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ダンジョンコアメンタルは恋をしない  作者: 菜王
第一章 迷宮を作ろう!
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第二十六話 胎動

第二十六話 胎動


☆ジュール大森林開拓村


 早朝ーーアンネローゼはジェラルドの元に向かっていた。要件は一つ、前線への視察である。その途中、ヨシュアを伴い本部施設に向かう二人は僧侶サロメと鉢合わせした。聞けば彼はジェラルドに呼ばれたと言う。何かが起こった様だった。

「何事かしら?」

「さて、ここは一応とは言いますが広大な魔境なのですから、何が起こってもおかしくはありません」

 周囲を見渡すと急ピッチで開拓村の拡張が進んでいる。しかも、専門の工事関係者が多数入り込んでいた。そしてギルド関連と思しき者や冒険者もその数を増やしている様だった。

 さらに先遣隊が雇い入れた現地雇用の偵察隊も帰って来ており、報告が一斉に集まり始めている。天幕が張られそこへ集められた冒険者達は、報告と報酬を受け取る為の列を作っていた。

 その中にタニア、ミア、スピカの三人もいる。かなり早朝から動いた様だった。アンネローゼは深い溜息を吐きながらジッと人の流れを見ている。



「沼の迷宮にいくのですか?」

「そうです。濃い瘴気が蔓延している様です。そのままでは影響が強すぎる恐れがあるのでサロメ殿のお力をお借りしたいのです」

 一応は僧侶達を指揮する立場であり、先遣隊に席を置いているのだから別におかしくは無い。仕方なくサロメは命令を受け入れ数名の僧侶を連れて第二陣に加わる事になった。

(おかしい…なぜ沼の迷宮に異変が?)

 その表情の変化をジェラルドとドロスは見逃さなかった。それは本当に僅かな変化でしかなかったのだが、その目に宿る不信を見抜いた事により、ジェラルドはある確信を得る事になる。

「如何なさいました? サロメ殿?」

「い、いえ、では早速に準備をはじめ、第二陣に同行させていただきます」

 そう言ってサロメは従者と共に宿舎に帰り準備に取り掛かった。

『見張りを付けてくれ。何らかの連絡を取り合う筈だ。例え現場を押さえても気付かぬフリをしろと伝えてな』

 ドロスはコクリと頷き部屋を後にする。

 すると入れ替わりでアンネローゼが訪ねて来る。ジェラルドは内心ではアンネローゼは何らかの秘密を握っていると睨んでいた。そしてーーその立ち居振る舞いから捨て駒の可能性も有るとも読んおり、さて薄幸の美女が何を企んで来るのか興味津々だった。

 従者に案内され入室したアンネローゼの瞳には昨日までとは別人のような決意の光が見て取れる。ジェラルドは『……何かあったな』直感的にそう判断していた。ならば尚の事その発言には重要性が増すと言うものだ。

「これはこれは監察官殿、今朝は如何様なお話でしょうか?」

「はい、私達もそれぞれの迷宮に赴き、任務を果たしたく思います。つきましては第二陣にお加え頂きたく参上いたしました」

 これは監察官としては至極当たり前の行為でありなんらおかしい事は無い。

「なるほど、ではどちらの迷宮に向かわれますかな? それぞれ流石に日帰りは難しく思われますので、順次補給の部隊に同行していただく事になると思われますが」

 ここでアンネローゼは何の躊躇も考える素振りもなく

「先ずは岩の迷宮から視察に参りたいと思います。補給の第二陣に参加させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

 そう答えた。

「……岩の迷宮…ですか?」

 先ず異変が起こったのは沼の迷宮である。疑わしいサロメの表情とこのアンネローゼからの申し出から判断すると『沼の迷宮は想定外、岩の迷宮が本命なのか?』そして岩の迷宮にはガザムがいる。

 本来なら水晶の迷宮が本命であり、貴石も希少金属もその殆どはそこから見つかったモノだった。だから最精鋭の部隊を送り込むのは最初から決まっていたのだが……

 ここでジェラルドは思案する。前線への視察を断る訳にはいくまい。さりとてそのまま望む所へ送り込むのは得策ではない気がする。しかしサロメと共に向かわせるのはさらによろしく無い。下手をすれば現地で変な合意まであり得るのだから。

 ただ一つ分かったのはサロメとアンネローゼの持つ情報には差があると言う事だ。

「分かりました。ただ岩の迷宮へ向かう補給は暫く時間が空きそうです。それでよろしいですかな? なんなら他の迷宮に先ず向かわれても構いませんが? 沼の迷宮と水晶の迷宮は直ぐにでも出発出来ますがね」

「い、いえ、先ずは岩の迷宮に赴きたいと思います。何か問題でもありましょうか?」

「いえ、それではその様に手配いたしましょう。出発の準備が整い次第また連絡致しますのでお待ち下さい」

「……無理を言ってすいません。ではその様に準備にかかります」

 そう言ってアンネローゼは執務室を後にした。

 ジェラルドは窓から引き上げていくアンネローゼをジッと見ている。そこへドロスが帰って来た。サロメへの見張りの手配を終え、窓の外を歩くアンネローゼに魅入っているジェラルドに気が付き、この旧友の息子を嗜める様に言う。

「ジェラルド、分かっているだろうが」

「伯父上、どうやら動きが出そうです」

 ドロスを制止する様にジェラルドは視線を室内に戻した。

「……アンネローゼか?」

「はい、恐らくコレが本命でしょう」

「では沼の迷宮は?」

「……そこまでは…ただ…」

「……ただ?」

「……恐らく幾つかの思惑が錯綜しているのではないかと…」

「……それが…岩の迷宮…なのか?」

 ジェラルドは静かに頷き、ガザムの事を考えていた。奴ならば…

「増援を送りましょう。アンネローゼの護衛を兼ねて!」

「やれやれ、やはり懲りては無いな」

「花を愛でるは騎士の嗜みですよ、伯父上!」

 だが、アンネローゼの同行が決まり、増援が決まった丁度その時ーーガザムは既に迷宮にその第一歩を踏み出していた。

 そこは数百匹のモンスターが犇めく地獄の釜であり、脱出の隙を伺う輩を閉じ込める蓋でもある。



「タニア、また騎士団から依頼が出たってよ」

 ミアがそう言って三人の住む小屋に入って来た。どうやら緊急の事らしく人を急いで集めているらしい。

「……またかい? なんだか急なんだね?」

 その時タニアは沼の迷宮に起こった異変を開拓村の仲間から伝え聞いていた。一応は秘密扱いらしいので素知らぬ顔で

「……で? 何の依頼だい?」

「ああ、岩の迷宮にいく第二陣の応援らしいよ。あと迷宮の探索の補助もあるみたいだね」

(沼の迷宮じゃないのか。なら安全なのかね?)

「どうする? タニア、受けるなら身体を開けるけど。どうせこんなに騒々しいんじゃ森の中で狩りも捗らないからね」

 タニアは少し思案して、どうやら安全だと判断したようだ。それに魔境や迷宮の探索任務には自分達のようなジョブは必須だし、実力のある騎士団となら安全度は高い。だからーー

「スピカを呼んで! ひと仕事やろうじゃないか」

「了解! やっぱり稼げる時に稼がないとね!」

 そう言ってミアは従魔の世話をしているスピカを探しに開拓村の外へと向かって行った。



 開拓村の少し離れた所を流れる川にスピカはいた。希少なシルバーウルフであり一番頼りになる従魔シルバは彼女にとって心の拠り所でもある。何より感知能力と攻撃力の高さは何度もスピカを救ってきたのだ。

 しかし、最近様子が少しおかしい。時折森を睨んで唸りだしたり、凄く不機嫌な時があるのだ。ただそれは漠然としていて、特定の何かではなかった。それでもシルバは何らかの異変を感じ取っているようだった。

 「……シルバ、どうしたの?」

 小川の水で身体を洗ってやりながらスピカは心配そうに語りかける。するとロビンがPASSを通じ接近するモノを伝えてくる。慌ててスピカが見上げると「……ハト?」直上を連絡用のハトが飛んで行った。そしてまた一羽。

 その時、タニアに言われ探しに来たミアが、ハトを見送るスピカを見つけ走り寄って来る。

「スピカ〜! タニアが仕事を受けるってよ〜」

「は、は〜い。帰ろうか、シルバ」


 こうしてタニア、ミア、スピカの三人は岩の迷宮の探索に参加する事になった。それは簡単な斥候担当の安全な任務になる筈……だった。

 


 

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