財務局の判断
王宮にある王太子執務室。
日が差し込んでいる室内で、書棚の前で私とセシリア、カメリアが立っている。
久しぶりね、この執務室に入るのも。
殿下は、机の前の椅子に座って人物がやってくるのを待った。
少しすると、兵士がやってきた。
「財務局長をお連れしました」
部屋の中に年配の役人が。
落ち着いた雰囲気を出していて、慌てている様子はない。
入ってくると、殿下は机の上に手を置いた。
「王宮備蓄を増やしたのは、貴様か」
「はい」
否定することなく、即答した。
途端に部屋が静まり返っていく。
「王都倉庫の穀物を王宮備蓄に回した」
殿下は淡々と質問をしていく。
「半年で七倍だ。説明しろ」
それにも財務局長は動じることはなかった。
「王都を守るためです」
こう、理由を述べていった。
「最近、王都では穀物価格が上昇しています。王都の人口が増加していて、需要は上がっていく。ですが、周辺の農村では収穫不安が起きている」
理由の中身。
分からないわけではない。
需要が上がっているが、十分な供給が出来ていない。
だからこそ、値段が上がるという。
「王都には王国人口の三分の一がいます」
財務局長は窓を見た。
窓の外に広がる王都市内を見ているように。
「ここが飢えれば、王国が崩れます」
それを訊いた途端、執務室は沈黙に包まれた。
「ですので、備蓄確保を命じました」
自信のこもった声。
「その責任は、すべて私が負うつもりでした」
彼は間違っていないというのを、強調しているようだった。
「王都備蓄強化命令、ですね」
「はい」
セシリアの確認にも頷く。
「だからと言って、均し制度を使う必要はない」
殿下は財務局長に言い放つ。
「必要でした」
「なぜ」
睨み付けるように問いかける殿下。
「それが既存の制度だったからです」
財務局長は表情を変えずに答えていく。
「王国の穀物供給は、均し制度で動いています。止めれば、地方供給が混乱する」
「でも」
私は財務局長を見た。
「それは余剰のある時の制度」
さらに言葉を続けていく。
「均しは本国において、地方の余剰を王都に集める制度」
マドレーヌ辺境領では、各集落の差を無くすためのものだった。
「余りがある時はいい」
目を見て、話していく。
「でも、余りがない」
軽く息を吐く。
「余剰がないのに、制度だけが動いた」
財務局長は何も言わなかった。
「制度は余りを運ぶ仕組みです。不足を運ぶ仕組みじゃない」
私は言葉を継いでいく。
「だから、王都が地方の穀物を吸った」
「……分かっています」
全員が彼を見ていた。
「だが、止められなかった」
軽く俯くように、返事をする。
「王都は巨大です」
ぽつりぽつりと話していく。
「一度不安が広がれば市場が崩れます」
つまり、備蓄を増やせば市場が安定する。
そういう理屈で行っていたのね。
「だが、それでも」
殿下は立ち上がった。
「制度は間違っている」
はっきりと財務局長に伝える。
「王都を守るために地方を飢えさせる制度など」
一拍置いた。
「王国の制度ではない」
殿下は息を吸う。
「マドレーヌ辺境領にて、この制度を止めたのは」
言葉を続けながら、殿下は私を見た。
「彼女だ」
そしてはっきりと宣言した。
「均し制度を止める」
部屋が静まり返って、沈黙が流れていく。
少しして財務局長が頭を下げた。
「承知しました」
部屋を出ていく際、財務局長は振り返って足を止める。
「ただ、殿下」
「何だ」
「王都は、まだ飢えています」
本国での均しを止めたからって、状況が変わったわけじゃない。
「分かっている」
殿下は窓を見た。
そこには、王都市内が広がっている。
「だから、制度を作り直す」




