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lullaby  作者: 伯耆
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管理人




御者から無理やり馬だけを一頭借りて、それに跨ると全速力で街へと向かった。


彼が街へと到着したのは30分後。


偶然、広場で知った顔と出食わした。



「フロッグ!」


「帽子屋さん」



警備を連れて、必死な表情で指示を出す黒の燕尾服を身にまとった執事であった。



「アリスは!?」


「いえ、私共も少し前から探し始めたばかりで、まだ・・・」


「そうか。

俺も探す。見付け次第連絡をいれてくれ」


「畏まりました」



そうして帽子屋は西へ、フロッグは南へ、その他警備は東と北へと散らばっていった。


西への道を競歩で歩く帽子屋は突き当たりを左右見渡し、右へと曲がった。


右にはこの先に道はなく大きな公園があることを帽子屋は把握していたからである。


その公園へと向かおうとした時、カランと鈴がなる音がして店から一人の老婆が出て来た。


帽子屋は大して気にも留めずにその隣を通り、老婆は彼とは反対方向へと向かう。


老婆の隣を通った時、ふと何かしらの違和感を感じた。



「おい、ちょっと待て」



帽子屋はピタリと立ち止まり、今、隣を通った老婆へと制止を呼びかける。


老婆はその声には立ち止まらず、そのままゆったりと曲がった腰で歩いて行くが、帽子屋はその先へと立ちはだかった。



「聞こえねーのか?婆さん」


「はい?」



やっと顔を上げた老婆は帽子屋の顔を覗きこむように凝視する。



「おい、婆さん。アリスを知ってるな?」


「アリス、アリス・・・

ああ!ちょっと前まで一緒にいた娘さんのことかい?」


「どこにいった?」


「さぁ?この老婆には分からないねぇ」



演技じみた声色に帽子屋は目を細めるとコートの内に隠している‘何か’に手をかけた。



「生憎、この国の人間の嘘には騙されねぇように出来てんだよ、‘俺達’は・・・。

命が惜しかったら吐きな、婆さん」



腰に下げていたフォルダーから取り出したのは、黒光りする拳銃。



「おやおや、こんな老婆に対してそんな物騒なもんで脅すのかい?」



それでも老婆は臆することを知らずに、淡々を言う。



「その様子じゃあ、俺が誰なのか知ってるんだろう?

この際、媚でも売っておきな。来世のためにな」


「残念じゃのぅ。わしゃあ、来世には興味がないんじゃが・・・」



婆さんは微笑みながら、スッと前を差した。



「わしゃあ、それ以上のことは知らん」



老婆が差した方向は大通りの突き当たりを左に、だけであった。


それだけ言うと、老婆は大通りへとゆったりと足を向けた。


帽子屋は老婆を見送る前に走り出した。


老婆の差した方向はこの街でも特に寂れて、規制が緩い地域であったためだ。


手当たりしだいを探す。


とにかくややこしい道が多い不思議の国で人を一人探すのはとても困難であった。


苛立ちから舌打ちが幾度も出る。


探し始めてもう30分が経っていることを開いた懐中時計で知る。


さすがに息が切れてきた帽子屋は一旦、立ち止まった。


刹那、甲高い叫び声が近くから聞こえて来た。



「アリス!!」


虚を付かれた帽子屋は懐から取り出した煙草を地面へと落とすと、声のした方へと帽子屋は駆けだす。


アリスを見付けた場所はあまりに近かった。


そこには20人は上るだろう、街の住人に囲まれているアリスの姿。



「アリスだ・・・アリスだ・・・」


「アリスの肉を食らえば、この世界から抜け出せる・・・」


「捕まえろ・・・」



まるで生気を失ったゾンビのように口ぐちに呟きながら、住人たちはアリスを追い詰め、その中で一人、頭を抱え震えるアリス。


そこに弾けるような銃声が空へと鳴り響く。




「てめぇら!どけ!」



銃声で一気に帽子屋へと向けられた視線と、その固まりへ突っ込んで行った彼に戦いて、住人たちは道を開けた。


その先には大きく開かれた瞳から大粒の涙を流し、震える手足でどうにか立っているアリスの姿。



「管理人だ!」



住人の誰かが叫ぶ。



「てめぇら!消されたくなかったら、俺の視界から消えろ!」



激昂する帽子屋の怒声と、再び空へと放たれた銃声に住人たちは叫び声を上げながら散り散りに逃げて行った。



「ぼう・・・し、やさん・・・」



余程怖い思いをしたのか、帽子屋を見上げるとアリスは途端、足の力が抜けたように彼の懐へと倒れこむ。


そんな彼女を支えながらも、無傷であることを確認し、ホッと一息ついた帽子屋の背に



「おやおや、せっかくお婆さんが時間稼ぎをしてくれたというのに・・・」



どこからともなくチェシャ猫の声が投げられ、帽子屋の前に先ほどの老婆とチェシャ猫の姿が表れた。



「大丈夫か?アリス」


「うん・・・」



消え入りそうな声で返答をする彼女に帽子屋は訝しげに前の老婆を見据え、懐から懐中時計を取り出すと、蓋を開けて、老婆の方へと翳す。


一瞬であった。


パチン、と閉じられた時計を懐に仕舞い、「そうか」と全てを納得したように彼は呟く。




「こちらは管理局構成員に属する審判資格を有する者だ。


アナタを長の祝福を受けるに値する魂と判断した。


よって、アナタに過去と名を返そう」



帽子屋は漆黒の銃を右腰のフォルダーへと仕舞い、反対側から銀色に光る銃を取り出した。


銃口を老婆へと定めて、セーフティーが外される。


躊躇いなく引かれた引き金の後、銃弾は老婆の頭を打ちぬいた。


筈なのだが、老婆は息絶えることなく、その姿は白く輝きだした。



「おぉ・・・、全て思い出した・・・

礼を言うぞ、若いもん」


「ああ」



帽子屋は普段の彼とは別人のような微笑みを浮かべ、老婆もそれに応えるように微笑むと、姿が光の粒へと化して、空高く舞い上がって行った。



「来世に幸福を・・・、レティシア」



帽子屋とチェシャ猫はその光を見送りながら、十字らしきものを切る動作をした。



「ついでに仕事も完了させられましたねぇ。

御褒美に家まで送って差し上げますよ」


「いいから、早く送れ」



ご機嫌のチェシャ猫に帽子屋は焦りを見せながら、彼を急かす。



「ちょっ、どういう・・・」



アリスは問おうとした言葉にしたが、緊張の糸が切れたのか言葉を繋ぐ前にそのまま意識を手放した。








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