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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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8/23

屋敷の状況確認

 屋敷の玄関をくぐった瞬間、私は思わず立ち止まった。


(……お城、ほどではないけど、貴族の屋敷としてはちゃんとしてるじゃん)


 一瞬だけ、安心しかける。でも私は知っている。

 この世界、安心した瞬間から地獄が始まるゲームだったことを。


(問題は”表面の顔面ポイント”じゃなくて、”生活クオリティ”なんだよね……)


 廊下を歩く。

 靴音が、やけに響いた。


(静か……いや、静かすぎない? なんか……人の住んでた匂いが薄い……?)


 掃除はされている。

 けれど”手入れ”とは違う。

 誰かが必要最低限で維持していた建物って、こういう感じなのだろう。

 私はミカエラに案内されながら、まずはキッチンへ。


「こちらが調理場です。必要な器具は揃っております」


 そう言われて見た、第一印象。


(文明レベル確認入りまーす)


 火は薪。

 運搬は手動。

 水は井戸。

 調味料は塩メイン。

 香辛料はおまけレベル。

 記憶の中にあるビュージンゲン邸での食事とは大きく違うことになりそう。


(IH? ガス? 電子レンジ? そんなハイテク文明はこの世界にございません)


 勢いで脳内アナウンスが出る。

 転生特典でハイテク文明が使えたら良いのに。


(ああ……カフェラテ飲みたい。コンビニスイーツ食べたい。いや、ここコンビニ以前にスーパーも無いからね?)


 近くの街なら、市場はありそうだけど。

 でも、良い点もある。


(……ちゃんと”家庭の匂い”はする。使われてるキッチンだ、これ)


 完璧に同じじゃないけど、かつての私が実家で味わっていた匂いと系統が似ていた。

 ほんの少しだけ、胸が軽くなった。


「ここがメリッサ様のお部屋です」


 次に案内されたのは、私の部屋として使われる予定の部屋。

 ベッド、机、小さな棚。

 必要最低限。

 でも、それだけはちゃんと揃っている。


(ホテルじゃない。でも、”住める家”ではある)


 手で布団を押してみる。


(……硬い!)


 思わず顔が引きつる。


(うん、知ってる。乙女ゲームのベッドって、見た目フワフワだけど、実際はたぶんこういうやつ)


 でも、寝られない訳じゃない。


(贅沢は言えないか。屋根があって、ベッドがあって、雨風防げて。追放の令嬢としては、普通に勝ち組よりなんじゃない?)


 自分で言い聞かせるように微笑む。


「こちらは食料庫です。現状、三ヶ月は問題なく過ごせますが……」


「けれど、無限ではない。ということですね」


「はい」


 棚には保存食。

 塩漬け肉。

 硬そうなパン。

 干した野菜。


(……うん、はい現実出ました! これ、普通に運営ミスると詰むやつじゃん。”のんびりスローライフ”とか言っている場合じゃないね?)


 でも。


(逆に言えば、”ちゃんと管理すれば生きられる”ってことだよね)


 胸の奥で何かが少しだけ燃える。


(悪役令嬢って、何してもダメな役だった。でもここならーー”ちゃんとやれたら、ちゃんと評価される場所”かもしれない)


 ふっと、笑みが漏れた。

 案内がひと段落したところで、私は屋敷の外に出た。


「気持ちいい」


 風が丘を抜ける。

 草が波打ち、遠くに海の線。見下ろすように港町が。

 転生してから初めて見る、海。

 人は少ない。賑わいもない。

 でも、静かで、息がしやすい。


(……あー、なんか。王都より、こっちの方が好きかも)


 胸が、不思議と軽い。


(追放ルート直行。破滅確定エリア。ゲームだと背景扱いだった辺境)


 でも。


(現実だとーー”生きる場所”なんだね、ここ)


 私は両手に腰を当て、小さく息を吐いた。


「よし。悪役令嬢、領主としてーーとりあえう、今日を生きるところから始めましょうか」


 コメディ寄りの覚悟で、私は新しい生活の初日を始めることにした。

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