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ダンジョンコアメンタルは恋をしない  作者: 菜王
第一章 迷宮を作ろう!
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第二十二話 混迷する大森林

第二十二話 混迷する大森林


☆水晶の迷宮


既に迷宮に到達している探索隊はキャンプを設営し攻略の準備を始めていた。


そして歩哨に立っている兵士に異変が起こる。


〈カツンッ!〉

その時、何かが盾に当たった。


「!!!……な、なんだ?」


しかし何も起こら無い。ここは驚異は低いといっても魔境であり、そして迷宮の入り口でもある。何が起こってもおかしくは無い。


〈カツンッ!〉

また何かが盾に当たった! 今度は気のせいでは無い。そしてポトリと何かが落ちる音がする。森の中から飛んで来た何かが盾に当たり地面に落ちたのだ。


しかしその方向を見ても何もいない。そして足元を見ると


「……ドングリ…なのか?」


〈カツンッ!〉

「!!! 」

〈カツンッ!カツンッ!〉

「!!! ど、どうなってやがるんだ!」

〈カツンッ!カツンッ!カツンッ!〉


その時一斉に大量のドングリがキャンプに撃ち込まれて来た。


「どうした! 何の騒ぎだ!」


その時[水晶の迷宮]探索隊の隊長でもあるブルームが慌ててテントから飛び出して来る。これから本格的に迷宮探索が始まろうと言う矢先に何が起こっているのか! その顔は険しい。


兵士は慌てて敬礼をして答える。


「あ、あの」

「どうした、何があったんだ!」

「ドングリが」

「……ドングリ? ドングリがどうした!」

そして兵士は拾ったドングリをブルームにそっと見せる。

「あの、森の中からドングリが飛んで来まして……」

「!!! ドングリだと! 貴様それで大騒ぎしていたのか!」

怒鳴られて兵士はビクッとして俯く。そう、ドングリに殺傷性は無い。怪我をする訳でも無く何かを壊す訳でも無い。ただ当たるだけなのだ。だけなのだが……


〈カツンッ!〉

そしてまた一発のドングリがーー今度はブルーム隊長の兜に当たりポトリと落ちる。


キッと森の中を睨みつけるブルームだが、そこには何の気配も無い。


そして落ちたドングリを拾い上げるとジッと食い入る様に見つめる。


(ただのドングリじゃないか! 何だって言うんだよ!)


たかがドングリ


されどドングリ


椎葉の放った次の一手は、エルフの禁忌ギリギリの戦術だった。


そしてブルームはまたドングリの飛んで来た森の中をジッと睨みつけるが、何も感じ取る事は出来ない。


ジュール大森林に起こった小さな変化はまだ始まったばかりである。



♢岩の迷宮


岩の迷宮最奥部ーーそこは本来打ち捨てられた迷宮の残骸が残っているだけだった筈なのだが、そこには二つの影があった。


「おい、準備は出来たのか!」「まて、まだ召喚術式が完成していないんだ」「急げよ! もうすぐここにも斥候が来るんだぞ!」「分かってる!」


二人が組み上げているのは簡易版迷宮領域を作り上げる術式だった。


ある特定の範囲において死んだ者の魂と魔力や、倒されたモンスターの魔力を吸収し、その力を用いてさらにモンスターを召喚し続けるジェネレーターを作り出す物だった。


効果領域は限定されるが、召喚陣と術式、いずれかを破壊しない限りいつまでもモンスターを吐き出し続ける物だが、当然そこに与えられた生け贄以上には召喚は行われ無い。


だからその効果は制御できる筈である。そして二人はその生け贄となるべきモンスターを召喚し最初の供物にしようとしていた。数十匹のゴブリンやトロル、オークやダイアウルフを呼び寄せようと召喚の準備をしていたのだ。


そこへまた一人の影が現れる。


「宝物は仕掛けた。あとは迷宮に探索が入ればそれでいい。ジェネレーターの準備は出来たのか?」

「よし、後は最初の召喚をすれば終わりだ」

「いそげ!ここから少しでも早く引き上げねばならん。既に他国からの間諜も入り込んでいると報告があったからな」


そして男達は魔石を取り出し、召喚を開始した。魔法陣が輝いた後、数十匹のモンスターが姿を現す。この迷宮全体に仕組まれている領域には、儀式魔術により召喚と同時に支配下におく術式が組み込んであった。だから後はこの迷宮から立ち去れば任務は完了する予定だったのだが……


しかし


そこにイレギュラーな存在が現れる。それは闇の中をフワフワと飛びながら奥へと進んでいった。三人の男達とは違う行き止まりへ向かった羽を生やした少女は、行き止まりの少し広い空間に降り立つと、懐から魔石を取り出し、地面に埋めてその魔力を解き放つ。そしてそれを三ヶ所に施していく。


その後何かを伝えた少女が立ち去ると同時に魔法陣が展開し、多数のモンスターが三つの魔法陣に転送されて来た。


もしもタイミングが少しでもズレて入れば男達は異変に気が付いた筈なのだが、ほぼ同じ時に召喚は行われ、こちらは数百匹に及ぶ大群だった事が事態をさらに悪化させていく事になる。


そしてさらに最悪な事に、本来なら離散していくであろうこちら側の召喚モンスター達も、この領域に仕掛けられた術式に捉えられそのまま支配下に置かれてしまった。


しかし、その羽の生えた少女はそんな事には気付きもせず、一目散にこの迷宮を飛び出していく。本来ならこのサキュバスである少女も支配下に置かれる筈なのだが、上位個体であり高い精神攻撃耐性を持っている事が幸いして難を逃れる事が出来たようだった。


そしてーー三人の男達は立ち去る時になってその異変に気が付く。迷宮の奥に群がるモンスターの群れをみつけたのだ。


「……お、おい! どうなってるんだ!」「そんなばかな! いつの間にこんなに現れた!」「……まずいぞ! 数が多すぎる!」


そう、数はあきらかに予定の五倍近かった。しかし今さら元に戻す事はできない。そしてーー間も無く騎士団から送り込まれた斥候がこの迷宮に到達する筈なのだ。


「……どうするんだよ」

「「…………」」


三人の男達は呆然とモンスター達を見る事しか出来無い。


そしてその岩の迷宮の目の前に、斥候部隊がやっとの思いで辿り着いていた。正確には斥候部隊の一部である。軽装で移動力に長けた者だけを集め、ガザムは先行したのだ。資材の多くは後送させる腹積もりでの強行軍だったのだが、それが想定外の事態となり、三人の男達は迷宮の出入り口を押さえらた事にまだ気が付いてはいなかった。この事がさらに事態を悪化させていく。ガザムがこの時もっともこのジュール大森林における謀略に接近していたのだが、それは闇の中に暫し沈む事になる。



♢アスラガルド南端転送魔法陣


椎葉は転送されていくモンスター達を見送っていた。


数百匹にまで膨れ上がっていたモンスターは三回に分かれ送り込まれて行く。


ブレアからの連絡を受け送り込むまで、僅か数分で全ての転送を終了していた椎葉に、エレノアから報告が入る。


「椎葉、ギリギリでした。ブレアが離脱した直後に斥候部隊の一部が岩の迷宮に辿り着いたようです」


「よかった…何とか間に合いましたね」


「それと、椎葉の提案通り、エルフレンジャーは騎士団に対する…その…悪戯でしょうか? そちらも開始しました。効果は良く分かりませんが、それでよろしいのですね?」


椎葉はニヤリと笑い「結構です。あくまでも陽動ですからね」と付け加えた。


「それと、他国の者と思われる間諜がジュール大森林に入り込み始めています。おそらくは周辺五カ国全てと思われます」


それを聞いた椎葉は驚きを隠せなかった。


「……このタイミングでですか」


「……はい。現在は周辺より開拓村に向けて移動しているという事です。おそらくはは一両日中には何らかの接触を行うとみられます」


「……そうですか…」


そして椎葉は、またジッとジュール大森林を見つめながら、ブツブツと何かを呟きながら思索に耽り始めていた。


この森に多くの誤算が積み上がり、事態は予想外の展開を迎えていく。いや、それは全体を俯瞰してみれば当然の出来事でありなんらおかしい事では無いが、一人一人の視点からでは辿りつく事の出来無い神の視座なのだ。


そしていくらカテゴリー5カトリーヌのダンジョンマスターと言えども、一人の人間である椎葉には当然予見する事などできない。


そして、事態は徐々に混迷の度を深めながら、次の段階へと進んで行った。


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