殿下の視察10
「どういうことかしら?」
私は顎を拳に乗せながら、考えていく。
何故王都へ入ってこないのかな。
「三つ可能性がある」
すると殿下は指を折って可能性を提示した。
「一つは不作。二つ目は輸送事故。三つ目は人為的操作だ」
どれもあり得る可能性。
さてどれが一番あり得るのでしょうね。
「ただ、一つ目は否定された。地方は通常通りの収穫量」
「二つ目なら記録が乱れます」
セシリアが二つ目の可能性を考えた。
「だが数字は『綺麗すぎる』」
それを殿下が否定して、二つの可能性は無くなった。
「減るべくして減っているのでしょうか?」
セシリアの言葉に、頷いた殿下。
そして書簡を取り出した。それは殿下が視察にやってくるのと同時に来ていたもの。
「殿下、この決裁者ですが」
「ゴメスだな」
はっきりと、答えていた。
知っているのね、彼のことを。
「異動済みの」
殿下が来る直前に届いた書簡なのに、何故か名前があった。
私が追放される前どころか記憶を取りもどす前に、財務局からいなくなっている人物の名前が。
「ああ、三年前にな」
やっぱり記憶は合っていた。
むしろまだ居るって言われたら恐ろしいけれど。
そして殿下がそう答えた瞬間に、屋敷内の空気は変わった。
「じゃあ」
「現在存在しない担当者が、制度を動かしています」
カメリアの言葉に答えるように、セリシアがそう言い放った。
また沈黙が流れていく。
「制度は止まっていない。更新だけが止められている」
沈黙を破るかのように殿下が口を開いた。
「誰かが?」
何の目的で?
利益を得ようとしているとしか思いつかないけれど。
「そうだ」
低い声が沈黙の書斎に響く。
「均しを”終わらせないために”」
私を見る殿下の目は真剣そのもの。
「だから君を見に来た」
「私を?」
『だから』と言われ、私は言葉が出るタイミングが遅れてしまった。
「唯一、均しを止めた領主だからだ」
「証明できる人ですね」
殿下とカメリアの二人から言われ、ドキドキしながらも少し嬉しくなった。
悪役令嬢でも良かったって思える。
追放されたけれど、褒められる日が来るなんて。
「そうだ。理屈ではなく、現実でな」
殿下は広げられた地図を指しした。
場所は本国。
「次に調べるときはーー」
指が止まった。
「王都へ向かう輸送路だ」
指の先には道があった。
「余りはね、消えないのよ」
耳に聞こえてきて、窓の方向を見てみる。
窓の外では、マドレーヌがパンを食べていた。
毎回買っているのかしらね、それを。
「誰かが”持っていかない限り”」




