び出し、ソーサラーのファイアーボールを初撃に放つと、壁沿いに出口に向かって突撃して行った。先ほど放ったファイアーウォールはまだその効力を保っており、その混乱を突いて目の前の敵を斬り飛ばしながらガザム達は突き進む。
「ファイアーウォールだ! 通路を閉じろ!」
そしてモンスターを引き寄せて来た通路を炎の壁で封鎖し、自らも退路を絶ってモンスターの群れを切り崩していく。一瞬でも立ち止まれば包囲殲滅される危機的な状況の中、ガザムは巧みに炎の壁を利用しながら出口を目指した。まともな指示も受けられていない眷属支配では、効果的な反撃は不可能だ。何故かは分からないがその打ち手の悪さに助けられ、ギリギリの攻防を凌いでいた。
しかし、危険度は此処からが本番だった。オークの群れが追い付いて来たのだ。醜い豚の顔をした獣人が狭い通路から溢れ出して来る。
「隊長! 新手が来ました!」
「構うな! このまま出口を目指す!」
そう言ってガザムはその大剣で目の前のグレイウルフを貫き、飛びかかって来たハーピィを両断した。
しかし、モンスターハウスを突破し、出口への細い通路に向かって突き進む七人は、その先にある最後の関門には気が付いていない。
そしてーー其処には恐るべき強敵が待ち構えていた。




