第十七話 三つの思惑
第十七話 三つの思惑
☆ジュール大森林北西部
三人の探索隊がジュール大森林を北西に向かって進んでいた。開拓村に来た領主の使いから雇われ、住人の殆どが借り出され、森の周辺部を調べさせられていた。
その中には当然かなりレベルの低い冒険者見習いも含まれてはいたが、ジュール大森林は広大ではあるが凶悪なモンスターが少なく、比較的安全な森だと思われており、開拓村にはそんな若い冒険者がかなり入り込んでいた。
そしてこの三人もそのレベルの冒険者達である。
「でも領主の使いも横暴だよな」
狩人のミナは予定を狂わされ憤慨していた。
「でも手堅い報酬が出るからいいじゃない。ただならゴメンこうむるけどね」
盗賊でもあり三人のリーダーでもあるタニアは臨時報酬に喜んでいた。街から離れた開拓村は移動に手間がかかり頻繁に仕事が請け負える訳では無い。ならばと仕事として引き受けたのだ。
「でも、この森に異変なんて本当に有るんでしょうか? 確かに迷宮は幾つかあるし森の深い所は危険だと重いますけど」
最年少で獣使いであるスピカはシルバーウルフを従え周囲を警戒しながらさらにフクロウを飛ばし前方を探っていた。森の中では狩人と獣使いの索敵能力は重要な戦力になる。レベルが低くとも雇われたのはその所為なのだ。
「でも近衛騎士団がいきなり来るなんて何事かって思うじゃない。でも殆ど説明も無いんだから嫌になるよ」
そう、半強制的に雇われたのだ。しかも説明が不十分では不満も当然と言えるだろう。
「星読みが何か言ったらしいけど、大事な役目があるからとしか言わないからね、やっぱり迷宮で見つかったって言う珍しい石の所為じゃないのかな」
不安気なスピカはシルバーウルフを撫でながら周りを見渡し
「……でも…あの石は誰でも取りに行ける古くて浅い迷宮にあったんですよね? そんなに価値があるのかな?」
タニヤは軽く肩を上げると
「さあね? 貴族様の考える事はわかんないね。さあ、早く割り当てられた場所を探索して村に戻ろうよ。森の中で野宿は勘弁して欲しいからね」
二人も頷き先を急ぎ始めた。
そしてそれを監視するエルフ
エルフレンジャーは森の中に身を潜めジッと三人を監視していた。
(だめだ、このままではあと数時間でカトリーヌの元に辿り着いてしまう)
あのレベルの冒険者を倒すのは赤子の手をひねるより簡単だ。しかしそれは制約により出来ないのだ。[不干渉]が絶対の不文律なのだから。エルフと迷宮の関係だけは知られる訳にはいかない。ジリジリとしながらエルフレンジャーは森の中を進む三人の監視を続けていた。
♢ジュール大森林開拓村
森の中に建てられた小屋の一室で蒼天騎士団の先遣隊に同行していたアンネローゼは苦悩していた。一応は先遣隊に同行している監査役なのだが、そこには複雑な思惑が絡んでいた。
粗末な小屋の一室にはアンネローゼと腹心が一人だけだ。深い溜息を吐く主人に腹心であり生家の家臣でもあるヨシュアが心配気に話し掛ける。
「アンネローゼ様、まだ先遣隊が入り込み下調べの段階です。星読み達も力の波動を感じとっただけで何かの啓示を受けた訳では有りません。時期が時期であり場所が場所なだけに近衛騎士団を送り込む決断を王はなされましたが、問題が無ければ先遣隊のみという事もあり得ます」
しかし、それは疑問だった。
ここの所不幸続きで落ち目になっているアンネローゼの生家はまだ見習いでしか無かった自分を無理矢理役席を付けて蒼天騎士団に押し込んで来た。これは必ず何かの手柄を立てろという事なのだ。
しかし自分の力は自分が一番良く分かっている。確かに一応は武門の生まれでありそこそこの腕があるとの自負はある。
しかしそれは人並みの少し上でしか無い。しかも女の身では余程でない限り活躍の場は無い。現に今の役席も監察官だ。前線で手柄を立てるというより裕福な家柄の跡取りが経験と実戦の為に先ずは入る様な仕事なのだ。華々しい活躍など余程でなければ望めない。しかもその時とは壊滅的な危機の事なのだから、まだ若いアンネローゼが憂鬱な気持ちになるのは仕方ない事なのだろう。
(後継さえ入れば)
そう、後継さえいるなら自分は今頃何処かに嫁に送られ多少の不自由はあろうとも女としての人生を送れたのに。
アンネローゼはそう思いながらも口に出す事は出来ず粗末な小屋の窓から外を見ていた。
すでに先遣隊の殆どが村の中に入り宿営地の準備をしていた。今の所は100人程だか本隊となれば少なくとも千人規模の大所帯になる。
「本隊はまだ王都から動いてはいないんだったな」
「はい、さすがに準備には時間がかかりますから。結局は先遣隊からの報告待ちになるでしょうね」
「……報告ね…」
しかし漏れ聞こえる情報からはそればかりでは無い。大国に囲まれたこの国の中枢では何れかの国につき、その武力背景をもって先陣を務め、この貧しい祖国の立ち位置を変えようと画策していると言う宮廷ツバメ達からの情報も耳に入っている。
そして自分の父親も何らかの関わりをもっている可能性があるとも。落ち目の貴族が尻馬にのり逆転を狙うのは珍しい事ではないが。
「ここは場所が悪すぎるのだ」
アンネローゼは憂鬱な気持ちで外を見ていた。
♢迷宮カトリーヌ
「エレノア様、やはり探索の手は真っ直ぐこちらに向かっています。今夜半にはここに辿り着くと推察されます」
「分かった。引き続き監視を続けて」
鎮痛な面持ちでエレノアは迷宮の奥で作業をしているカトリーヌと俺の元に走って来た。もはや一刻の猶予も無い。この迷宮に探索の手が伸びるのは間違い無いだろう。救いはその本隊の目的が近隣とは言え別の迷宮だと思われる所だがそれすらこの距離ではどうなるかわから無い。
「椎葉、あと三時間ほどでこの近辺に到達します。先行するフクロウがいるらしいので行動の制限はあと二時間後です。準備は間に合いそうですか?」
「……そうですね、何とか誤魔化せそうです。ただその後も騙し騙しやるしか無いのが辛い所ですが仕方ないですね」
近隣に人の集落だけでなく騎士団まで来られては迂闊な事は出来無い。しかも精鋭の蒼天騎士団に挑まれてはさすがのカトリーヌも苦戦するだろう。
椎葉は準備を進めるカトリーヌを見ながらこう考えていた。
もしもこれが凌げるならば、例えば迷宮が未完成な事やモンスターの定着がまだな事がプラスに働く方法がある筈だ。グリフォンがサキュバスになった事や下手をするとカトリーヌとブレアが大人パンツでエレノアさんがカボチャパンツなのだって有利に働く戦略がある筈なのだ。そして確信していたのは、ここで最大戦力でぶつかれば必ず敗着になると読んでいた。
既に手は考えてある。
後はエレノアさんにお願いするだけだ。
俺は意を決してエレノアさんに話し掛ける。
「エレノアさん、ご相談が有るんですが」
「……は、はい?」
さあ、ではちょっと動いて見ようか




