第二話 赤い髪の少女
強引すぎるでしょうか( ̄◇ ̄;)
序章
第二話 赤い髪の少女
☆
その赤い髪の少女は後ろ姿だった。
まるでどっかのホラー映画の様に……
周りを見ると、少し様子が変わっていた。幾人かいる目立つ髪の毛の女の子が、お気に入りの新入社員を見つけたのか、ペアの様になっていた。不思議なのは、それ以外の女の子は寄ってたかってまとわりつくのに、その目立つ髪の毛の女の子の周りには寄り付こうとし無い。時折きになるのかジッと見ている少女もいるが、直ぐに別の社員に向かって動き出すのだ。
「なんでだ? まるで棲み分けでもしてるみたいじゃないか」
俺は少し不可思議な気持ちが頭をもたげてきた。今日の課題にしてもいきなりこの部屋に送り込まれ、子供たちの面倒を見ろと言われ、そしてこれは試験でこの結果に寄ってこれからの配属先が決まると言う。
しかも、この会社は外資系企業なので、一旦外にでたら十年は帰って来られ無いつもりでいろと脅され、念書まで取られ、契約書にも入っている。
そしてーー極め付けはこのずっと後ろを向いている少女だ。
そう言えばーーさっきから視線の端に引っかかっていたーー気がする。
しかも、何故か後ろ姿だけだ。
しかし、俺が歩くとーーやはり後ろにいる。距離にして約十メートル程をキープしている。俺が見ている間は動か無い。
「……挑戦状…か?」
俺はジッと少女を観察し始めた。そしてその時は気が付かなかったのだが、この時ーーつまり、この赤い髪の少女に気が付いた時からーー俺の周りから少女達は離れていった。
全く気が付いてはいなかったのだが、この百人近くが入り乱れるこの部屋の中で、俺と赤い髪の少女は明確に対峙していた。十メートルの距離をキープしながら……
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巨大なモニターが幾つもある部屋に、数十人が食い入る様にーー少女達と新入社員の様子を伺っている。
その中には長い、まるで魔法使いの様なローブを着ている者もいた。その中に一番大きなテーブルに座る三人が、パソコンのモニターに送られてくる情報を注視していた。
「既に何組か出来ておるようですな」
「ふむ、今年は中々に粒揃いのようじゃの」
「さてさて、まだ始まったばかりですからな、判断するには早すぎですな」
その三人はジッとパソコンの情報を見ていた。そこに、先ほど新入社員に研修の訓示を行った女性研修官がタブレットを携え、高いハイヒールの音を響かせながら歩み寄って来た。
「こちらに現在状況をまとめてあります。既にカップリングが終了した者から順次退席させておりますから、この調子ですとあと一時間ほどで第一次は終了でしょう。あと…」
そう言ってタブレットをタップして、パソコンにデータを送る。
そこには
「「おおおっ! こ、これは!」」
三人のどよめきが室内に広がり、中にいた職員達が振り返る。
「既にカテゴリー4の七人は相手を定めた模様です。うち四人はカップリングを終了しておりますので、間も無く外に誘導したいとおもいます」
「なんと! カテゴリー4から既に四人も! 」
「これは数十年ぶりかの?」
「少なくとも私の記憶にはありませんな」
「そしてーーカテゴリー5、[カトリーヌ]が接触を開始しました!」
「「「おおおおおおおっ!」」」
この発言に室内が揺れた。
「なんじゃと! 産み落とされてから五百年、一度も接触を行う事すら叶わなかったあの[カトリーヌ]がか!」
「信じられませんのお、一体今季はどうなっておるのか?」
「……何かの前触れなのですかな?」
「……さて、それでも結論は」
「はい、これからです。今、[カトリーヌ]は[椎葉]と言う新入社員に興味を持ち、接触を試みております。ですが、この社員は……」
そう言われて三人はモニターでチェックをしていく。
「なるほど、補欠の補欠というやつか」
「確かに余り優秀そうでは無いの」
「そうですな。だがしかし」
「「全ては[カトリーヌ]次第ーーと言うわけか」」
研修官はコクリと頷きーー目線をモニターに移した。
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カテゴリー4
◎キャサリン
◎チグサ
◎エリザベス
◎ミレーユ
○ケイティ
○ウーツェ
○ティリカ
カテゴリー5
◇カトリーヌ
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そして皆が[カトリーヌ]と[椎葉]に注目していた。
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どうあっても前を向かないつもりか……
その赤い髪の少女は追いかけるとまるで後ろに目があるかの如くスルスルと逃げていくのだ。まさか飛び付いて捕まえる訳にもいかないしな。
俺はどうしてもその赤い髪の少女と話しをしたくなった。
ニャロメ! 大人の知力を舐めるなよ。記憶力や計算力には自信が無いが、閃きと直感で勝負するタイプなんだよ!
俺は思考を巡らす。
まてよ、そう言えばあの赤い髪の少女は絶えず俺の十メートル後ろをキープしていた。そして何故か必ず俺が振り向くのを察知してそれより必ず早く後ろを向き、俺が前を向くのを確認したかのようにまた追跡を開始している。
なんだ? 本当に霊能力でもあるのかよ! まあいい、先ずは取っ捕まえてやる。話しはそれからだ。
と知恵を絞ると……あれ、簡単だな。
「むふふ、今に見とれよ!」
こうしていい大人と後ろ向き少女の逆追跡ゲームが始まった。
♢
「単純すぎるんだけどな」
俺は先ずは壁に辿り着く。
すると赤い髪の少女はピッタリ十メートル後ろに付けた。振り返ると本当にいた。真面目な奴だ。
さて、そこで一工夫だ。俺は一気に壁際をダッシュする! そして一気に十メートルほどダッシュするとパッと振り返る。うむ、少女はやはり十メートル後ろにいる。しかし一気に追いついたのだろう、壁に沿って立っていた。良し!ココで仕上げだ!俺は角までスタスタ歩くーーと、はやり後ろにいた。よしよし! そして角にそって曲がる……後ろ向きのまま……さて掛かった。前を向けない少女は危険を察したのか壁にめり込む様に後ろ向きを保持している。さて、壁に沿っては十メートルでも角を曲がるに連れ直角三角形の一番長い辺は徐々に短くなりちょうど五メートルになると最短になるんだよね。しかし十メートルをキープするには逃げ出すしか無いが、どうも彼女はそれをする気配が無い。どうやら十メートルを保持するのが彼女にとってのこのゲームにおける最大のルールだった様だ。それを破ればこのゲームは終わってしまうから、遊びが終わってしまうから、彼女はそれが出来ないのだ。
俺はルールに乗っ取り角に詰まった少女が自ら十メートルを保持する事が出来ない様にゆっくりと壁から離れて角の中央に移動し、左右に動けなのを確認した。
そして
ゆっくりと彼女に近づいて行く。
彼女の真後ろに立ちポンッと頭に手を乗せる。噛みつかれる可能性も考えたが杞憂だった様だ。
「捕まえた!」
十メートルゲームは俺の勝ちだ!
「…大人気無い……」
それが赤い髪の少女と最初に交した言葉だった。