4月1日Ⅰ
ふう…。
とうとう、今日ですね…。
「ちょっと、そこ、邪魔なんだけど。」
「何ぼけっとしてんの?
早くどけば?」
「ほんと、それだからクラスに馴染めないのよ。」
クラスメートの女の子たちはけらけらと私を指さして笑った。
「そーゆー風にぼーっとしてるから記憶も無くなるんじゃない?」
「「あははははっ。」」
…………。
そんなこと言われても、返す言葉がないのよね…。
「ちょっと、言いすぎだよ!!
そういうのってデリケートなんだからさ、それくらい考えてあげなよ!」
また、助けられちゃったみたいね。
この子は私の友達の魔空コマリ。
最初は怖そうな名前と結構キツい言い方が少し気になっていたけど、いつも私を助けてくれる心優しい子だ。
これでもう、六回目になるね。
「ご、ごめん…。」
「ほら、皆行こう。
コマリ怖いし。」
女の子たちは嫌な顔をしてそそくさと逃げて行った。
「コマリ、ありがとう…。
いつもごめんね。」
「別にぃ…。」
「やっぱり、コマリは優しいね。」
「私、優しくないし。
ってか、コノミもあんな奴ら私みたいに蹴散らしちゃえばいいのに。」
蹴散らすって…。
コマリって口が悪いっていうか何ていうか…。
「うん、そうなんだけどね…。」
コマリはフンッと鼻を鳴らしてさっさとどこかへ行ってしまった。
相変わらず、ぶっきらぼうっていうか…。
まあ、いつものことなんだけどね。
それに、さっきの女の子たちに言い返せないのも仕方ないんだしね。
私は、記憶がない。
詳しく言うと、年に三回くらい急に倒れて記憶が無くなる、って感じ。
学校で習った数学の公式だとか、言葉だとか、物の名前だとかは覚えてる。
でも、家族のこととか飼ってる猫の名前とかそういう大切な名前は忘れている。
だから、友達のことも忘れたことがある。
それも、一回じゃない。
何回も、何回も、何回も……。
忘れて、忘れて、忘れて……。
嫌われて、嫌われて、嫌われて……。
それで、今の私があるのよね。
もちろん、コマリのことも忘れたことがあるよ。
二回くらい…。
その度に、コマリは私に仲良くしてくれていたみたいで…。
申し訳ない思いでいっぱいなわけで。
そんな話も、次に倒れた時には忘れているんだろうね…。
「コノミ、そろそろ時間じゃないの?
十二時でしょ?」
「えっ?」
急にコマリが腕時計を見ながら、私に話しかけてきた。
「あ、うん、ありがとう。
コマリ、本当に色々ありがとう。
また、二ヶ月後にね!!」
私がコマリに笑いかけると、コマリは目を背けてぼそっと何かを呟いた。
でも、声が小さくて私には聞きとれなかった。
「ま、頑張れば?
私も、一応応援くらいはしてもいいけど。」
「ありがとう!
あっ、もうこんな時間。」
教室の壁に掛けてある時計の針はもう十一時五十九分を指し示していた。
「馬鹿。」
「え?」
「別にぃ…。
言ってみただけ。」
私は「ふぅん。」と言って、気合いを込めてふんっと鼻から息を吐いた。
すると、突如、教室のドアが開け放たれた。
「紫闘コノミ。
例のブツです。」