苦労話
施設の住所を調べて、野菜を運んだ。勤めて明るく爽やかに。「泥棒が収穫してしまいまして」と。
「ああ、かぼちゃだ。かぼちゃだ」
「ブロッコリーもある」
「ありがとうございます」
入居者さん達が集まってきた。野菜泥棒が野菜を返してくれたと説明しても、お年寄りに上手く伝わらず、盗んだ物を庶民に配るネズミ小僧だと言われた。オレは泥棒じゃない! みなさんが作った野菜なんですよと言っても、ピンときていなかった。
施設の従業員は、話が通じないことに苦笑いしていた。
再び畑。どこにどう柵を立てるのか検討。
あの人ら、何ヶ月も育ててたよな。大変なのに車で畑まで来て、間引きしたり虫取ったり。収穫って絶対楽しいと思う。入居者さんもだけど、何より施設の従業員さん達が頑張ってた。
近くを歩き回って、どんな柵で囲っているかを見た。田んぼは柵なし。だよな。稲刈って盗んでも、精米までが素人じゃ無理。相当な範囲の稲刈りしなきゃいけねーし。畑は……柵もなんもねーの、オレんとこくらいじゃん。しかも1番道に近いのに。
ああ、仕事。クソ忙しいんだよな。
杭を打つ本数とか、網とか、網を固定する針金とか。杭打つ道具なんて持ってねーし。
あった。
買った土地の隅っこに、農機具が入った小屋があり、その中に大型ハンマーがあった。ついでに杭も使えるのがあった。「小屋ごとあげるよ」なんて言われた。たぶん、解体や処理に金がかかるんだろーな、押し付けられたんだろーなって思ってた。実際その通りだろう。が、大型ハンマーと杭はラッキー。
他はネット購入。〜¥
翌日から仕事。
「何見てんっすか」
職場で網の張り方の画面を見てたら聞かれた。
「野菜泥棒が出たんだよ」
「あ、昨日、早退してましたもんね」
「まいった。警察から電話とか」
会社で「ファーマー山田」と呼ばれるようになった。そこまで本格的じゃない。
やっと週末に畑仕事。めっちゃ仕事で疲れてたはずなのに、大型ハンマー振り下ろしたら、なんかスカッとした。
月曜の筋肉痛が半端なかった。
実家に帰ったときに畑の話になった。地方に嫁に行った妹が「はぁぁ」と苦労話を始めた。
「ウチの後ろに山あるの。ウチんとこの山じゃないんだよ。なのにさ、ウチの敷地を通って猿が畑に来るからなんとかしてくれって言われて。ひどくない? しょうがないから有刺鉄線張ったの。なのにまだ、有刺鉄線張ってある木、ほら、等間隔に打ってある。あれに座る猿がいるって。これ以上、どーせーっちゅーの」
なんだか、地方の方が畑もその周りの人も大変そう。
地元の青年団に入らされた。畑あるから。断るべきだったかも。青年団に入ったら、自動的に自治会にも入ってて、なんか、地域の掃除とか、安全パトロールとか、祭りの裏方がついてきた。でもって、青年団は老人会みたいな年齢層。参った。
「ご先祖様からの土地を大事にしていらっしゃるんですね」
老人会、じゃなくて青年会でそんな世間話。
「いやいや。もう手放すのは慣れてる。ひい祖父さんが死んで相続税払うときに売って、兄弟で分けて、祖父さんが死んだときも相続税払って、兄弟で分けて。どんどん1人が持ってる分が小さくなる」
「相続税ですか」
庶民は払わないんだって。地主さん方は相続税ありがスタンダード。世間話はマンション経営と節税。
「道路作るからどけって言われたりなぁ」
「最初に言われたとき売った人は坪5万だったのが、強制撤去んときは坪1万5000円だったと」
「先祖代々の土地をなんと思っとる」
……。オレ、大家さんから坪1万2000円で買ったよな。黙っとこ。
ひぇぇ。5万の3000坪って1億5000万円。
でも、そーゆー土地だと思う。駅徒歩15分くらい。オレが持ってる畑よりずっと駅近くに持ってる人もいっぱい。結構、同じ苗字の人が多い。それは、相続のときに兄弟で分けるから親戚なんだと思う。




