第二十四話 ガザムの決断
第二十四話 ガザムの決断
☆迷宮カトリーヌ
早朝ーー三人の探索隊はまだ夜の明け切らぬ内から行動を開始し、一通り周辺を探索したのち、開拓村へと戻って行った。それをカトリーヌは[マナリアクター]ルームからジッと監視している。万が一に備え椎葉はアスラガルド南端転移魔法陣の仮設キャンプに下がっており、エルフレンジャーと二重の監視体制を敷いていた。
「……行った…みたいね」
カトリーヌはそう呟くと椎葉にPASSを繋ぎ連絡を取り合う。
『…椎葉…作戦終了…した』
『…了解……良くやったぞ! カトリーヌ! ではすぐにそちらに向かう』
『……ん…まってる…』
監視についているエルフレンジャーの一人はそのまま三人に付き、残った一人が転送用の魔石を地面に埋め込み、受け入れの準備を始めた。
『転送準備完了です。何時でもいけます』
『了解した。ではエレノアと椎葉、ブレアを送る』
『了解! では引き続き警戒にあたる』
任務を終え、エルフレンジャーの一人は「ふぅっ」と溜息を吐いた。経験豊富なこのエルフレンジャーでもここまでの事態は初めてであり、よく凌ぎ切ったと胸を撫で下ろしている。後は再度ダンジョンマスターを受け入れ、大森林が混乱している隙に拡張を行わなければならない。決して楽観は出来ないが取り敢えず一つ目の山は越えた事になる。
その背後に、まるで三人の探索者と入れ替わる様にエルフレンジャーが現れた。それは共に任務に当たる仲間であり見知った古き友でもあった。
しかし「お、おまえ、無事だったのか!」その問い掛けにまるで何事も無かったかの様に「……ああっ、突然襲われてな。何とか命からがら逃げたしたんだ。もう、探索者は開拓村に帰って行ったのか?」と答えた。
「……ああ、エレノアに報告したのか?」
「いや、まだだ」
「もうすぐ此方に転移してくる。帰還報告を上げておくぞ?」
「ああ、頼む。少しダメージを受けているようだ。休ませてくれ」
「……ああ、ココは目立つからあちらの岩陰に引いておけ。俺も転移確認後にまた監視に戻る」
「……済まない」
そう言ってエルフレンジャーは岩陰にフラフラと歩いて行って座り込んだ。
そしてエレノアに連絡を取る。
『行方不明になっていたエルフレンジャーが現れました。今少し休ませています』
『……現れたのね?』
『……はい』
『では直ぐに向かう! 事情を確認すると伝えてくれ』
『了解しました』
そう言って連絡を終え、エルフレンジャーは帰還した仲間をジッとみている。
「エレノアが事情を確認したいそうだ」
「ああ、分かってる」
数分後ーー魔法陣が展開しエレノアと椎葉、ブレアを転移させた。そして数名のエルフレンジャーを引き連れていた。
そしてエレノアがサッと周囲を確認し受け入れたエルフレンジャーを呼ぶ。
「あちらの仮設キャンプは閉じた。後は通常任務に一旦戻るぞ。帰還したエルフレンジャーは何処に!」
「あちらの岩陰に休ませております」
そしてエレノアは引き連れて来たエルフレンジャーを共に岩陰に向かった。
椎葉とブレアはチラリと一瞥した後ダンジョン入り口に向かう。そのままダンジョンウォークを使い一気にカトリーヌの元に向かって行った。こちらも一刻の猶予も無い。ギリギリ稼いだ時間を最大限に有効活用すべく直ぐに準備を始めた。ここからが本番である。
そしてエレノアは帰還したエルフレンジャーの前に立つ。
「無事でよかった! 取り敢えず何が起こったか話して貰おうか」
ポツリポツリと話し始めるのをエレノアはジッと耳を傾けて聞いている。
♢岩の迷宮
死に物狂いで岩の迷宮に辿り着いたガザムはハトを飛ばしジェラルドに報告を入れる。
(これで少しは面目もたっただろ)
ガザムが強行して岩の迷宮に先行したのには訳があった。
それは恩である。
ガザムは同じ訓練兵の時にジェラルドと知り合っていた。元々歯にお仕着せぬ性格のガザムはその時からトラブルが多かったが、同じく貴族で有りながら度々問題行動を起こすジェラルドとは何故か馬があった。
幾たびか鞍を並べて戦場を駆け回る内に二人は意気投合し何かとつるむようになっていた。その古い縁で、上役と揉めて放逐されそうになったガザムをジェラルドが何とか先遣隊に引き摺り込んだのだ。
それが無ければ今頃何処か辺境にでも飛ばされていただろう事は想像に難く無い。ガザムはそれが有って何としても遅れを取る訳にはいかなかったのだ。自分を無理矢理引き入れてくれたジェラルドに恥をかかせる訳にはいかない! その思いが全てだった。
そして何とか最低限の遅れで辿り着いたガザムはジッと迷宮を監視して居た。まだ残りの重装備部隊は辿り着く気配は無い。流石に少数で乗り込むのは例え破壊された迷宮とはいえまずいと判断して兵力が揃うのをジリジリと待っていた。取り敢えず最低限の格好はつけた事になる。
しかし、その所為で大きく予定を狂わせ混乱に拍車を掛けている奴等が、逆に突然現れたガザム達を苦々しく見ていた。
「……ちくしょう! 報告ではこの岩の迷宮に斥候が辿り着くのは今日の夕方だったはずじゃ無いか! なんでもう目の前に居るんだよ!」
「……流石にこの人数では突破は難しいな」
「……俺達の存在を知られる訳にはいかん。恐らくこれからキャンプを設営し、本格的な攻略は明日早朝からだろう。なんとか夜の闇に紛れて離脱するしか無い」
「しかし、この数が五倍近いモンスターのはどうするんだ⁉︎」
「いまさら反召喚はできん!」
「な、なに、どうせいずれは本隊が来るのは間違いないんだ。全滅しても問題は無かろう?」
「しかし予定の五倍の容量なんだぞ? あの術式がどうなるか」
しかしもはや手遅れだった。
ガザムは破壊され放棄された筈の迷宮に、数百匹のモンスターが犇めくのも知らず探索に挑む事になる。
ガザムは素行に問題こそあれどハイレベルな剣士であり、ジェラルドの恩に報いるためにその士気は高い。先行した者から手練れを集め、ガザムは少しの休息の後、探索を開始しようとしていた。
この部隊にはジェラルド子飼いの者も多く、それがガザムには有利に働いており、自信にも繋がっているのだが、それがガザムに功を焦らせる事になる。
ジェラルドから預かった優秀な部下はきっと自分の期待に応えられるだろうと当然の様にガザムは思っていた。何故ならここは数十年以上前に打ち捨てられた言わば空き家の様な物なのだから。
「嫌な予感がするぜ」
迷宮の入り口に立つガザムはそう言って集めた手練れの部下を一瞥すると、自ら先頭に立ち迷宮に乗り込んで行く。数人をキャンプの設営と見張りに残し、岩の迷宮に挑む決断をしたのだ。




