殿下の視察8
庁舎の中は殿下とセシリア以外、誰も言葉が出せそうにない状況だった。
私も緊張していて言葉が出てこない。
「さて、視察としてこれまで見てきたんだが、問題が発生しているのは、マドレーヌ辺境領ではなく、王都だ」
やがて殿下が重い口を開いた。
私を見つめている殿下。
彼の目は真剣そのものだった。
「王都だけ穀物が減っている。これを探るために、ここへやってきた」
ということは、私を追い詰めようとして来たわけじゃないんだ。
それは良かったけれども、王都がピンチ。
どうしてなの。
「王都の財務局が、”旧制度”前提で配給を続けている」
「旧制度、つまりは均しってことですのね」
「ああ」
私の問いかけに頷いて、はっきりとした返事をしている。
「それの余剰が来る前提で消費計画が組まれている」
何という皮算用。
余剰が発生しなかったら、減っていくだけじゃない。
「王都は『存在しない余剰』を前提に回っているんですのね」
「そうだ」
否定もせず、声は芯が通っている。
私達は屋敷へと戻って、より詳しく帳簿を確認することに。
セシリアが帳簿を見ていって、何かに気づいたようだった。
「マドレーヌ辺境領の均しは、集落を崩壊させないためのものです。ただ、それが本国に伝わってからは、地方において違う意味を持っていたみたいです」
大量の帳簿を取り出したみたいで、積み上がっていた。
「どういうことだ?」
眉をひそませながら、セシリアを見る殿下。
「地方の余剰を測る制度ではなくて、王都へ一定量吸い上げる仕組みになっています」
「固定で吸い上げるのか。だから同じ量が王都へやってきたのか」
殿下は報告書として見ていたのかな。
思い出しながら呟いているところを見ると。
「はい。豊作ならば余りが出ますが、不作ならマイナスになります。それは地方の村人が受けることに」
「収穫量に応じてじゃないのね」
考え方によっては、近代的かもしれない。
余りを自分のものに出来るのだから。
でもそうはいかないよね。
「基準は何をもってでしょうか?」
カメリアが質問してきた。
「それは導入して余りが出ていた年。平均よりも少々多かった年からを基準にして、変わっていません」
セシリアが言ったこと。
それは、余りが起きにくい状態になっていたという。
「つまり削った結果、出せなくなったのか」
「その可能性はあります」
かつての余りを減らしながら、出していったのかな。
(これ……どれだけ歪んで伝わったのかしら)
マドレーヌに訊いてみたい。
でも分かるのかしら、女神だけれども本国のことまで。
「ただ、農村で飢饉が起きていないのなら、それだけじゃないと思いますね」




