序
序
――理解するのと肯定するのは、ぜんぜん別のことだ。
あたしはすなおのことを理解していたし、すなおもあたしのことを理解していた。けれど、理解しても肯定していたわけじゃない。すなおはあたしのぶっきらぼうで雑なところが嫌だと言ったし、あたしはすなおの真面目でまっすぐ過ぎるところがどうも鼻についた。そういう、お互いの嫌いな部分もあたしたちは忌憚なくぶつけ合ってきた。ふたりとも隠し事ができるような性質じゃないし、なにより隠し事で防御線を敷く人間関係に飽き飽きしていたんだ。
友達関係は隠し事と嘘でそれらしく回っているだけだ。女だろうと男だろうと同じ。歳を食えば食うほど、みんなそれが正しいスタイルなんだと思うようになる。子供の頃は誰だってそんなんじゃなかったはずだ。隠し事をしたり嘘をついたりできるほど、小さなあたしたちは器用じゃなかった。歳を重ねるにつれて誰もが器用になって、ずる賢くなるんだ。
いつまでも子供だったあたしは、それが我慢ならなかった。ストレートな感情でどれだけ痛めつけられるとしても、心からわかり合える友達が欲しかったんだ。けれど、そんな関係を求めれば求めるほど、大人になりはじめたみんなはあたしから離れていった。
原色が目に眩しいみたいに、強すぎる気持ちは人を遠ざける。
すなおが友達をやめようと言ったのは、そんな頃のことだった。
その時は地獄へ突き落とされたような気分だった。縋っていた蜘蛛の糸は途中で切れて、あたしは奈落の底へまっさかさま。でも、よくよく聞いてみたらそんな絶望はあたしの早とちりで。
すなおは、友達をやめて恋人になろうと言ってくれた。なにもかもわかり合える関係でいようと言ってくれた。聞いた時は嬉しかったけど、同じくらい驚いたし混乱したのをよく覚えている。子供だけど頭が硬かったあたしには、女同士の恋愛なんていうものは想像の外にあって、ほとんどファンタジーと言ってもよかったくらいだ。
幻を現実にしたのは、すなおのまっすぐな気持ち。その真剣さがわからないほど付き合いは短くなかったし、受け入れられないほどあいつを嫌っているわけでもなかった。むしろ、誰よりも好きなくらいだったんだ。その『好き』は友達としての『好き』だったけれど、すなおは違う形をあたしに気付かせてくれた。
恋愛対象としての『好き』を。友達よりも深いつながりの形を。
関係が揺らぐことはあるかもしれないけど、壊れることだけは絶対にないと思っていたんだ。気持ちをすべて打ち明け合えば、すれ違ってもいつかは元に戻れる。
そんな子供っぽい夢を、あたしは抱き続けていたから。