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ダンジョンコアメンタルは恋をしない  作者: 菜王
第一章 迷宮を作ろう!
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第三十一話 困惑

第三十一話 困惑


☆ジュール大森林開拓村


「……どうしたと言うのだ? こんな事は計画にはなかった」

 宿舎の窓から宿営地の設営を行う騎士団を見て、僧侶サロメは吐き出す様に呟いた。

 当初の計画では、岩の迷宮でモンスターを大量発生させて大損害を出し、その後に蒼天騎士団本隊を制圧に送り込む筈だった。しかし、実際には異変が最初に起こったのは全く予定に無い沼の迷宮である。

『何が、何が起こっているのだ』

 しかも瘴気が発生しており、その浄化に向かわせられることになってしまった。しかも強引な横槍で、本来岩の迷宮に向かう予定だった配下の者は、岩の迷宮から沼の迷宮へと配置換えさせられてしまった上でこの事態だ。

 異変を仕組むはずが、謀らずも現実のものとなってしまい、サロメは困惑している。

「あの星読み達の啓示が現実のものになったのか?」

 当然と言えば当然である。だからこそ蒼天騎士団は先遣隊を送り込み、その既成事実の元に本隊を乗り込ませる算段だったのだ。だが、その計画は少しづつ狂い始めている。

(嫌な予感がする)

 言い知れぬ不安を感じながらも、僧侶サロメは沼の迷宮を浄化する準備を部下に命じ進めていた。先遣隊の一員であるサロメはジェラルドに逆らう訳にはいかない。

(おのれあの若僧め! 今に見ていろよ)

 浄化に必要な資材の手配をしながら、サロメはジッと窓の外を見据えていた。

 そして一刻も早く沼の迷宮を浄化し、岩の迷宮へ向かわねばならないのだ。既に計画は動き出しており、変更する事に出来ないのだから。



♢♢♢


 アンネローゼの宿舎に、ジェラルドの使いがやって来た。

「岩の迷宮への増援が決まりました。補給部隊も一緒に向かいますので、アンネローゼ様には明日朝一番に村の東門にお集まり頂きたいとの伝言を仰せつかりました。これが指令書です。急ではありますが、御準備のほどよろしくお願い申し上げます」

 アンネローゼは指令書を確認し

「かたじけない。それでは明日朝一番に村の東門ですね? しかと承りました。了解したとジェラルド様にお伝え下さい」

 敬礼をしてジェラルドの使いは宿舎を後にする。それを確かめてから側近であるヨシュアがアンネローゼの元にやって来た。

「やけに対応が早いですね」

「……既に何か起こっているのかもしれないわね」

 そして数日遅れると言っていた補給部隊はいつの間にか増援部隊に変わっている。しかし今のアンネローゼがその意図を読み解く力は無い。今は先ず岩の迷宮を目指し、その上で出来る事をやろうと、指令書をジッと見つめていた。

 家臣であるヨシュアは何も言わず岩の迷宮に向かう準備を初めている。そして、少しでも助けになろうと動き出していた。

 幼い頃からアンネローゼの側で使えているヨシュアの思惑は、自分の意思も当然あるが、一番は父親からの指示によるものだった。

 それは「アンネローゼ様をお助けしその血を残せ」と言うものだった。  

 徐々に自滅への坂を転がり落ちていく家を諦め、せめてその血を後世に残す。それはヨシュアの父親の願いでもあり、ヨシュア自身の願いでもあった。

(アンネローゼ様、必ずやお命を御守り致します)

 宿舎を出たヨシュアは連れて来た部下を呼ぶ

「ゼノ、人を集めてくれ!」

「ヨシュア殿、アンネローゼ様は?」

「岩の迷宮に明日立つ事になった。ついては、何人か開拓村から雇い入れると小耳に挟んだのだが、その者達に頼みたい事がある。調べられるか?」

「分かりました。開拓村を仕切っている男を知っています。すぐに調べましょう」

「頼む、あと俺達の準備もな。アンネローゼ様は父君の意向にそうおつもりだ。何としても御守りせねばならぬ」

 ゼノと呼ばれた男は一礼すると急ぎ走り出した。ヨシュアが引き連れて来た家臣達はみなアンネローゼ様を御守りする為に、特に忠義に熱い者達を集めてある。それはこの時の為なのだ。

 ヨシュアは自らの剣にそっと手を掛け、武運を願った。明日の夕刻には、異変の待つ筈の岩の迷宮に着くのだから。


♢♢♢


 タニアとミア、スピカの三人は開拓村の中の一つしか無い酒場で情報を集めていた。

 自分達の実力はよく分かっている。だからこそ事前の準備は怠らないのがタニアだった。慎重の上にも慎重を期するのが彼女の流儀である。

 話を聞いているのは沼の迷宮と水晶の迷宮周辺に探索に出た仲間だ。


「で、やはり沼の迷宮はやばいのかい?」

「ああ、凄い瘴気が溢れ出ていた。アレでは近ずく事すら出来まい」

「だから偉い僧侶様をつれて?」

「僧侶には浄化のスキルがあるからな」

「水晶の迷宮はどうだい?」

「あそこは本命だからな、一番の部隊が送り込まれているから問題は無いだろうが、変な噂を聞いてるんだ」

「それは?」

「森の神様がお怒りなんだとよ」

「なんだい? その迷信じみた話は?」

「どうも話によると、怪我人や死人が出ている訳では無いが、水晶の迷宮の宿営地に、ドングリが撃ち込まれて困ってるらしいな」

「ドングリ? ただのドングリかい?」

「ああ、ただのドングリだ」

「犯人は分からないの?」

「ああ、ただ、何処からか撃ち込まれて来るらしいぜ。だか調べても何もいないらしい」

「……ドングリ…森の小人…かね?」

「さあな。ただそれは止む事なくずっと続いているらしい」

 タニアは腕を組んで考え込んでいた。そんな話は今迄の冒険者生活の中でもとんと聞いた事が無かった。

「スピカ、ミア、思い当たる話はあるかい?」

 話を振られた二人にも見当も付かない事だった。

「う〜ん、そんなモンスターは聞いた事が有りませんね」

「そもそも、騎士団にはスカウトやアーチャーが配属されてるんだろ? そんな奴等に気配も悟らせ無いなんて、余程の高位モンスターか、伝説のエルフレンジャー様位だろうけど、ドングリを撃つなんて事は天地がひっくり返ってもあり得ないよ」

 二人の話を聞いてタニアはジッと目の前の地図を見ていた。既に仕事は受けているから今更やめる事はできない。だがこの違和感は何だ?

 その時、押し黙るタニアに客が現れる。

「タニア、お前らにお客様だぞ。なんと騎士様だぜ」

「騎士様? そんな上等な知り合いは記憶に無いけどね」

 振り返るとそこには如何にも武骨そうな男が立っていた。そしてつかつかと歩み寄り、ドカリと三人の前のテーブルに皮袋を置いた。

「タニア、お前達は明日岩の迷宮に向かう増援の斥候を引き受けているそうだな」

「ああ、騎士様、そうだけどそれが何か?」

「うむ、その時にあるお方の護衛を頼みたい。これをは前金だ。どうする? 受けるか?」

 タニアはその騎士の顔をジッと睨んだ。

「私達の仕事は部隊の前衛に立ち偵察をする事だ。偉い騎士様の護衛をする暇は無いんだけど?」

「ああ、それは分かっている。だから任務は岩の迷宮に付いてからで良い。お前達三人の布陣の中に、あるお方を入れてくれるだけで充分だ」

「それだけで?」

「ああ、お前達も迷宮の中に入るのだろう? その時に幾人かの者と共に手助けをしてほいのだ」

 確かに迷宮の探索も依頼に入っている。しかしそれは廃棄された迷宮だから引き受けたのだ。その依頼の意図をタニアは理解しかねていた。

(どう言う意味だ? だがその偉い人を護るんなら捨て駒になる事はなさそうだ。それなら受けた方が得策か?)

 そして目の前に積まれた報酬は惜しい。どうせやる事は同じなのだ。逡巡の末、タニアは引き受ける事を選択した。

「……分かった! 引き受けるよ。ただし私達は斥候に入るだけだ。討伐とかの荒事は御免被るし、私達の指示に従え無いなら契約は其処までだ。それでも良いならあんた達の前衛に入ってやろうじゃ無いか」

 スピカとミアは一瞬タニアを見たが、リーダーであるタニアの決断に口を挟む事は無い。過去にもタニアの判断で危ない所を救われている二人は、事の流れを聞きながら、タニアの決断を無言で支持していた。

「それで良い。我らも荒事はなるべく避けたいのでな」

 タニアと騎士は握手を交わし契約は成立した。そしてタニアが最後に聞く

「その人の名前は?」

「アンネローゼ様だ」

(アンネローゼ…確かに監察官だったね。役職は荒事では無いね。なら大丈夫か)

「分かった。では迷宮探索開始からの依頼と言う事で良いのかい?」

「かまわぬ。ではよろしくな」

 そう言って騎士は去って行った。思わぬ臨時報酬となったが、タニアは今だ不安を抱えていた。しかし万全など冒険者には元から有りはしないのだ。

「二人とも、気を引き締めてかからないと痛い目を見る事になるよ」

 タニアの緊張が伝わっているのか、二人は黙って頷くだけだった。


「……岩の迷宮…ねえ…」

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