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bitter & honey

ミルクティー

作者: 揚羽

彼氏視点はユーザー名【密虫】のところにございます。興味を持っていただいた方はお手数をお掛けしますがそちらへどうぞ。

*)密虫はムーンライトノベルズ様におりますので閲覧できない場合は諦めて下さい。申し訳ありません。また、そちらにあるからと極端な性描写の期待は持たないで下さい。


俯いたら顔を上げるまで待ってるから。

見上げた空がどんなに綺麗で、流れる雲のどれが美味しそうだったか教えてあげるね。




ーーーーーーーーーーーー



ウチの彼氏さんは喜怒哀楽の差が少ない方だと思う。


全くの無口無表情では無いけれど、大口を開けて笑うことなんて殆ど無いし大声を張り上げて怒ることも滅多に無い。

んじゃあ冷血漢かと言うとそんなこともない。

確かに意地悪だしお口も宜しく無いけれど、気付くと甘やかされていたり優しくされてたりもする。





「気が付かないとイヤなヤツなんだけど、気付くとイイヤツなんだよね」


損してるよねー、なんて言ったのは同僚のお姉さんだったっけ。


夏にあった彼氏さんの会社主宰のバーベキューに家族枠で参加した時に、同じ部署の女性陣に囲まれて馴れ初めとか普段はどんな感じなのか聞かれるのにしどろもどろに答えて、代わりに彼が会社でどうしてるか教えて貰った。会社での彼は私が知るより少しだけ他人行儀で、でも然り気無く優しくて女性社員の皆さんからの評価は高めらしい。


「髪型を変えたりネイルを変えたのには気付かないんですけど、体調が悪かったり仕事で困ってたりすると気付いてくれるんです」


でも大袈裟にしなくてさりげないんですよね、チャラく無くて安心するんです、って言ったのはあの時生理痛と大量の仕事に世を儚くなりかけましたとおどけた後輩さんだったっけ。


イイオトコ捕まえたよね、なんてからかわれて恥ずかしくなったのを覚えてる。



火照る顔が上げられずにいた私にアイツは会社の話をしないでしょう、って遠くで小さな女の子にまとわりつかれてる彼を眺めて聞いてきたのは同僚のお姉さんで、今年のバレンタインは爆笑させてもらいました、とキャラキャラ笑ったのは後輩さんだった。

小さな女の子は直属の上司のお嬢さんで、バレンタインに初めて我が子からチョコを貰って喜んでいた上司さんは、もうひとつチョコを出してきて彼氏さんに渡して欲しいとお願いされて固まってしまったらしい。


「『お前のせいで天国と地獄を一気に味わった』って涙目でアイツの首閉めてたわ」



…うん。

彼氏さんは会社の話を滅多にしない。

でもそれはお仕事上の話をしないだけで、バレンタインの話は当日に件のチョコを食後のデザートにしながら聞いた。

サバサバとしてる同僚のお姉さんは社内の男性陣に密かに「姐御」と呼ばれて恐れられているけれど、面倒見が良いから若手の男性や女性社員からは凄く慕われていて毎年バレンタインに貰うチョコの数は誰よりも多いって聞いてるし、キャラキャラと笑う後輩さんは

丁寧に巻かれた髪や長い付け睫、キラキラのメイクとファッション雑誌から抜け出してきたような服装で周りから軽く見られがちだけど、お母さんを早くに亡くた父子家庭で、家事は勿論のこと毎朝5時に起きて高校生の弟さんのお弁当を作ってから出勤する頑張り屋さんで、お仕事は誰よりも速くて正確だから助かってるって言ってた。



お喋りな人じゃないからあれこれ一気に沢山って訳じゃないけれど、少しずつ、一緒に過ごしてきた時間の分だけ増えていった。



そう…それは今、静かに降り積もっている雪の様に。







皮肉は言うけれど弱音は吐かない人だと気付いたのは一緒に暮らし始めて随分と経った頃だった。


巧妙に隠されて気付き難いそれは、例えば視線の行方だったり、くわえたまま忘れられた煙草の灰の長さや問い掛けた返事へのタイムラグとかにほんの少しだけ滲んでる。

滅多に現れないサインは私に訴えて甘えるものじゃなくて、自分の中で消化するために必要なものなんだと分かっちゃったから…気付いても知らない振り。





「煙草買ってくる」



夕飯の後にリビングでテレビを観ていたら、隣に座っていた彼がそう言って立ち上がった。

【サイン】に気付いてたから、いつもは追い掛ける背中を「いってらっしゃい」と見送った。

戸棚にストックが残ってるよ、なんて…知らんぷりしらんぷり。


ベランダの窓から見下ろした道路は積もった雪が街灯の明かりを吸い込んで仄かに白く光っていて、コンビニに行くなら左に見えるはずの背中は見付からない。今も降り続ける銀世界は誰の足跡も残ってはいない。



多分煙草1本分体を冷やして戻ってくるんだろう。

帰ってきたらとっておきの茶葉を使って温かいミルクティーを作ってあげよう。

ベランダを離れるときに足元に積もる雪が視界に入った。




小さく絞られたライトに照らされた寝室に静かに入ると、ベッドの空けられた隙間にそっと忍び込んで灯りを消した。

真っ暗な世界で先に微睡んでた腕が背中に回って体温と匂いを伝えてくる。

じっと動かずに待っていると暫くして深くなった呼吸が聞こえてそっと息を吐いた。


同じボディソープを使ってるのに違う匂いがするのが不思議で、すぐ傍にある胸に頬を押し当てる。

どれだけ寄り添っても溶け合わない体を絡めてゆっくりと目を閉じた。





ねぇ、今は俯いたままで良いよ。

そして明日は凍てつく寒さに文句でも言いながら起きよう。

ベランダに作った雪だるまを見せてあげる。

朝日に溶けてくっついちゃってる2つを見て…



いつものように溜め息を吐いて呆れたように笑ってね。






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