第二十五話 再始動
第二十五話 再始動
☆迷宮カトリーヌ
椎葉とカトリーヌは隠蔽したフロア01に移動していた。三人の探索者が探し回っていた、ほぼ一本道の洞窟の奥に広がる迷宮の拡張を始める打ち合わせだった。
「このまま隠蔽した状態でフロア01を完成させよう。取り敢えず定着の為の準備も同時進行するから今日は昨日の残りを仕上げ、後はフロア11にライフスペースを設ける」
「……了解した。ではかかる」
カトリーヌが岩に手を翳すとユラユラと通路が広がっていった。昨日よりも二三割早く感じるのは気の所為では無いだろう。実は通路を2B(2m×2m)に変更してあるのだ。フロア01から05まではどうせ迷宮型なので形状も一定では無いし、思い切って仕様変更に踏み切った。
椎葉はカトリーヌの頭をポンと撫でブレアを連れてエントランスに向かった。
♢
エントランスで椎葉はブレアに最終確認を行っていた。
「ではマーキングした群れは全部岩の迷宮に送ったんだな?」
「はい〜!あとはスライムとかと大ネズミさんとかです〜」
椎葉は若干思案した後指示を下す。
「先ずは大ネズミを優先する。集めれるだけ集めるんだ。そしてその後に再度コボルトとグレイウルフをリクルートするぞ」
「りょ、了解しました! では〜!」
ビシッと敬礼をしてブレアは森の中に飛び込んで行った。この森は大変生き物の密度が濃いい。元々穴を掘って住む大ネズミや大イタチ、穴ウサギの類いはほっておいても定着し易いのだが、ジッと待つ訳にはいかない。
解放した迷宮には先ず小さな昆虫や小動物、苔や菌類などの植物達が先ず定着していくといわれている。椎葉はさらに持ち込んでいる食料の中から取り敢えずの餌になる物を選び出し主に肉類、豆類、穀類をばら撒いて行った。
餌の匂いに釣られて来る動物もいるだろうし、ブレアが魅了したり精神魔法で操って連れて来た奴等も餌があれば取り敢えず暫くは定着する筈だ。先ずは大ネズミの繁殖環境の整備が急務だろう。
ふと見ると捨てられた衣類の中にカボチャパンツが見えた。はからずもエレノアさんがカボチャパンツを愛用している事が判明してしまった訳だが、残念な事に儀装工作としてこのフロア01はこのまま保全する事になっている。俺はエレノアさんと暫く顔を合わさ無い様に努めようと思う。
明日にでも大人パンツを進呈したい。確かMagicBOXに大量に持ち込んでいる奴が二人いるとの情報をTABLETで確認している。捨てなくて良かったとつくづく思った。
♢
餌をばら撒いていると何やらチュウチュウと鳴き声がする。しかも大量にガサゴソ動く気配
「……帰って来たか」
エントランスに戻ると数十匹の大ネズミがウロチョロしている。そしてブレアの姿は見え無い。つまり
「……まだまだ増えるんだな」
餌に釣られてあちこちに移動していくのを確認して俺はカトリーヌの元に向かった。
「カトリーヌ、調子はどうよ?」
「……うん…いい感じ?」
ユラユラと岩が吸い込まれる様に溶けて通路が拡張されて行くのを横目に、俺は大ネズミ用の繁殖コロニー用の通路を指示した。そこは小さな小路を足元につけ大ネズミ専用にする。これで狩られ過ぎて一匹も居なくなる事は無いだろう。
エントランスに戻るとさらに大ネズミが増えている。多過ぎる気もするが取り敢えずブレアに任してみよう。流石に上位種だけあってリクルートはお手の物の様だ。周囲から根こそぎ集めて来る勢いである。
♢
二時間程が経過した。通路は元と合わせて800mほどが完成している。一時間に300mほどだが、一番単純な洞窟タイプだから作業効率は鬼の様に早いようだ。
「カトリーヌ、オヤツの時間だ」
「……ん、休憩する」
とは言ってもあるのはMREのフルーツバーだけなのだが。ライフスペース完成の後には転移魔法陣を用意する事になる。その時には定期的に物資を受け取れるからそれまでの辛抱だ。その後はティータイムとして確率したいものだ。
「ブレアもオヤツ〜!」
「わかったわかった! ほれ、フルーツバーだけどな」
「結構美味しいですよ〜」
「……ナッツもいいけど…ラズベリーも秀逸」
「いや、ここはやはりシンプルにキャラメルとかメイプルが王道だろ?」
「あなたたち! それは一応非常食なのを忘れ無いでね!」
エレノアさんも現れた。
「……現れたエルフレンジャーはどうなりました?」
「……今日は休ませました。明日から監視任務に戻りますが…それで良かったんですね?」
不安気なエレノアさんには気の毒だがこれが情報戦と言うものだ。
「結構です。エレノアさんはどれにします? 俺的にはメイプルがお勧めなんですがね」
呆れ顏のエレノアさんはメイプルを手に取った。うむ、大人味だからね。
「あと、あのドングリの継続ですが」
「はい、問題は何時までエルフレンジャーをお借りできるのかですよね」
そう、当然いくらカトリーヌが眷属支配下に置いたコボルトを集め魔境を広げたとしても不可能だ。エルフレンジャーの高い隠密行動力と磨き上げられた投擲能力が無ければ不可能なのだ。
「間も無く残りのカテゴリー4の迷宮運営も始まりますので、余り多くのエルフレンジャーを残す事はやはり出来ません。残せても四,五人でしょうね」
なんとか運営出来るが監視体制の維持は難しそうだ。まあ、本来なら一人残らず帰還するのを無理矢理頼み込んでいるのだ。しかも不干渉が禁忌であるのをギリギリ踏み越えさせているのだから。
「十分です。それでやりくりしてみます」
「ではそれを報告させていただきます」
「当然ですから! その為に二班に分けたんですからね。最後はドングリ班だけになりますけど」
それまでに迷宮運営を軌道に乗せなければなら無い。そして俺はキャラメルバーを齧りながらTABLETを確認しながらジュール大森林の地図を確認している。[岩の迷宮][水晶の迷宮][沼の迷宮]には既に斥候部隊がキャンプを設営して体制を整えたと言う。辛うじてこの迷宮カトリーヌには低レベルの冒険者が様子を見に来ただけで済んだ。報告されても人が住んでいた様な洞窟に構う酔狂な奴は現れ無いだろう。と言うより手が回らない筈だ。
そしていよいよ、儀装作戦は第二段階に移行していく事になる。




