第十六話 想定の範囲外
第十六話 想定の範囲外
☆
ここに来て大幅にスケジュールの変更を迫るれる事になった。幾ら何でも人の集落が近すぎる。
動物やモンスターの自然定着を待つ前に冒険者が現れる可能性が高い。人が多いのは願ったり叶ったりだがコレは無理がある。
そもそも自然定着させる為には迷宮を解放する必要がある。しかしその日に乗り込まれればあっと言うまに攻略されてしまう。低レベルの冒険者ならまだしも、高位のしかも時空魔術の使い手でも紛れ込んでいれば目も当てられ無い。しかもカトリーヌはカテゴリー5なのだ。魔王に匹敵するその存在が広まれば一国の軍隊を送り込まれかねない。
何気に[迷宮カトリーヌ]にピンチが訪れていた。
「作戦会議を開く!」
「……分かった…」
「は、はい! ブレアに出来る事なら何でも!」
「椎葉さん、計画に大きな変更があるーーという事なのでしょうか?」
心配気なエレノアさんには残念だがその通りだった。だが、ここで何とかするのがダンジョンマスターだ。
確かにカトリーヌの溢れる力を使い強力なモンスターを召喚して守らせながら迷宮の増強も不可能では無いだろうが、それではダメなのだ。下手をすれば各国に手を結ばせて連合軍を送り込まれるかもしれない。
俺はフロア01からの迷宮運営を始める事にした。
そう、人々を虜にし魂までも吸い上げる悪魔の迷宮運営を始める決意を固めた。俺がモデルにしたのは日本の伝統文化であるパチンコ店経営だ。それを大学の卒業論文の題材にした時、戦後間も無い頃から携わって来たパチンコ界の重鎮と意気投合して、その人の心を掴む手練手管を俺は調べ上げていた。残念ながら非合法な部分が多すぎて提出は出来なかったのが残念だが。
でもそれをエレノアさんやカトリーヌに伝える事は困難だろう。信じて任せて貰うしか無い。
そして未来では無く今この瞬間を変えて行くのが俺流だ。
「さて、それでは先ず…」
「大変です!」
その時外からエルフレンジャーが走り込んで来た。驚くエレノアさんが立ち上がり慌てている仲間を落ち着かせるべく語りかける。
「落ち着きなさい! 一体何が起こったのです!」
肩に手を置き目を見据えて話すエレノアさんにやっと落ち着いたのか報告が始まった。
「王都から騎士団がきました! しかも第一級[蒼天騎士団]です!」
「そ、そんな! なんで王直属の近衛騎士団が!」
「まだ先遣隊ですが、開拓村に入りました! 理由はまだ不明ですが、この周辺の迷宮に関係があるようです。到着後、迷宮に斥候を放ちました」
「こちらには? 何か手を打ちましたか?」
「いえ…そればまだですが、ただ」
「ただ?」
「開拓村から採集者と狩人と思しき集団が多数森の中を移動しています。間も無くそのうちの一組がこの近くに到達する見込みです。しかもその一組は魔獣使いと狩人そして盗賊のスリーマンセルです」
「典型的な偵察部隊という訳ね」
しまった
先手が入った。
エレノアさんにセクハラしている場合では無かったか!
「いつこの辺りに到達しそうですか?」
「早ければあと数時間後には」
「「「!!!!!」」」
エルフは基本的に不干渉だ。彼等に追い払わせる訳にはいかない。近場は結界を張りモンスターを遠ざけているが、あの開拓村はそのさらに外側だ。エルフレンジャーの偵察範囲ギリギリだった。そのさらに外から来られたら、このタイミングで見つけられたのは幸運だったのかもしれ無い。いや、そう思う以外どうしろと言うのだ!
しかも本隊は第一級の精鋭騎士団だと言うでは無いか! まだ迷宮はフロア01の半分しか出来ておらず、ダンジョンコアこそ定着しているがまたま地脈と龍脈には繋がってい無い。まだ900mも地下を掘り進め無ければならないんだぞ!
このまま消耗戦にでもなれば例えカトリーヌといえども……
一旦定着したカトリーヌはこの土地と同義の存在だ。引き剥がせた例など皆無! ましてや前例の殆ど無いカテゴリー5なのだ!
(出来る訳が無い!)
「……椎葉…落ち着いて…私は…大丈夫だから…きっと貴方を護る…の」
「……カトリーヌ…」
カトリーヌは俺を護ると言った。俺がここから逃げ出すとは露とも思っていないのだろう。ダンジョンマスターには束縛はないのだから何時でも脱出は可能だ。その時のマニュアルもある。ダンジョンコアを封鎖してマナの暴走を止める手順もマニュアル化されているのだから。
「カトリーヌ、任せておけ! 必ずここに大魔宮を作り上げてみせる!」
「エレノアさん、エルフレンジャー達を集めて下さい。接近している一組にだけ見張りをつけて、後は開拓村の監視役に集中しましょう。少なくとも騎士団は先ずは開拓村に入ると思われますからね。態勢を立て直し、それから巻き直しです」
「……分かりました。では全てのエルフレンジャーに指示を出しなさい。開拓村の監視と接近してくる偵察部隊だけを交代で監視します。残りは全てここに集めて下さい」
一礼をしてエルフレンジャーが森の中を疾走して行く。
大丈夫だ! この迷宮攻略が目的でないのなら恐るる事は無い。
「ブレア、出番だぞ」
「はわわっ! は、はひぃ! お任せあれ!」
わっ! 噛みまくってる!
「心配するな、お前に囮になって来いとかその身体を使って騎士団を骨抜きにして来いとは言わないからな(サキュバス的には正しい使い方だが)」
「……マスター?」
そして俺は不敵にニヤリと笑い、TABLETを開いた。
「では会議を続けよう」
その不敵な笑いが単にハッタリなのは言うまでも無い。
しかし、カトリーヌにはPASSが繋がっているのだから俺の動揺が伝わっている筈だ。
だがカトリーヌはおくびにも出さず、そっと俺の側に立ち手を握って来る。
「……カトリーヌは…平気…椎葉がいるなら…平気なの」
今……カトリーヌはこう言った。「椎葉が【いるなら】」と。「椎葉が【いるから】」では無く
是非に期待に応えたい所だが全ては未だ不確定な未来に翻弄され続けている。
だが
引くに引けなくなったのは間違いない。
そして俺をカトリーヌとブレアとエレノアがジッと見ている。
俺はダンジョンマスターだ。
この[迷宮カトリーヌ]を統べる唯一の支配者をーー彼女達はジッと見ていた。
その間にも時間は刻一刻と喪失していき、その危険度は確実に増していた。




