嫁を収穫しました
祭後。大家さんの孫娘は大家さん家に泊まっているらしく、帰路の最後、隣に住むオレと2人になった。バリバリに働いてそうだよな。年収もエグそう。なので仕事の話を回避して畑の話。
送り届けると、大家さんが玄関に出てきた。
「おお、山田さん。娘がお世話になったね」
「いえ、こちらこそです」
「しばらくいるってゆーから、またよろしく」
しばらくいるって? 実は無職の実家暮らしかも。いや、幼稚園の先生とか学校の先生で夏休みとか。いやいや、そんな雰囲気はないな。どっちかってーと、海外企業勤務でバケーション。
小麦を収穫した後の畑に、ぼーっと大豆の種を蒔いてた、ら。
隣の田んぼで大家さんの孫が雑草を抜いてた。つばの広い帽子。それには首を覆う布付き。農協で売ってるやつじゃん。美女とのギャップがすごい。こーゆー姿を嫌がったりしないんだ? 意外。
「よかったら、飲みますか?」
オレは、自販機で買ったお茶のペットボトルを手渡した。
「あ、いいんですか? いただきます。いくらですか」
「はは。そんな、いーですよ」
2人で休憩。小屋でできたちょっとした日陰。あまり景色はよろしくない。田んぼ、畑、道路、工場。
「山田さん、若いのに畑買うって、めずらしいですよね?」
「自分でも意外です。マンションが先だろって友達に言われました」
「祖父がとってもお世話になってるって話してました」
「こちらこそです。1から教えてもらってます」
そんな感じで、お互い、探るように仕事の話に浸食していく。
「外資の投資銀行にいたんです。心折れて離脱しました」
「ブラックなんですか?」
「能力主義なんです。能力ないと時間がかかるんです。時間かけても結果が出ればいいんですけど、ね。出ないんですよ。これが」
「結果の目標が高すぎだんじゃないんですか?」
現在、彼女は無職だった。とりあえず日本に帰った後、世界一周でもしようかと考えていたらしい。
「じゃ、このあと、世界一周ですか? 船?」
「いえ。帰ってきたら、日本がいーなーって。でも、実家に居づらくて祖父んとこにいます」
「居づらい?」
「かっこ悪いじゃないですか」
そーゆーもんだろうか。妹は、会社を辞めたとき、金がないと言って実家で親のスネをかじりまくっていた。んーー。外資の投資銀行にいたんだったら、スネをかじる必要はないだろーな。
「親にはちゃんとして見せたいんですね」
「そうかもしれません」
「孫に頼りにされるお祖父ちゃんってかっこいいですね」
「頼りにしてるってゆーか、されてるってゆーか。会計処理をさせられるんです」
「あー、なるほど」
さすが土地持ち。
最近仕事はいーかんじ。合コンはジジイになって呼ばれなくなった。アラサーの数年は大きい。同期はガキまでいたりする。気づいたら、同期は辞めていって減っていた。
オレは相変わらず。
着の身着のまま気の向くまンま。
キャンプ、海、旅行、スノボ。
ときどき大家さんの孫を誘う。なんというか、どこへ出しても恥ずかしくない人。
大家さんの孫は、オレと同じアパートの別の部屋に住み始めた。仕事も始めた。
オレは畑に気を病むことが少なくなった。柵があっても畑泥棒は出た。慣れ。小麦畑にしてからなくなった。とうもろこしとさつまいもはハクビシンにやられた。畑の世話は常にしてる感じ。
転勤になったら畑、どーすっかな。
「祖父と私がするよ。種まきと雑草取りと害虫駆除と収穫のときに帰ってきて」
「それって、隔週くらいじゃん。ははは」
「それくらいは会おうよ」
あ、れ? そーいえば、毎週どころか、もっと会ってる。最近は平日も一緒に飯食ってるかも。会社帰りだったり、大家さん家だったり、どっちかの部屋だったり。これって、一歩踏み出してもいーんじゃないか? むしろ、礼儀として手ぇ出さないとマズいんじゃないか?
気づいたら、一緒に住んでた。で、大家さんに言われた。
「見た目はこんなだが、気だてはえーんだ。山田さん、頼むからもらってくれ」
読んでくださってありがとうございます。
実は隔世相続をしている家で、大家さんから孫に田畑が相続され、30年後くらいに全部の田畑を世話することになるーーーというオチの予定でした。美しくないので、嫁ENDにしました。




