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多分、悪役令嬢の位置の人

作者: 麦
掲載日:2026/09/30

 物語を読むのならば、ハッピーエンドのものが好ましい。

 多少強引な御都合でも、主人公が幸せになれるものが心を和ませると思っていた。

 …が、俺様ヒーローが出た場合は少し好みが違うのだ。

 1〜2度程、いや3〜4度程。俺様ヒーローがケチョンとされれば良いのにと願っている。

 ケチョンとされて、ズタボロになって赦しを請えば良いのに…

 と、愛読書のクイーン的な雑誌を読みながら、いつも思っていた前世の私。

 友人から「この、ドSめ…」等と呆れられてはいたが、気に入らないものは気に入らない。

 特に『婚約者が盲目的に自分を愛しているから、全て許される』等と勘違いしている、目の前の皇子殿下なんかはザマァ1回で終わらせるには惜しい人材だ。

 是非ともケチョンケチョンとドン底まで突き落とされ、絶望の中で赦しを請えば良いのに…

 そう思っていたが。


「ロゼ…少々距離を置かないか?」


 そう告げられた時、思わず淑女の仮面を放り投げてニッコリと満面の笑顔を浮かべてしまったよ。


「それが良うございます。喜んでお受けしますわ」


 殿下の顔がキョトンとした隙に、椅子から立ち上がり、綺麗な礼をしてから去りました。

 条件を聞きたくもないし、面倒だから。

 このまま殿下の言う通りに距離を置かせて頂きますわよ?

 勝手に1人で踊っていれば良いのです。

 物語と実際自分に起こる事では、やはり違いが出るものね。

 ケチョンさせる一手間さえ関わり合いになりたくないのだ。

 と言うか、殿下の事を考えるだけでも不快なのである。

 クイーン的な物語のヒロインは、最後にヒーローを許してハッピーエンドになるが…

 実際問題になると…1度のザマァでプチッとした方がスッキリ爽快で御飯も美味しくなるだろう。

 ドS気質を発揮する気も失せる。

 だって私が持つ気質って、好意をいだいている者に向かう物であって、興味が無い者にわざわざ構って差し上げる意味がわからない。

 視界から消えれば良いのにと思う位、煩わしい。


「お父様、少し御時間頂けますでしょうか?」

「ローゼリアか。話しなさい」

「ありがとうございます。殿下の事でございます」

「…続けなさい」


 お父様の眉間のシワが濃くなった所を見れば、色々な情報を掴んでいそうね。


「本日の顔合わせで『距離をおこう』と告げられましたの」

「…うむ。そうか。ローゼリアは、なんと返したのだ?」

「はい。喜んでお受けしますとお伝えしましたわ」


 ニコリと微笑み父親へと告げる。


「んむ、んん。良くわかった。では、こちらもそのつもりで動くとしよう。…王家にもやんわり苦情を入れておく事にしよう。それで良いな?」

「婚約者と確定していませんでしょう?候補の段階でしょうから辞退でもよろしいと思いませんか?」

「んん、んむ。そうだな。その方向でだな…まぁ苦情からだな」

「ありがとうございます」


 不信感を抱かれないように、一応の苦情は入れておくべきだろう。

 多分、あの殿下が改める事はないだろうけどね。

 あっ。お父様の表情が微妙に崩れている。

 吹き出すのを堪えてるのね、きっと。

 眉間のシワも口元も、ふよふよと細かく動いているのがその証拠。

 早目に去るのが良いだろう。

 退室の挨拶をして自室へと向かう。

 お父様の部屋から、盛大な笑い声が微かに聞こえるが、知らんぷりをしてあげるのが優しさでしょう。

 ドアの外に出た者達も、直立しきれず震えているが…あら、側近のアレンは出てないわね。

 一緒になって爆笑でもしてるのかしら?

 まぁ、仲良き事は良い事ね。


 事の始まりは、学園入学から。

 何かしらの乙女ゲームが開始されたのだと思うのだけど…私の記憶には無い者達ばかりなので、静観する事にしたのだ。

 私の立場は、第二皇子の婚約者候補。

 候補であって、確定ではない。

 我が伯爵家も、どうしても王家と結び付きたい理由があるわけでも無いし。

 立ち位置的には、当たり障りなく拒否したい方なのだ。

 それに、伯爵家に婿入りとか。

 無いでしょ?

 公爵家、侯爵家に拒否られての伯爵家。

 本人の能力的にも察しが付くというもの。

 ちなみに皇太子殿下は隣国の皇女様が嫁いで来るので、第二皇子は必然的に国内の有力な貴族が望ましいのだが。

 国内の有力な貴族家からは極力関わりたくないお方。

 ほぼほぼ顔しか取り柄のないお方。

 その顔すら、百害と比べると一利にもならない。

 特に女性関係がクズだ。

 実際問題、あちこちにフラフラと出歩いて、女性に鼻の下を伸ばしている様子を聞く度に『わざわざ報告してこんでも。ウザいわ』としか思わなくなったのに。

 他の打診されている方々も同じ様な感じで躱したいと思っているだろう。

 一応、打診されている中で1番家格が高い我が家が婚約者有望とか、冗談じゃねぇ。

 

 殿下に粉を掛けられている女性達に関しても、わざわざ助け舟を出すつもりも無いし。

 あわよくば、そちらでまとまって貰えると有り難い。熨斗をつけてお渡しする所存だ。

 ただ黙って静観するのみだ。

 大体の娘さん方は、私と同じく静観の構えでいるのだ。


 あら。

 アレは男爵家の御令嬢だわ。

 最近になって養子として迎え入れられたとか。

 殿下の側をキープしている所を見ると、これで確定でよろしかろう。

 殿下も結構のめり込んでいる様だし。

 「婚約者を蔑ろにするなんてっ!」と言う方々には、殿下から距離を置こうと言われていると伝え、あくまでも自分は候補として打診されているので、そのように動いている事を伝えると、あっさりと納得されていた。

 まぁ、実際の殿下の日常を見たら、王家の威信もペロリと剥がれてしまいますからね。

 仕方がないでしょう。

 出来れば男爵家に伝わる前に色々まとまって欲しいものだなと思っているが。

 …あら。あの娘、こちらに挑戦的な顔を向けている所を見れば、良いようになりそうね。

 多分彼女から見たら、私って悪役令嬢のポジションにいるわよね?

 なら。少しでも煽っておくべきかしら?

 お返しに余裕の笑みを送れば…あぁ。あの娘の目に火が灯って見える。

 うふふふふ…

 後はお任せしますわ。


 はぁ…煩わしい。 

 殿下がこちらを見てニンマリとした所を見ると、非常に煩わしい思いを持っていそうだ。

 王家の教育どうなってる訳かしら?

 性格に難有り所かネジ曲がってる様子だし。

 でも不思議よね。

 王も王妃も皇太子殿下も散々お説教をかまして教育的指導直前までいっているのに。

 右の耳から入った言葉が左の耳から抜けていく様が見事!と言う程に聞いて無いのだ。

 いや効いてない。

 そろそろ完全に見放されるだろうなとは思っているけども…

 最期にドデカイ花火を上げて、パッと散りそうな予感がするような、しないような。

 私に面倒は擦り付けないで貰いたいわ。


―――


「ローゼリア様の夏季休暇の御予定はどうですの?」


 前期の試験も終わり、成績発表を待ちながら夏季休暇について友人と軽い雑談タイム。


「一応、領地の見廻りですわ。ミリア様は?」

「私もですわ。要所で少し休む予定ですわ」


 同じ家格のミリア様も長女ですものね。

 家を背負う者としては、冬になる前に廻っておかねばならないでしょう。

 学園に入る前はお互いに、もう少し時間にゆとりがあったのですが。

 夏季休暇は1ヶ月程しかないので、全てを廻るのは難しいですから、主だった所を巡って静養地なんかでユルリと過ごす感じでしょう。

 私もその予定だし。


「おそろいですわね。ローゼリア様の所だと、湖の側の?」

「ええ。一応そちらをと考えておりますわ。ミリア様は滝かしら?」

「ええ。今から楽しみですの」

 

 うふふふふ…と笑い合う。

 地名は出さない会話。

 何故ならば聞いている者が潜んでいるかもしれないから。

 湖も滝もお互いの領地に数カ所もあるから。

 何処かを絞れない様にしている。

 調べればわかるかもしれないが、会話の中ですぐ答えが判明しない方が良いのだ。

 調べ出した者を見つける目安にもなるし。


「え〜!殿下はマーベラス海岸に行くんですね!私も行くんです!おそろいですね!宿は…」


 …このように、会話をオープンにする事は危険極まりない行為。

 誰が聞いているかわからない場所で情報を全てに発信したら、狙って下さいと言わんばかりであると言うのに…

 前世でもあったでしょ?

 ネットで旅行NOW情報を流して泥棒に入られるとか、ストーカーさんこちらです情報でとんでもねぇ目に合った方々もいるのですよ…

 特定技能をお持ちの方々は凄いですからねぇ…

 ネット社会も貴族社会も身バレは危険なのよ。

 護衛を大勢連れ立っての視察等でない場合、情報は極力絞った方が良いのだが…

 脳天気なお花畑会話をテラス席でかますとは。

 山賊・物盗りドンと来い!ウェルカム状態。

 蛮勇でしかない。


 常々阿呆かな?と思っていたら、案の定成績が下のワン・ツーフィニッシュを決めていた。

 …あんた一応王族でしょうに。

 ギリギリ赤点を免れた辺りの成績だったのは良い事なのか悪い事なのか…

 ちなみに私もミリア様も成績は上位20位以内に入っていたので、中々頑張ったと思う。

 そうして夏季休暇に入り、領地の見廻りに向かったのだ。


「このまま行けば、今年は大丈夫そうね…」

「気候も安定していますし、小麦の実入りも良さそうですね」

「大雨が続くとして、湖側も流れに沿って対策が強化されてる様だったから良かったわ」

「そうですね。お嬢様が危険視されていた所が順番に対策されているみたいですね」


 治水対策はとっても大事な作業なのよね。

 数年前から過去の事例と照らし合わせて、お父様と一緒に計画していたのよ。

 川の幅や深さを考えたり、専門家を呼んで対策したり…経過を見ながら改善したりね…

 なかなか大変な事なのよ。


「竹林も手が入ったのよね?」

「はい。実際の事例から対策を組んだ方が良いとのお嬢様の話しから整備に入りました」

「今はすぐ整備に入って貰ったけど、次回から冬に整備に入って刈り取った物を加工していけば、冬場の収入に繋がるかもしれないわね」

「そうですねぇ。夏場でも力仕事に向かない者を加工や細工に残って貰っても良いかもしれませんね…」

「そうね。色々考えていきましょうか」


 領地の要所を廻りながら、次回からの対策を考えつつ平和な時間を過ごしていたのだが。


「お嬢様。旦那様から緊急のお手紙が届きました」

「あら…返事は必要かしら?」

「いえ、不要との事です」

「なら、早馬の方にはしっかり休んで貰って?馬にも充分にね?」

「心得ております」

「うふふ…ありがとう」

「では、失礼致します」


 側近兼護衛役のリーシャが1度下がり、メイドも下がったのを確認し、手紙を開いた。


「えぇ…?」


 とんでもねぇ手紙が届いた。

 何の冗談かな?と思う内容だった。


『ローゼリア。視察中に余計な情報を入れる事になるのだが…とりあえず、めでたく婚約者候補の辞退が成った。ローゼリアには何の傷も残らず完璧な辞退になったので安心して欲しい』


 ここまでは良い。大変良い。

 素晴らしい手紙に、全私の細胞も喜んでいる。

 問題はその続き。


『と言うのも、あのバ…殿下が考え無しの行動を取った事も助けになっているのだが』


 あのバカと書こうとして、書き直すのが面倒でそのまま書いたと見える。

 見つかったら不敬罪突入事項だ。


『殿下が夏季休暇にマーベラス海岸で滞在する事を事前に知っていた盗賊共が道中、襲って来たそうだ』


 あれだけオープンにしていたんだ。

 口コミで盗賊に伝わっていてもおかしくない。


『一応精鋭を付けていたので、撃退し旅程は続行されたのだが。例の男爵令嬢が宿泊する宿に夜盗が入り、令嬢が誘拐されたそうだ』


 うん。

 宿屋までオープンで話してましたからね。

 しかも殿下と仲良しアピールが半端無かったからね。

 スピーカーモードで話していれば、拡散も早いでしょうや…

 まぁ身代金目的の犯行でしょうな。


『幸い精鋭を連れた殿下が誘拐犯のアジトに踏み入り一網打尽にし令嬢も助け出された』


 おぉ…殿下。

 ヒーローしてますね。


『助け出されたが、1度誘拐されてしまった令嬢には傷が付いてしまう。もう純潔では無くなったと見なされる事が辛いと泣く令嬢に、ならば証明すれば良いと殿下が言ったそうだ』


 まぁ、証明した所で噂は付き纏うものだけど、しないよりはした方が良いわなぁ。


『そして翌朝殿下が、「純潔だったぞ!」とシーツを精鋭に渡したそうだ…男爵夫妻がその場で倒れ寝込んだそうだ』


「…は?」


『頭が痛い話はそれだけでは無く「私に愛されるフラルにローゼリアが嫉妬して誘拐犯を差し向けたに違いない!」と言い出したのだ』


「…は?」


 既に私の思考能力は停止している。

 「は?」と言う言葉しか出て来ないわ。

 え?バカなの?バカなの?バカだよね?!

 結局純潔失ってんじゃんっ!

 それどうなの?なんなの?鬼畜なの?

 バカじゃねぇの?!

 男爵夫妻じゃ無いけど寝込むレベルでバカじゃない?!

 バカのメーターがぶっちぎりで振り切れてんだけどっ?!

 もうコレ人間じゃ無い可能性が浮上する勢いだわっ!!


『幸い婚約者候補の辞退は定期的に申請していて、休暇前には受理されていたのでハッキリとローゼリアは違うと言い切れる。そのおかげで完全に辞退が成ったわけだが』


 …面倒事にはなったと言う事?

 いや、まだ続きがあるな。


『今回の件を調べた結果、王家が激怒してな…殿下は王位継承権剥奪の上、北の塔で謹慎となった』


 …そりゃな。

 謹慎か…幽閉にしとけよ!

 子供可愛さにやらかし発生まで放置は良くない。

 いや、放置してないとか言わないよね?ゴリっと教育しとけよ!ふざけんなよ!

 謹慎なんて生チョロい事言ってねぇで幽閉しとけよっ!


『男爵令嬢も殿下と婚姻か修道院が良いのでは?と色々意見が分かれている所だ…視察から帰ってからでもと思ったが、変に巻き込まれる前に伝えておこうと思ってな。まぁ、視察を終えて無事帰る事を祈っている』


 …あぁ、うん。そっか。そっか。

 あぁ…外晴れてるねぇ…滅茶苦茶晴天…

 ピーヒョロロ…

 トンビも良い声だねぇ〜…

 大自然って素晴らしいわぁ。


「ドデカイ花火には、ならなかったようね…」


 呟く事で一区切り付いた気がした。


―――


「ローゼリア様、休暇中は大変でしたわね…」

「ミリア様…婚約者候補辞退は休暇前に受理されておりましたし。視察前には辞退と成っておりましたから、視察中にお父様の手紙で知って、驚きましたの…」

「私も視察中に家からの手紙で驚きましたもの。思わずお手紙を書いてましたわ…」

「その節は申し訳ありませんでした。視察を終えて家に着いてからになってしまいまして…」

「いいえ。お忙しいと思いましたから、返事は急ぎませんと伝えてましたでしょう?」

「お気遣いありがとうございました」

「こちらこそですわ。お土産のお品、我が家で中々に好評ですのよ?」

「まぁ!それは良かったです。励みになりますわ」


 どうやらお土産に渡した竹炭が良い仕事をしているみたい。

 土砂崩れの原因に成り得る竹林に手を入れ、刈り取った竹を竹炭にしてみたのだ。

 オシャレな袋に入れてお土産にした物だ。

 消臭・脱臭・調湿、更に水の浄化の説明に、大喜びされたのだ。

 うふふふふ。

 あのバカ殿下と縁を切ってから絶好調ね!


 なんのかんのと、例の男爵令嬢が妊娠はしていないとの確認が取れる時期を過ぎ。

 色々とショックな事が多過ぎた彼女は婚姻は望まず、修道院へと去って行った。

 幻滅も幻滅。

 殿下が顔だけで、全てが足りない男だと思い知ったのだろう。

 軽く同情する様な電光石火の転落劇だったわ…

 男爵家へ王家から手厚いサポートをするべきだね。

 男爵は関わり合いになりたくは無さそうだけども。


 そして後期試験で良い結果を残せた私は、良い気分で年末の社交パーティーに出席している。

 勿論、婚活の為にだよ。

 まぁ、進級試験後の春の園遊会でも出会いがあるし。

 学園在学中に何とかならなくとも、家督を継ぐ一人娘。

 焦る必要はないのだけどもね。

 気を張らず、エスコートしてくれたお父様から離れてフラ〜としていたのが悪かったのか、とんでもねぇ相手に手を取られて絶句しましたよ。


「ローゼリア!」


 謹慎しているはずのバカ殿下だ。

 少し頬が痩け、目だけがギラギラと光っているのを見て、背中に冷汗をかいてしまう。

 どう見ても追い詰められた人間の表情。

 何をするかわからない状態。

 ヤバいのです。

 救いがあるとすれば、まだギリギリ会場内であると言う事。

 人目があるのだ。

 給仕が数人、警備の騎士を呼びに走ったのを目の端で確認した。


「ローゼリア、お前だろ?お前が嫉妬してフラルを排除したのだろ?」

「…いいえ。その前に婚約者候補を辞退しております」

「そんなはずは、ない。そこまで私の気を惹きたかったのだろ?」

「…いいえ。辞退しております」

「ははははは…降参だ。私はローゼリアの気持ちを受け入れよう!」


 全く話しが通じねぇ〜!!

 目がヤベェ!

 ヤバいお薬キメた人みたいな目をしてなさる!

 警備の騎士がこちらに向かって来てる!

 けど遠い!何故にそんな遠くに?!

 もっと警戒心を持てよ王家っ!!

 

「さぁ、ローゼリア。そろそろ結婚してしまおうか!」

「お、お…」

「お?」

「お父さまぁ~〜〜!!」


 ついつい大声を上げてしまった私は悪くないと思う。


「ローゼリア!一先ずこっちだ!」

「お父さ…っ!!」


 口を塞がれ、会場から連れ出される私。

 ヤバい!全然逃げれない!

 騎士の人っ!急いで助けてっ!

 ヤダヤダヤダっ!

 既成事実なんか作られたら、死んでも死にきれないっ!

 なんなのっ?!

 バカ殿下のクセに逃げられない位、力が強いんだけど?!

 何かのリミッター外しました?!


「ローゼリアぁっっ!!」


 お父様の声だわっ!

 こっち!こっちですぅっ!!

 騎士の人も急いで助けてっ!


「っ!仕方がない、ローゼリア。私と一緒に…」


 バカ殿下が立ち止まり、私を向かい合わせると、ゆっくりと懐に手を入れて…

 凶器だっ!

 絶対凶器で殺られるっ!

 狂人に凶器とくれば惨殺待ったなしじゃないっ?!

 抵抗したら嬉々として襲って来るだろうし、刺激したらすぐに殺られるっ…

 詰みですよ?!

 ならばっ!最期に本音を叫んでやろうじゃないのっ!


「お父様っ…私、お父様みたいな素敵な方と結婚したかったっ!頼りがいがある、逞しい殿方が好みでしたぁ~…!」


 …ショボい叫び。

 私の中身、凄く残念でした…

 ただのマッチョ好きでした。

 スンと顔も心も冷えました。

 私の本心を自覚したら、叫んだ本人が我に返りましたね…

 なんの効果もありゃしねぇ…と思ったら。


「……え?」


 バカ殿下が止まった。


「ローゼリアっ!」


 お父様が凄い勢いで殿下から引き剥がし、距離を取り始める。

 バカ殿下は、お父様の姿に目を見開いた。


「ゴリラではないか…?」


 失礼なっ!!

 ゴリゴリマッチョなだけですよ?!

 それに強面だけど超イケメンなんですよっ!


「お父様は、世界一素敵ですっ!」


 思わず頬をプクッと膨らませる。

 それを見たバカ殿下が、目を更にガン開きにして硬直してしまった。

 お父様はサッと殿下から私が見えない様に立ち、騎士達を睨みつける。


「駆け付けるのが、随分と遅いようだが?」


 しどろもどろの騎士達を見てピンときたよ。

 私、餌にされたようだ。

 お父様もそれに気付いたらしく、青筋がエライ勢いで怒張してなさる…

 うむ。カッコイイ。

 この威圧感。

 素晴らしいです、お父様!


「王家としての対応がコレとは…」


 お父様の渋く低いお声にビビる騎士達。

 どうしようもねぇな。

 とりあえず、騎士達から御同行を願われて。

 城の応接室に御案内。

 この時点で私とお父様の目は、氷点下の温度になっております。

 さてさて。

 今回、コレを企画された陛下にはどうして貰いましょうかね…?

 同室に待機している王妃様も皇太子殿下も温度の無い視線を陛下に向けている。

 バカ殿下は王妃様の指示で、縄をかけられ、猿轡を噛まされてるが…無視だ。


「この場は非公式の場であるが…すまなかった…」

「「「……」」」


 すまなかったじゃ済みませんよ?

 全員無言で陛下を見つめる。

 無言で続きを促す事を不敬罪と言うなかれ。

 思わずポロリと発言しちゃうかもしれないからね。

 不敬な用語がポロリポロポロよりはマシでしょう。


「いや、あれだけの事をして謹慎中に充分に反省したと言うので…な?」

「「「……」」」

「ローゼリア嬢も実は自分の愛情を試しているだけで、本心では待っていると言われてな…」

「「「……」」」

『ビキッ!』


 …お父様の青筋が増えて行くわ。

 凄い勢いで増えて行くわ…

 バカ殿下はキラキラしい目を此方に向けているが、無視だ。


「が、学園在学中は、自由恋愛を快諾されたとも言って…ない、のか?」

「言われておりません。距離を置こうと言われましたので、その様にしたまででございます」

「我が伯爵家から、こちらに報告していた筈ですが?その後も報告と辞退の申請も定期的に…まさか握り潰されているとは…」

「しっかり見ておるっ!何度も見ておるっ!」

「ならば、何故でございましょう」

「いや、ニッコリと笑顔で快諾と言われ…笑顔を見せる関係かと…思い違いをしてしまった様だ…すまなかった…」


 凄い勢いでバカ殿下が頷いているが、無視。

 …私が笑顔で応えたのが悪かったのか。

 クソがっ!!


「不敬罪になりますが、あの時の状況をお話しします。殿下が『ロゼ…少々距離を置かないか?』と仰られたので、婚約者候補の辞退が叶うと思い、笑顔で『それが良うございます。喜んでお受けしますわ』と応えました」

「…何処にも、快諾の要素は無い、な」

「はい」

「「「……」」」


 一欠片も快諾の要素を含んでいない会話だった。

 首を傾げているバカ殿下。

 ヤバい。

 こいつは言葉が通じねぇバカだ…

 王妃様が猿轡のみを外す指示を出し、騎士が従う。

 王妃様が感情のこもらない声でバカ殿下に話しかけた。


「第二皇子、ローゼリア嬢が言った事に間違いありませんか?」

「はい!喜んで受けると笑顔で快諾しました!」


 陛下が目を見開いてバカ殿下に問いかける。


「は?そなたは何を言っておるのだ?」

「え?喜んで…と」

「『喜んで距離を置きます』と言われているのだぞ?つまり、距離を置く事が嬉しいと言う事なのだが?」

「え?」


 陛下は頭を抱え、王妃様が深く溜息を吐いた。


「だから言いましたよね?この子は人の言葉を、いえ、感情を理解出来ないのです…」

「ここまでとは…」

「ここまで酷いのです。このせいで例の男爵令嬢が修道院行きになったじゃありませんか…何も理解出来ないのですよ」

「え?え…?」

「……」

「これは私達のせいです。第二皇子に適切な教育をしなかったのですから…」

「そうだな…目を伏せて、期待だけを載せていたのだな…」


 寂しそうに陛下はバカ殿下を見つめていますが、殿下の頭にはハテナしかありません。

 王妃様と皇太子殿下は厳しく口を引き結んでいます。

 …御家族で納得出来た様で良うございましたが、当家の存在は覚えておりますかしら?と問いたい。


「改めて、王家がそなたらへ大変な迷惑をかけてしまって、本当に申し訳無かった…」


 陛下に続き、王妃様と皇太子殿下も頭を下げられました。

 ちょっと、そんなんじゃ誤魔化しきれませんよ?!と思うけども。

 王家に頭を下げさせるなんて超不敬。


「お止め下さい」


 お父様が渋い声で止めてくれました。

 …5秒位の間がありましたけどね。

 我に返るまでの時間として下さいませ。


「不敬を承知で伺いますが」

「よい…ここは非公式の場だからな…」

「第二皇子殿下は、どのようにされるおつもりですか?」

「ふむ。断種の上、生涯幽閉…だな」


 『…』の所に時を見て毒杯で病死と発表が見えましたね。

 酷いな王家。

 失敗は存在ごと消すらしい。


「え…?私が、ですか…?」


 バカ殿下もようやくマズイと思った様だが…もう遅いんだよね…

 焦りの表情でみんなの顔を見回しているが、誰とも目が合わない。

 パチリと目が合った私に縋り付く表情を向ける。


「それは、少し酷すぎると思います」

「ローゼリアっ!」


 期待に満ちた顔をしないで欲しい。

 別に殿下を思っての事ではないのだから。


「酷すぎるとは?」

「自分の犯していた罪を自覚できず、有耶無耶に過ごす事は、とても被害者に対して酷い行為でございます」

「?」

「…確かに、そうではあるが。ならばこれ以上にどうせよと?」


 バカ殿下はハテナまみれだ。

 お父様と顔を見合わせてから、再び口を開く。


「この度の事、何が悪かったのか、どうするべきだったかを本人にしっかりと理解させて下さいませ。本人の考えに悪い所はココとしっかりと。そして本人が心から反省できるようにして下さいませ」

「それだけ…か?」

「それだけの事がとても難しいのです。そして殿下には幽閉では無く、人の為になる仕事をして頂きたいです。しかし、お勉強関係がアレでしょう…ですが、身体を動かす事ならば可能でございましょう?そこで自分の事、人の事、悪い事、良い事…その他の事をしっかり考えていってもらいたいです」

「ふむ…」


 陛下は考え込まれました。

 王妃様の目が少し潤んでますね?

 バカでも我が子ですものね…毒杯は確定路線だったので、少しの希望かもしれません。

 皇太子殿下の表情も柔らかくなりました。

 バカな弟、可愛いのですか?


「ならば断種の上に幽閉は無し…か?」

「断種はあっても良いと思いますが…」

「ローゼリアっ?!」


 別に殿下の為ではないので。


「陛下。第二皇子殿下は、先程ローゼリアを攫う際に、片腕で抱えて口を塞ぎ、歩調は乱れておりませんでした」

「本当にすまなかった…」

「いえ、謝って頂きたいのではなく。殿下は中々の剛力の持ち主だと言いたいのです」

「うむ?」


 …お父様。それは私が非常に重いという事を言いたいのかしら?

 え?まさかのデスりですか?

 ジト目でお父様を見つめます。

 コホン、と。咳払いをして進めていきます。


「殿下には、荷運びの人夫を仕事として行っていってはいかがでしょうか」

「荷運び…」

「王族としてではなく、平民として」

「平民…」

「平民の真っ直ぐな感情や表現。良い事、悪い事、その他も。貴族のように曲解する事無く、まずは真っ直ぐに知るのです」

「…」

「城に居ては理解する事も半分も入って来ないでしょう。しかし、生活に直結するのであれば、嫌でも理解していくもの。頼る者が有れば甘えが出ますが、1人しかいなければやらざるおえない」

「ふむ…良い案かもしれんな…考えてみよう」

「はい」


 その後、もう1度謝罪を貰って帰りましたよ。

 はい。

 婚活の収穫ゼロで終わりました。


―――


 進級試験も無事に終え、ミリア様と仲良くお話しNOWです。


「けど驚きましたね。第二皇子殿下が謹慎中に療養される事になるなんて…」

「本当ですわね。回復されればよろしいのですが…」

「あら、重病ですの?」

「そこまでは存じませんわ。辞退していますし」

「そうですわよね…」

「ゆっくり回復されていけば良いのでは?とは思いますけどもね」

「うふふ…不敬スレスレですわ」

「悪くはないと思いますでしょ?」

「ですわね。多分、総意ですわ」


 うふふ…そうでしょう?

 第二皇子殿下は、今一生懸命平民に溶け込んで頑張っているのですよ。

 陛下から王城追放と言われ、本気で平民になったと思って生活に溶け込む努力をされています。

 王家から追放されていないので、まだ王族なのですが。

 回復すれば、何とかなる手段は残してあるのですよ。

 おバカな所は治らないでしょうが、非常識な所は治るでしょう。

 貴族的な所を理解するのは難しいかもしれませんが、良い事、悪い事は覚えるはずです。

 人の彼女に手を出したら殴られるし、同意が無ければボコボコにされるでしょう。

 しっかりと叩き込まれて来て下さいませ。

 ちなみに我が領地では無く、王の直轄地で治水対策の荷運びをしている。

 関わり合いになりたくないので。

 可愛い御家族の為、鬼になる努力をして下さいませ。

 失敗して消すなんて事の無いように。


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