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lullaby  作者: 伯耆
18/52

乾杯




「あ~、そうだ。

白ウサギから珍しいもの貰ったんだ」



三月ウサギは珍しく両肩から背中に下げていたリュックから赤い液体が入った瓶を3本取り出した。


歩く時も、馬車に揺られている時もガラスのようなものがカチカチとぶつかる耳触りな音に悩まされていた帽子屋はやっと正体を理解した。



「お子様がそんなの持ち歩いてたら、大人に逮捕されるぞ~?」



三月ウサギをからかう眠りネズミを見て、彼はワインの入った瓶を抱きしめた。



「お前は飲むな!」


「あ~、悪い。

ごめんなさい」



アルコールが大好きな眠りネズミは高級品であろう(白ウサギが彼に渡したのだから)ワインを前に素直に頭を垂れた。


三月ウサギはそっぽ向くと、そのワインを帽子屋へと渡した。



「といっても、まだ昼だぞ?

ワインを飲むにはまだ早い」



三月ウサギからワインを受け取り、冷蔵庫へと入れた彼は黒いエプロンを腰で括り始める。



「な~に言ってるんだよ。

お前の時間はいつだって6時、だろ?」



眠りネズミのそれはワインを開けろ、との催促であった。


帽子屋は三月ウサギを一瞥するが、彼女もアルコールが好きのを彼は良く知っていた。


という彼も、最近は立て続けて入る仕事にゆっくりする暇もなかったので、たまにはいいか、という結論に至ったのだ。



「そうだな。

じゃあ、俺は軽いものを作っておくから、風呂入ってこい。

どうせ、酔うまで飲むんだろう?」



帽子屋のゴーサインにソファーで寛いでいた眠りネズミは勢いよく起きあがり、。



「よしっ、お風呂言ってきます!ママ!」


「誰がママだ!」



小走りで風呂へと向かう眠りネズミはふと振り返って、三月ウサギを見る。



「お兄ちゃんと一緒に入るか?三月ウ・・・」



ニヤリと笑いながら言い彼の言葉は、近くにあったクッションを彼目掛けて投げた三月ウサギに寄って阻止された。



「死ね!変態!」



クッションは眠りネズミの顔面に入り、ボトリと床へ落ちる。



「つれねーなぁ。

もう何十年も一緒にいりゃあ、兄貴みたいなもんだろ~」


「殺されたくなかったら、さっさと風呂入ってこい」



黒い銃を眠りネズミに向けながら、帽子屋は低く言い放つ。



「へいへい」



床に落ちたクッションを拾って、眠りネズミはそれを三月ウサギへと放ると、やっと風呂へと向かって行った。


眠りネズミの後に三月ウサギ、帽子屋とすっきりした3人はラフな格好でリビングへと顔をそろえた。





「ここにアリスがいりゃあ、完璧なんだがなぁ」


さっそくワインを開けて、眠りネズミと三月ウサギのグラスに注ぐ帽子屋に向けての眠りネズミの言葉だ。



「あいつは見るからに弱そうだから、論外だな」



そういう帽子屋に今度は眠りネズミがワインを注いで、3人はグラスを持ちあげた。



「まぁ・・・そうだなぁ。

何に乾杯しようか?」



失笑した眠りネズミが2人に問う。


「アリスの来訪?」と三日月ウサギ。


「あいつがいないのにか?」反駁する帽子屋。



「んじゃあ、まぁ・・・




―――――の再会に」



眠りネズミの言葉に、目を丸くした後に頷いた三月ウサギと、一瞬だけ眉を顰めた後どこか恥ずかしそうに微笑んだ帽子屋。


2人の表情を納得と受け取った眠りネズミの声が重なった。





「乾杯!」










「で、どう・・・ひっく・・・

説明するんだぁ?」




帽子屋の家に帰って来たのが13時半。


乾杯の音頭を取ったのが14時半頃。


そしてほろ酔いでしゃっくりをしながら眠りネズミが帽子屋に尋ねたのが17時を少し過ぎた頃であった。


飲み始めて1時間と少しでワイン3本を開けてしまった一行は溜めこんであったビールへと手を出した。



「さっきから何度も・・・同じことを言わせるな・・・

あいつが聞いてきたことを答える。

必要以上のことは省きながら、な」



頬を蒸気させる眠りネズミに、目の座った帽子屋。


その傍ら無言で一人、ウイスキーを炭酸で割ったもの(つまりハイボール)をチビチビ飲み進めて行く三月ウサギ。



「あ、れ・・・?」



同じことをずっとループさせている男2人を無視して飲み続けていた彼女だが、一人でウイスキーの瓶を開けてしまい、最後にポトリと落ちた一滴に瓶の口から中を覗きこむようにして、緩やかに首を傾げた。



「ぼうしやぁ~。

ウイスキーなくなったぁ」



一人用のソファーに座っていた三月ウサギは隣の広いソファーに座る帽子屋の隣へと勢い良く飛び込み、空いた酒瓶を見せる。



「お、まえ!一人でどれられ、飲めば気がすむんら!」



帽子屋の訴えにテンションの高くなっている三月ウサギは彼を笑い飛ばした。



「帽子屋!羅列回ってないー!!!」


「うるせー!!」



眠りネズミはその様子が気に食わないのか、頼りない足取りでソファーを回ると、三月ウサギの隣へと無理やり押し入った。



「ちょっと、狭いー!!!」



男2人にに挟まれる形になった三月ウサギは、眠りネズミを押しのけるために彼の胸を押すが、体格の違いからビクともせず、反対に抱きしめられるようになってしまった。



「退け!変態!」



三月ウサギの容赦ないパンチが眠りネズミへと向かう。


酔っているが、反応だけはシラフの時と同じようにそれを受け止め、呆気なく受け止められた三月ウサギは彼を睨む。


それを見た彼は彼女の小さな手を引きよせ、すっぽりと胸へと埋めた。



「やっぱ、お子様はあったけーなぁ」


「子供扱いするなぁ!離せぇぇ!」



抱きしめられたまま、彼の胸を叩くが眠りネズミはそのまま彼女を離そうとしない。


帽子屋はその様子を尻目に立ちあがり、キッチンの方へとゆっくり歩いて行く。


奥の棚に仕舞っている、ウイスキーやブランデーなどを取り出し、割る為の炭酸や水、氷をトレ―に置いて、テーブルへと慎重に持っていった。


その短い間に眠りネズミに抱きしめられたまま、三月ウサギは寝入ってしまったようだ。


テーブルにトレ―をおき、彼の隣に腰かけた帽子屋は幼い彼女の寝顔に思わず微笑んでしまう。



「まったく、酒の飲み方も知らないお子様が・・・」



眠りネズミはそう毒づきながらも、優しい手つきで彼女の頭を撫でた。


すっかり夢の中の三月ウサギを先ほどまで帽子屋が座っていたソファーへ寝かし、薄い掛け布団を被せてやると、帽子屋は一人用のソファーへと移動する。



「お前たち2人は・・・いつからの付き合いなんだ?」



眠りネズミがブランデー派だと知っている帽子屋は彼にその水割りを作りながら、不意に尋ねた。



「ん~、そうだなぁ。

ざっと人間の寿命分は一緒にいると思うんだが・・・

俺がこの仕事に就いて・・・えーっと・・・」



眠りネズミはダルそうにソファーに凭れて、指を折っていく。



「多分、俺が管理人になって110年くらいで・・・

で、ここの管理を任されたのが28年目で・・3年目の時にあいつが来たから・・・

まぁ、80年くらいだな」


「熟年夫婦じゃ、足りないな・・・」



漸く辿りついた答えを聞いて、帽子屋は驚き半分で小さく笑った。



「まぁ、つってもあいつはいつまでもあの姿だし・・・」


「配役上も考慮してだがな」



ため息混じりの眠りネズミの言葉に、帽子屋が眠っている彼女をフォローするように付け足す。



「で、80年。

一緒にいてお前はあいつのこと、どう思うんだ?」


「相変わらず乙女思考だな、おい」


「撃ち殺すぞ」


「だって本当じゃねーの?」



意見を譲らない眠りネズミに帽子屋はそれ以上の言葉を諦めて「で?」と尋ねる。



「で?って言われてもなぁ」



困ったように彼は頭をかき、テーブルに置かれたブランデーの入ったグラスを手にとって傾ける。



「お互い長く生きてるとわかると思うが、人間的な思考が鈍ってくるんだよなぁ。


与えられた仕事をこなしながら、退屈な日々を過ごす。


特にこの国にいると‘俺達’まで狂ってきちまってるんじゃないかって心配になるくらいな」



帽子屋は答えない。


代わりに水で割ったブランデーを一気に煽り、注ぎたした。



「確かに大切なことには変わりないさ。

アイツもお前さんも・・・


ただ、それが‘どんな大切’かと聞かれたら返答に困るってだけの話だ」



帽子屋は、「そうか」とだけ答え、



「確かに・・・、‘俺達’は人間よりも無機的なのかもしれないな」



自嘲気味た笑いを含ませて吐きだされたそれに、次は眠りネズミが二の句を告げることはなかった。



5月の日は長い。


随分傾いた太陽が窓から差しこんできて、2人を照らすと同時に、温かくリビングの沈黙を包んだ。



無言でブランデー一瓶を開ける頃、漸く眠りネズミが沈黙を破った。




「お前さんは・・・今が幸せなんじゃあないのか?」



だらしなくテーブルに置かれた彼の足が空いた瓶を掠める。



「ワインにビール、ブランデーだ。

このままウイスキーにいくのは、無謀だな。

どうする?ブランデー持ってくるか?」


「おう」



帽子屋は空き瓶をキッチンの勝手戸から出た先に置くと、先ほどと同じ収納棚から同じ銘柄のブランデーを取り出した。


その間に眠りネズミはグラスのブランデーを飲みほして、外を見た。



「帽子屋。外、出ねーか?」





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