第二十七話 洞窟ウサギ
第二十七話 洞窟ウサギ
☆迷宮カトリーヌ
「カトリーヌ、お昼は12:00だからな」
「……了解…椎葉、今日はお風呂に入りたい」
「はい!はい! ブレアも入りたいたいです〜!」
「分かった分かった、機材の準備をしておこう。それまでにフロア01を終わらせるんだぞ?」
「……分かった。がんばる」
「じゃあブレアも行きまーす☆」
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■迷宮の在り方
休憩の後、再びカトリーヌは作業に入った。およそ一時間で300m掘り進むので問題無ければ今日はあと三工程をこなし約2000m(前回の残りと合わせてだが)延伸して、フロア01で予定している分は取り敢えず終了だ。
ただしこれはあくまでも迷宮の通路のみであり、ダンジョンクリーチャーなどのコストはゼロとした上でだ。そして一切のオブジェクトの配置も行わずだから、これでは単に洞穴ができただけになってしまう。
ダンジョン運営はこの序盤が最も難しいと言われているのだが、椎葉は独自の戦略でそれを切り抜けようとしていた。
■迷宮からのメッセージ
フロア01には行き止まりが一つと階段が一つしか無い。あとは複雑に絡んで見えるが全て繋がっているある意味自然界にはあり得無い構造になっている。つまり本当の意味では迷わ無い。
そしてフロア02には行き止まりが2つと階段が2つ、そしてフロア05には行き止まりが5つと階段がこれも5つ設営される。つまり辿り着く先が5つある。そこからが本格的な迷宮の始まりだ。これは浅い階層での混雑を緩和する為でもあり動物や魔獣の繁殖しやすい環境を作る為の措置でもある。
そしていずれ迷宮が認知された時に、やってくる冒険者へのメッセージでもある。
ここがただの迷宮では無いとの。
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♢エレノアさんの受難
カトリーヌとブレアに指示を出した後、椎葉はエレノアと密談を持っていた。
「エレノアさん、この中からお好きなモノをどうぞ」
「!!! ほ、本当にここから選ぶんですか?」
「急いで! 二人に気付かれてしまいますよ!」
「!!! あ、あの、本当に…その、必要だったんですか?」
「当然ですよ! アレで僕のパンツでは警戒心を煽りますし、あえて大人サイズのカボチャパンツだったおかげで事なきを得たんです! エレノアさんのおかげですからね♡」
「……は、はい…」
「で、これなんかオススメなんですが」
「きゃあああっ! ひ、広げて見せ無いで下さい! じ、自分で選びますから!」
椎葉のセクハラはどんどん巧みさを増し、真面目なエレノアさんの心を蝕んでいくのだった。
エレノアさんの受難は続く
♢チートサキュバス
「気が付けばいつの間にか増えてるな」
どうやらブレアの魅力は種族の垣根を越えているようだった。
一時間程の間にさらに増えた数十匹の大ネズミがウロチョロし始めている。そしてまだまだ増える気配だった。豊かな森という事は生存競争も当然厳しい。だから少しでも生き残れる確率の高い場所を求めるのは当然の事なのだろう。
「てか、なんでこんなに集められるんだろ?」
幾ら何でも増え過ぎだろうと危惧した椎葉はブレアを捕まえて聞いてみるとーー
「……精神魔法なの?」
「は、はい! 元々精神魔法には範囲対象の物が幾つかあるのですが、それの内容を変更して集団にかけるのです〜」
「……それでこんなに集まるの?」
「動物によって違うんですが、例えばネズミの好きな環境とかを精神魔法で読み取って、それを織り交ぜてやると、効果が上がるんです☆ あと群れを作り易い種族を集めろとのマスターの命令に従ってると、その効果もまた上がります〜!」
何気にこのサキュバスはチート持ちの気配がして来た。補欠の補欠でコロナ社に受かった椎葉にとって複雑な心境にしてくれる相手になりつつある。
「……まあ、その調子で頼むよ」
「は〜い☆ ブレアにお任せ下さい〜!」
この間の伸びたイントネーションも少し賢く聞こえるから不思議だ。
「……まあ、予定より増えてるなら良いだろ」
♢
椎葉とエレノアは大ネズミの餌を撒いていた。貴重なMREではあるがここは致し方無い所だろう。
「エレノアさん、あと5日ほど餌を撒きますから」
「は、はい。他の動物も増やすんですよね?」
「そうですね、恐らく小動物は放って置いても増えるそうですから、この後は大型、中型の動物が中心になりそうですね」
実際に昆虫などの小動物は、餌を撒いたり大ネズミを集める前から入り込み始めていた。それらが大ネズミの餌になる筈だから、後は自然定着するのを待つのみだ。
♢追加のお仕事
予想よりも大ネズミの増加が早く、流石に手狭とまでは言わないが解放されているフロア01の部分だけでは早晩足りなくなるのは間違い無い。幾つかの通路を閉鎖状態にして大ネズミしか通れない通路を足元に無数に這わして接続し、コロニー形成にかかる。
「カトリーヌ、この四箇所をコロニー化するから、一旦通路を造ってから2Bで前後を閉じてくれ。内部は4mあればいい」
「……了解…最後に纏めて閉じる」
「うん、それでいい! 先に餌を運び込んで置くから」
TABLETで場所をマーキングして確定させたあと、エレノアさんと再び餌を運ぶ。
「なんだか動物園の飼育員になった気分だな」
「動物園……あの地球にある動物を檻に入れておく公園の事ですね?」
「そ、そうですね。まあ、迷宮は人間もその檻に入り込むんですが」
だから入場料がタダだけどな。いや、命賭けか。だがちゃんと報酬も出る(当然死ぬ人も出るが)。
「でも迷宮がこの世界に発生し始めてから戦争や略奪は減りつつあります。迷宮の、特にカテゴリー5の本当の存在意義とは違いますが、来た人に何かを与えているのは同じですね」
そう、この世界においては実は一番の脅威は同じ人族なのだ。確かに危険な魔獣や獣人は存在するが、最も人を殺すのは間違いなく同じ人なのだ。魔王も存在するらしいが、それこそ自然災害みたいなものでちゃんと勇者が現れ始末を付けていくのだ。
人だけがその欲望を処理出来ずにいたずらに勢力圏を拡大して争いを大きくしている。それも同じ人に対して最も苛烈なのだ。
そして奴隷もちゃんと存在し、階級付けされた差別と格差が人々を分断し続けている。未だこの世界は争乱と悲劇に支配されているのだ。
この世界がいわゆる文明社会(現代社会では無い)を形成する様になるのにはまだかなりの年月を必要とするだろう。
そんな感慨に耽りながら餌をやっていると、目の前をブレアが何かを抱えてフワフワと飛んでいる。
「……なんだ? ありゃ?」
やけに嬉しそうに抱き抱えているアレはもしや
「……おい、ブレア」
「は、はいっ! なんでしょうか!」
咄嗟に背中に隠すがその大きさはどう見てもブレアの身体からはみ出している。てかブレアは中々パワーもあるんだな。俺でもそんなに軽々とはもてんぞ。
「その背中に隠したモノを見せろ」
「…………は、は〜い」
恐る恐る見せて来たのは
「……ウサギ? それはウサギなのか?」
「は、はい…これは洞窟ウサギです〜」
その目はクリクリと愛らしく長い耳をパタパタと振っている。どうやらブレアの魅了が効いているようだ。ただ大きさは地球のヤツとは比べ物になら無い。そうか、こんな動物も居たんだな。ただコレを捕食するのは
「洞窟ウサギですか、草食動物ですが、コレを狩るのは山猫や大蛇などの上位捕食者なので、椎葉の予定で言うところのフロア06以降に現れる動物になりますね」
エレノアさんの言う通り、今は必要無いのだかブレアはぎゅっと抱き締めて自分の意思で離す気配は無い。その目は捨て猫を拾って来た小学生の様だった。大きさは十倍近くあるが
「俺たちにはペットを飼う余裕は無い。その洞窟ウサギはこの迷宮の中で捕食される動物なんだぞ? それは分かっているな」
そう言うとブレアはコクリと頷く。ダンジョンマスターである俺ならは無理矢理言う事を聞かせるのは容易い。
「カトリーヌに命じてコロニーを一つ造る。そこへ複数の洞窟ウサギを入れて繁殖させておけ。覚えておけよ! その洞窟ウサギはあくまでも捕食される動物なのだからな。あと、餌になるモノを採取して来い。迷宮内部で定着する方法を考える」
「は、はい! カトリンに言ってきます〜」
言うが早いかブレアはカトリン…いやカトリーヌの元にぶっ飛んでいった。やれやれだな。
「……よろしかったのですか? そのような指示は出されて無かった筈では?」
そう、その通りだ。
「……まあ、臨機応変ってところですかね? 迷宮運営は地味で息の長い仕事ですからね、多少の息抜きは必要でしょう。いざとなればダンジョンマスター権限で命令しますが、そこまででは無いと判断しました(勘だけど)」
「……そうですね」
そう言ってエレノアさんもブレアの後を追ってカトリーヌの所へ向かった。少しだけ嬉しそうなのは気のせいか?
「……ウサギねぇ…」
どうやらこの世界ではウサギは人気のようだ。
「……侮れんな…」




