畑を購入
着のみ着のまま気の向くまンま。
そーやって生きてきた。
ふらふらと。
思えば、大家のじーさん、何年も前から仕込んでたんだな。
大家のじーさんは、よく野菜をくれた。
たぶん、それが始まりだった。
「ありがとうございます」
「見た目はこんなだが、味はえーんだ。山田さん、頼むからもらってくれ」
4日後にお返しのお菓子を持って行ったら「そんなことしなくていい」と言われた。
でもまあ、何もしないのは気が引ける。3回に1回くらいはお返しをした。
大家さんは地主。たまたまオレは、大家さんの家の隣のアパートの1階に住んでいた。会社から帰ってくると、ときどきドアノブに野菜入りのビニール袋がぶら下げられている。それはアパート全部の部屋に。人の良さが滲み出てるななんて思った。
ときにはベランダから畑仕事中の大家さんに「畑があるっていいですね」と社交辞令。
「畑なぁ。野菜が育っていくのは楽しいぞ」
「楽しそうですね。何作ってるんですか?」
「配っとる野菜、トマト、きゅうり、ナス、ピーマン。農協へ持ってくのはピーナツ、枝豆、米、いろいろ」
月日が流れ、その手の会話を何回かしたあるとき、提案された。
「よかったらそこの畑、好きに使っていーよ。ほら、あの辺、空いてる」
指差されたのは4畳半くらいのスペース。初心者には広すぎる。遠慮して、その中の1畳くらいを使わせてもらった。トマトときゅうりとピーマン。意外にも上手く行った。楽しかった。新しいことはうきうきする。新しい女とか。合コンのネタにしたりした。都内の三つ星レストランに行きたい女の子にはウケないが、間はもつ。
「山田さん、上手いねぇ。よかったら、もっと畑使っていーよ」
大家さんにおだてられ、徐々に畑が広がった。土日に大家さんの手伝いをして、肉や酒を貰ったりした。
オレは土日だけだが、大家さんは気づくと田んぼや畑にいる。
「働き者ですね」
結構な歳なのに。70代だろう。現在朝6時。きっと5時台から働いている。
「田んぼや畑にしておかないと、税金が上がるからね」
「ははは。持たざる者からしたら、うらやましい悩みですよ」
「いってらっしゃい、山田さん」
「いってきます」
大家さんは一人暮らし。息子は東京とバンコクにいるらしい。東京にいる方は開業医、バンコクの方は商社マン。なんか、勝ち組じゃん。別に自分を卑下するわけじゃないけどさ。
ある日、年を取って、全部の田畑を世話できないから、少しずつ手放すと聞いた。もしよかったら畑を買わないかと。
「ほら、あそこ。道路に面した。あそこだったら、もしも売ることになったとき、高く売れる」
最初にオレが思ったのは「土地持ってるってかっけー」。
値段を聞けば、1坪1万5000円。
「ええっ、1坪1万5000円でいいんですか?!」
「山田さんだから」
ここは一応、神奈川県横浜市。小さな家が何千万って価格の場所。
えーっと、大家さんとこの田畑は1ヘクタールごとに区切られてるから、1ヘクタールはだいたい3000坪で4500万。オレが4500万か、ちょっと無理だなって頭の中で結論を出してたら、大家さんはもう一声。
「1坪1万3000円」
「……」
「1坪1万2000円」
「あ、いえ、計算してるだけで、値切っているわけでは」
「いーよ。言っちゃったから。1坪1万2000円で」
「え。」
決定。畑を手に入れた。すげっ。〜¥
それにしても、一瞬で4500円が3900万円になり、3300万円になった。その差額1200万円。ベンツ買えるじゃん。土地持ちの金銭感覚ヤバい。
「お世話んなってるし、本当はただで上げたいくらいなんだ」
その畑の半分は近所の施設に貸していて、その賃料で税金などが十分賄えると聞いた。
めちゃくちゃテンション上がった。不労所得! 一気に持ってる側んなったし。




