屋根の上のマドレーヌ
王太子執務室を出たとき、廊下の窓からは夕焼けが見えていた。
水色の空は橙色に染まろうとしている。
「本当に戻るんですね」
カメリアが問いかけていた。
「ええ」
それに対して、私は頷く。
「王都に残る道もありました。私は戻ることになりますが」
セシリアは元々、マドレーヌ辺境領で過ごしていたから。
「でも私は領主だから。それに追放された身よ」
殿下やカメリアによってだけれども、もうどうでもいいかな。
元々ゲームでにおいても、同様に破滅していたのだから。
今の私には都らしい都。
「また来てくださいね」
「もちろん。貴女も来てね、マドレーヌ辺境領へ」
微笑みながら、カメリアへ一礼をする。
王宮の建物を出て、入口付近。
そこには、マドレーヌ辺境領から乗ってきた馬車が停まっていた。
準備は出来ているみたい。
「もう帰るのか?」
入口に殿下がやってきた。
「王都の宿屋で一泊して、それから帰ろうかなって」
「そうか」
予定を伝えていく。
「マドレーヌ辺境領」
彼はその方角を見つめた。
「王国の制度の試験場になる」
飛び地だからって、やりやすいのかしらね。
「重いわね」
思いついた感想はそれだった。
「君が始めたことだ」
均しをやめたからね。
やめたのに始めたって、ちぐはぐしているけれど。
「あれ?」
ふと上から視線を感じた。
屋根の方向を見てみると、誰かがいる。
しかも見覚えのある人物。
「…………」
少し考える。
「どうしたんだ?」
そして、足を王宮の中へ向ける。
「ちょっとだけ、王宮に用事が出来た」
私は王宮の中へと戻って、最上階へ向かう。
あるバルコニーへ出て、呼びかける。
「マドレーヌさん、ここまで来たの?」
屋根の上にいたのは、マドレーヌ。
パンを食べながらにっこりとしていた。
女神だから、来ることが出来たのかしら。
「遅かったじゃない」
彼女はバルコニーに降りてきた。
「やっぱりいたのね」
あの日、見続けているって言っていた。
それを実行していたのね。
「どうしてここまで来られるの?」
でも、ここは飛び地じゃない。
それなのに、何故来られるんだろう。
「昔はね」
するとゆっくりと口を開くマドレーヌ。
「ここまで繋がっていたのよ」
「繋がってた?」
飛び地じゃなかったってこと?
「回廊」
マドレーヌは微笑みながら言葉を続けていく。
「王都とマドレーヌ辺境領を繋ぐ」
そして説明していった。
「昔は王都から国境を挟まず、直接マドレーヌ辺境領へ行けたの。その時には今よりも栄えていたわよ。人も多かったし」
苦笑いしながら打ち明けていく。
「私もマドレーヌ辺境領を栄えさせようと、さまざま頑張っていた。人々は喜んでいたから、とても嬉しかった」
そんな時代があったのね。
「でも、やがて王都から搾取されていって、武力も使われて……衰退していった」
微笑みを消して、暗い表情になる。
「だから回廊を他国に割譲させるように閉じて、飛び地にさせた」
マドレーヌは簡単に言っているけれども、マドレーヌ辺境領を閉鎖的にさせたっていうことだよね。
「王都がもう、マドレーヌを吸い上げられないように」
「つまり、王国を見捨てたの?」
「ええ」
私が問いかけると、肯定した。
「それに私もこんな風にしたのよ。でも」
少し笑って、私を見た。
「貴女が来た」
笑みのまま話していく。
「だから、また少しだけ見てみる」
その言葉には嘘は無さそうだった。
「貴女なら、変えられるかもしれない」
マドレーヌは軽く息を吸う。
「だから私は、回廊を閉じたことを後悔していない」
「…………」
私は言葉が思いつかなかった。
まだまだ問題がありそうだったから。
「だから、見守るわ」
「ええ」
頷く私。
「便利スキル、無くても良いかしら」
転生特典の話ね。
無いって言っていたけれど。
「欲しいけれども、無いのでしょうね」
嫌味っぽく言ってみる。
「そうよ」
「ならいい」
女神が見てくれるのなら。
「さて、先に戻っているわ」
風が吹いて、マドレーヌの姿が消えた。
「本当、勝手な女神ね」
苦笑いしながら、居た跡を見た。
「メリッサ様ー!」
セシリアの声がしたからする。
「今行く!」
バルコニーを後にして、下へ降りる。
「帰りましょう」
にっこりとしながら呟く。
「マドレーヌ辺境領に」
夕焼けの王都を、私は一度だけ振り返った。




