最終話 帰る場所
次の日、王都の宿屋で目を覚ました。
朝の光が王都を包んでいる。
「今日、出発ですね」
「ええ」
朝食を済ませて、宿屋の外に出ようとした。
すると、カメリアが見送りに来ていた。
「カメリア、来ていたの」
優しく微笑みながら、私を見ている。
「はい。ここにいるのが分かって」
馬車はここに停めてあったからね。
「寂しくなります」
「また来るわ」
今度は許可が出るのか分からないけれど。
馬車に乗り込んで、王都を離れようとした。
「ちょっと待って」
私は御者に伝える。
「その前に、一カ所寄りたい」
馬車はとある屋敷の前に。
そこは、私がずっと暮らしていたビュージンゲン邸。
久しぶりに見る屋敷は、大きく感じた。
「懐かしいわね」
呟きながら、屋敷のドアを叩く。
「め、メリッサ様!?」
出てきた執事が驚きながら、こっちを見ていた。
中へ通されて、応接室に。
まあ、追放された身だからね。
「ご無事で……」
紅茶を差し出されながら、執事が涙を流している。
屋敷の中では使用人達が騒然となっていた。
追放されたはずの令嬢が、やってきているのだから。
「元気よ」
「マドレーヌ辺境領の噂は聞いています」
メイドが話していった。
「港町が栄えているとか」
「農村が豊かになったとか」
かなり尾ひれがついているわね。
「まだ途中よ」
苦笑いしながら返事をする。
「今日は挨拶に来ただけ」
紅茶を飲んで、立ち上がった。
「また来るかもしれないけれど、ずっと先になるから」
微笑みながら屋敷の扉へ。
「ですがここは……」
執事の困惑した表情。
「私の家は、もう別の場所だから」
そう言って、家を出ていった。
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
執事はそう言葉を口にする。
「ええ」
頷きながら馬車へ。
王都市内を走っていく。
やがて王都の門を馬車が通り過ぎていく。
簡単なチェックが行われたが、特に大きな事は起きなかった。
馬車の後部から、王都を見る。
門につけられた王家の紋章が小さくなっていく。
「また来られるかしらね」
でも未練は無かった。
街道を進んでいって、農村の景色が続く。
「国境ね」
「やはりドキドキしますね」
一度マリーデグリー王国を離れる。
やはり、越えるっていうのは様々な気持ちになる。
レグニン王国の宿屋で泊まって、次の日にマドレーヌ辺境領へ。
「帰ってきましたね」
農村の景色を見ながら、馬車は屋敷へ。
アイゼンポールは、長閑な雰囲気を出しながら農作業に勤しんでいる人々が見えていた。
「ええ」
日数的には一週間くらいかしらね。
「おかえりなさい」
ミカエラが出迎えた。
「帰ってきたわ」
私はそのまま、港町へ。
タレスブールは活気に溢れていて、賑わっている。
潮の香りとパンの香りが鼻に入ってきた。
「メリッサ様だ」
一週間だけれども、町民は驚いている様子だった。
急に空けちゃったからね。
「メリッサさん、おかえりなさい」
私を見つけたリュシアが、そう挨拶をした。
「ただいま」
微笑み、見渡しながら返事をしたのだった。
*
春。
タレスブールには、船が入港した。
「交易船が来たぞ!」
港前の市場には活気が溢れている。
新しい穀物制度もあって、穀物以外にも出入りするものが。
リュシアは、いつものように荷物を運んでいた。
アイゼンポールは、均しをやめたのもあって、多いところでは収穫量が増えていた。
種籾の量は、格段と増えた訳ではないものの、去年よりは多少増えそうである。
倉庫には猫が座ったまま。
村長のモルガンは農作業をしながら、少しずつ良くなっていく景色を見つめている。
娘のルシアも手伝いながら、日々を過ごしていた。
子供達が走り回っていて、畑では穏やかな景色が広がっていた。
*
「王都から報告です」
セシリアが書類を持ってきた。
「制度?」
「ええ」
私が問いかけると、彼女は肯定した。
「地方備蓄制度が正式に採用されました」
「早いわね」
半年も経っていないんじゃないかな。
「王太子殿下ですから」
調整したのかしらね。
追放したけれども、結局は間違っていなかったし。
窓の外を見てみると、港町が見えている。
賑わっているようだった。
「メリッサ様、お久しぶりです」
カメリアがやってきていた。
「良く来たわね」
遠かったと思うだけれども、大丈夫だったのかしら。
でも、彼女なら大丈夫でしょう。
ヒロインなのだから。
「王都、少し変わりましたよ」
彼女はそんな報告をしていた。
「穀物市場が落ち着き始めました」
「良かった」
上手くいっているのね。
*
夜、私は書斎で夜空を眺めていた。星が綺麗ね。
すると、いつの間にかマドレーヌも見上げていた。パンを食べながら。
「いい感じじゃない」
私を見つけたのか、そう返事をしてくる。
「見てたの?」
星空を眺めていたのにね。
「ええ、見守るって言ったでしょ」
微笑みながら私を見ている。
「王国はすぐには変わらない」
はっきりと、マドレーヌは言い放った。
当たり前だけれど。
「でも、流れは変わった」
彼女は、本国を見ているようだった。
そして再び私を見つめる。
「ええ、そうね」
笑みを見せながら、マドレーヌに返事をした。
「これから面白くなるわよ」
そしてパンを渡される。
やはりちゃんとしたもの。感触がある。
「だって王国は、辺境から変わり始めたんだから」
風が吹いて、マドレーヌの姿が消えた。
私は渡されたパンを食べながら、呟く。
「さて、明日も仕事ね」
マドレーヌ辺境領の夜は、静かに更けていった。
どこかで女神が、きっと笑っている。




