第一関所
夕食を食べ終わって、私達は席を立とうとしたとき。
「ちょっと良いだろうか?」
殿下が、宿屋の主人を呼び止めた。
「はい?」
彼は食器を持ちながら、きょとんとした声を出していた。
「この辺りを通る穀物輸送は多いのか」
今回の件に関連したことを訊いていた。
「ええ、街道をよく通りますよ」
主人は頷きながら、返事をしている。
「王都へ、ですか?」
カメリアも質問に参加している。
「そうです」
主人は言葉を続ける。
「今年も例年通りですよ。穀物隊は毎日のように通ってます」
「……例年通り」
セシリアは主人の話に、反芻していた。
王都へ運ばれる量はそのままなんだ。
(やっぱり、減っていない)
何でなんだろう。
「最近、輸送隊が止められることはあるか」
殿下がそう質問を投げかけた。
「そういえば……」
すると、主人は思い出したように語り出していく。
「王都圏外縁関所の検査が厳しくなったって話は聞きましたね」
「いつからだ」
異変が起きている。
それを殿下が詳しく訊こうとしていた。
「半年くらい前からです」
「備蓄が減り始めた時期ですね」
一致している訳か。
「……なるほど」
拳を顎に乗せて、考え込んでいた。
空気が少しだけ変わったような気がする。
「どう思いますか?」
主人との会話が終わって、部屋で私とセシリアが話し合う。
「関所でしょうね」
「王都圏外縁関所でしょうか?」
さっきの主人の話からすれば、その可能性が高い。
「第一関所なら、農村が崩れるから」
そこで取られているなら、より影響が出ている。
「王都前関所なら帳簿が狂います」
そこは、王都に届く帳簿がおかしくなるわけか。
ほぼ王都なのだから。
「でも王都圏外縁関所は」
「数字を操作できるわ」
どっちでもない関所なんだから。
「確かに」
セシリアは頷いた。
「輸送途中ですから」
沈黙が流れる。
納得いったからだと思う。
「ただ」
「どうしました?」
「そんな簡単なら」
軽く息を吐く。
「殿下がとっくに気づいているはず」
つまり、とっくに判明しているはずっていうこと。
なのに分からないなんて。
「ですね」
再びセシリアが頷いた。
*
宿屋の屋根。
そこに誰にも見られることがない、女性が座っていた。
「違うのよね」
マドレーヌは何故かマドレーヌ辺境領ではなく、ここに。
パンを美味しそうに食べている。
「そこじゃない」
彼女はメリッサやセシリアの話を聞いているかのように、呟いた。
遠くを見て、にっこりとする。
「音が鳴るのは」
マドレーヌは王都の方向を見た。
「もっと王都の近く」
*
次の日、馬車は第一関所に向かって走り出した。
昨日と同様に、二台の馬車が並んで。
「止まれ!」
第一関所、兵士がそれぞれ馬車を止めていた。
当然か。関所なんだもん。
「王家の視察だ」
ただ殿下側の御者が、大きな声で宣言する。
すると、状況を把握したのか兵士が整列していた。
「で、殿下!?」
私達は馬車から降りて、関所の建物へと入っていった。
石造りの建物で、そこそこ大きめ。
「穀物輸送の帳簿を見せろ」
殿下が関所の長に命じた。
「すぐに!」
兵士達は関所の中から帳簿が運ばれてくる。
「確認します」
セシリアや殿下が帳簿を見ていく。
ページをめくる音が関所に聞こえてくる。
兵士達は緊張しながら見ていて、重い雰囲気が漂っている。
「どうですか?」
時間が経って、カメリアが様子を訊いてきた。
「…………」
セシリアは一旦考え込んだ様子で、沈黙が流れる。
「問題ありません」
少しして返事が出てきた。
「減ってない?」
「ええ」
やっぱり第一関所には、何も無かった。
「ここではない」
殿下が帳簿を閉じた。
「次だ」
私達は馬車へと戻って、次の目的地へ。
「王都圏外縁関所に向かう」
殿下がそう宣言したとき、一人の兵士がぽつりと呟いた。
「そういえば……」
「何だ」
彼の呟きに反応して、殿下は聞き返した。
「最近、穀物隊は……王都圏外縁関所でよく止められています」
沈黙が再び流れた。
「……急ぐぞ」
馬車は次の関所へと向かっていった。




