第十話 世界最大の一枚岩
第十話 世界最大の一枚岩
☆三日目 4/16(水)
[転移の間]
多少の混乱はあったが、俺達は装備を受け取り、再び転移魔方陣に待機している。
こちらに召喚された時と同じく、周囲には高位の魔法使いと思しきハイエルフが転移の準備をしていた。既に現地には道標たるウッドエルフのチームが入り、座標を設定してその時を待っている。
エレノアさんが「はぁ…」と深い溜息を吐き、最後の説明を始めた。何があったのだろうか? 美人の苦悩する顔も中々にそそられるものがある。
「……椎葉さん、くれぐれも余計な騒動を起こさない様に注意して下さいね」
……うん、顔は笑顔だけどかなり怖い。
「と、当然ですよ! これでエレノアさんとお別れするのが名残惜しいです! 手紙を書きますから是非読んで下さい「いきますから」……はい?」
……今何か聞こえたな?
「……えっ…えっと? その…今なんと?」
「私も行きますから!」
「……えっ⁉︎」
「だから! 私も同行する事になりました! あくまでも暫定措置ではありますが、カテゴリー5ですのでこちらも出来うる限りのサポートをさせて頂きます!」
これは、アレだね。お前ら信用ならんから、お目付け役って事なんだな?
「……ふぅ…」
俺は深い溜息を吐いた。
「何かご不満でも⁉︎」
その目にはかなりの怒りの色が浮かんでいる。少し怒らせ過ぎたかな。
「い、いえ、こんな美人の、しかもハイエルフの方と同行できるとは、光栄に存じます!」
「私はウッドエルフですけどね」
「!!!!!」
「……椎葉…傷を深くするだけだから…喋らないほうが賢明……」
「……マスター大丈夫ですか〜晴れの門出なのに…」
カトリーヌとブレアに慰められるとは。屈辱だ。この汚名は必ず晴らさねばなるまい。
その時、ハイエルフの一人が準備が整った事を告げる。転移魔法はさすがにハイエルフといえど右から左という訳にはいかない様だ。しかも数千キロを飛ぶ[グループゲート]はこの太古の遺跡の力無くては流石のハイエルフといえど行使する事は出来ないと言う。
エレノアさんが二言三言話し、最後の調整を終えた様だ。そしてこちらに来るとこう告げる。
「それではこれより、アスラガルド南端、ジュール大森林に転移します。カトリーヌ様、椎葉さん、ブレア、では魔方陣中央に」
エレノアさんに導かれ俺達三人は魔方陣中央に立つ。その周りにはMagicBOXが地球からの物と合わせて十四個積み上げられている。ユグドラシルからは五つが追加されていた。一つはエレノアさんの私物の様だがーー『ウッドエルフの私物か』是非検閲したいが命懸けになりそうだ。するとカトリーヌがジト目で俺を睨んで来る。まずい……PASSが繋がってるからな。緊張感ある迷宮運営になりそうだ。ブレアは……何も考えて無いようだ。それもまた心の癒しになるだろう。
そして、徐々に強くなる光の明滅がさらに激しくなり、ハイエルフ達が魔方陣の外に下がっていくのが見える。
「それでは……まいります! 大丈夫、気を落ち着けていればすぐ済みます」
無理です。
エレノアさんが目で合図を送ると、リーダーと思しきハイエルフが複雑な発音で魔法を唱え中空にルーンを描くと〈キーーーーンッ!〉と言う大気を切り裂く音が響きーー俺達は再び光に包まれていった。
ハイエルフ達が魔方陣を見つめながらこう呟いた。
「……気の毒に」
♦︎♢♦︎♢♦︎
光の渦の中を俺達は流れに乗るように進んでいった。異世界からの召喚とは違い時折外の世界が通り過ぎるパノラマの様に幾つも目の前に瞬いていくとーー突然〈ゴーーンッ!〉と言う着弾音が響き、俺達は大地に描かれた魔方陣の中央に立っていた。
軽い目眩が襲われる。『同期するまでなのか?』カトリーヌも少しふらついている様だ。ブレアはーー倒れてやがる。エレノアさんは! ーー残念だ。全然平気そうじゃ無いか。ふらついている所を抱き抱えると言うフラグ展開は期待出来無い様だ。さすがハイエルフだな。いやウッドエルフだった。気をつけねば。
周囲を見渡すと、ここは森の切れ間のようだった。そして背後には切り立った山ーーと言うよりは崖が見える。ここが目的地ならば
「ここがアスラガルド南端の一つです。椎葉さんの指定された場所ですね。世界最大の一枚岩ですが、長い間をかけ雨風に侵食されて露出して来たので、表面には森が広がっていますが、間違い無くこの下は全て岩石です。これでも全体の一割しか露出していませんからね」
見上げれば山脈のように見えるが、間違い無くアスラガルドの一部分らしい。しばし見上げる俺達の前に、フードを被った集団が現れた。恐らく彼らは
「ご苦労さま。転移は滞り無く完了しました。周囲の状況はどうですか?」
「問題ありません。危険な魔獣もこの辺りではそれほどでもありませんし、魔獣除けの結界を施しました。一週間は持ちます」
「了解です。ではそのまま周囲の警戒に入って下さい。早速こちらは定着の準備を始めたいと思います。椎葉さん、よろしくお願いします」
エレノアさんとエルフの視線が俺に集まる。そう、ダンジョンを作るのはダンジョンコアでありそれを動かすのはダンジョンコアメンタルなのだが、全ての指揮をとるのはダンジョンマスターたる俺なのだ。
「お任せ下さい。ではしばしお待ちを」
既に詳細な地図を元に周辺の地形は洗い出してある。後は計画通りに最初の関門であるダンジョンコアの定着を行う事になる。
既にエルフ達は周囲に散って警戒に当たっている。魔獣除けの結界もどうしても範囲が広いと漏れが起こりやすい。後は人海戦術しか無い。
それにどうしても一番最初が狙われると厄介なのだ。流石のカテゴリー5であるカトリーヌといえども、ダンジョンコアを定着させるまでは全ての力を使える訳でも無いし、元々戦闘能力は殆ど無い。ガードモンスターも俺はトラブルの所為でサキュバスだから、エレノアさんがガードに付いているのだ。何せダンジョンマスターはただの人間なのだから。何気に最弱なんだよな。
「さてと…では初めるとするか」
俺はTABLETを取り出し[マップ][ロケイト][サーチ][ソナー]を起動し周辺を探り歩く。
「ブレア、カトリーヌを護れ」
「は〜い! お任せ下さいマスター!」
「……大丈夫…安心して…仕事に掛かって」
「カトリン! あっちに綺麗な小川がありましたよ! いってみましょう!」
そう言ってブレアはカトリーヌを連れて行く。カトリンになってるのか。まあ、嫌がって無いからいいかな。ブレアがあんまりカトリーヌ様とかだとかえってやりにくいだろうしな。
「では、エレノアさん、行きましょうか」
「……はい。でも、あの、二人はよろしいのですか?」
俺はTABLETの反応を確認し、問題無い事を告げる。
「ちなみにこの中では俺が最弱ですからね。狙われるのなら俺でしょうし、カトリーヌだって半端無い強さですから」
そう言うとエレノアさんは黙って後を付いて来る。
これから数時間は重要だ。
迷宮の一番のポイントはーー入り口が有るという事なのだから。




