殿下の視察11
「王都へ入る穀物は、三つの関所を通過します」
地図を見ながらセシリアが確認していた。
私が王都を出ていった関所はその一つ。
「関所の記録は?」
「王都提出分は、写しのみです」
セシリアが殿下が持っている記録を見ながら、話していく。
「原本は?」
どうやら殿下が持っているものは、写ししか持っていないみたいだ。
「地方保管のはずですが、取り寄せないと難しいです」
殿下はゆっくりと顔を上げた。
怪訝な顔をしながら、セシリアを見ていた。
「写しだけが王都へ届いているのか」
沈黙が流れた。
「そうみたいですね」
カメリアが返事をする。
続いて殿下は、王都の備蓄推移の紙を机に置いた。
「この減り方を見ろ」
指の方向には、数字が書かれていた。
「……段階的ですわね」
「不自然に、一定です」
増える量、減る量が揃っている。
カメリアの言うとおりね。
そして減り方が一次関数に出来そうなくらい、揃っていた。
「事故なら乱れます。不作なら跳ねます」
確かに増え方に変化が起きているはずなのに、起きていない。
「だがこれは、計算された減り方だ」
殿下がそう話す。
それと共にさらに空気が冷えていった。
「均しの供出量が固定なら……」
「地方は固定量を出す」
それが王都で起きている均しなのだから。
一定量得られるはず。
「だが王都に届く量は減っている」
殿下が帳簿を見ながら呟いた。
「間で”差し引かれている”?」
誰も、否定しなかった。
言葉が出てこない。
「ゴメスは異動した」
とっくに居なくなっているのに。
「ですが制度はそのまま」
「更新されない制度は便利だ」
私の言葉に対して、殿下は補足をした。
「責任が曖昧になります」
誰が責任者っていうのが分からなくなる。
「そうだ」
殿下は、ゆっくりと頷いた。
「制度が動いている限り、誰も疑わない」
一見すれば動いている。
だからこそ。
「では」
「均しは隠れ蓑だ」
目を見開きながら殿下は断定する。
「本当の流れは、別にある」
「王都へ届く前に止められている……?」
セシリアとカメリアが訝しむ表情をしながら、言葉を発している。
「あるいは、王都に入ってからだ」
殿下も頷いた。
書斎の空気が、さらに重くなる。
「君は均しを止めた」
そして私を見ながら述べていく殿下。
「ええ」
頷く私。
「だから数字が歪んだ」
「……悪い意味で?」
「いいや」
低く、断定的に言う殿下。
「歪みが”見えるようになった”」
沈黙が流れた。
「協力してほしい」
私を見たまま拳を握りしめ、言葉を続けていた。
「何を?」
「過去三年分の輸送記録、供出契約、関所証印」
「比較すれば、消えた地点が分かります」
セシリアが考えるように言葉を発していた。
窓の外。
マドレーヌが笑っている。
「流れはね、止めたときに”音”がするの」
私にだけ聞こえる声で話していた。
(音……?)
「王都は今、きっと騒がしいわよ」




