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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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殿下の視察7

 庁舎の中は空気が変わったような感じ。

 町長のハンスが固まったまま、書記のラルフが書類を握りしめたまま、それぞれ殿下を見ていた。


「……なるほど」


 セシリアは深く考えながら、何か分かった様子をしていた。


「え?」


 私は状況が理解できなくて、きょとんとしてしまった。

 何故殿下は、余剰よじょうが消えた理由を知ろうとしているんだろう。


「減ったのは、”いつから”だ」


「秋頃からです」


 殿下の質問に対して、そう答えるラルフ。

 秋頃から減ったって、時期に何か心当たりが。


(あ……)


 ならしをやめた時期と一致している。

 つまりはそう。


(完全に私のせいじゃないの……)


 私のせいで余剰が消えた。

 そのために、殿下が来たというのかな。


「ふむ」


 殿下は帳簿ちょうぼを読み終わって、軽く息を吐いた。


「実は君がマドレーヌ辺境領(ここ)に行ってしばらくしてから、王都では穀物の価格が上昇している」


「あら、どうしてですの?」


 値段が上がっているって、何でだろうね。


「それに備蓄が減っている。それが価格にも出てきた形だ」


「……そうでしたのね」


 モノが少ない状況で手に入れようとする人が多かったら、値段が上がるのは当然かもしれない。

 特に穀物は生きるのに必要なものだから。

 情報が入ってくればなおさら。


「それに地方からの余剰が届かないんだ」


「不作ですの?」


 収穫量が少なくて、余剰が届かないのならばよくあること。

 こんな世界だったらなおさら。


「いや、不作ではない。報告や視察からは、例年通りの収穫量だった」


矛盾むじゅんしていますわね」


 例年通りだったら、備蓄量が減るはずなんてないのに。

 それどころか王都に届くはずよ。


「均しをやめたこの飛び地で、どうなっているのか知りたかった」


 深く考えるように打ち明けていく殿下。


「ここ、困っていませんよね?」


 カメリアが庁舎にある窓からの景色を眺めながら、思っていることを口に出した。

 それを聞いた殿下は、静かにうなづく。

 均しをやめても、色々と変わっていった。

 それでもマドレーヌ辺境領の中では、大きく困っている人は今のところはいない。

 もしかしたら、女神の力もあるかもしれないけれど。


「マドレーヌ辺境領では、農村は崩壊していないし港町も活気にあふれている」


 軽く目を閉じて、そう言葉にしていく殿下。


「本国の地方も安定している。王都だけが不足している」


「王都だけ、ですのね」


 逆におかしな状況となっている。

 中心だけが足りないって。

 殿下はふところから一枚の紙を取り出し、机の上に置いた。

 王家の印が押された、簡素な一覧表だった。


「これが、今月の王都の配給と備蓄の推移だ」


 数字が並んでいるだけなのに、のどが乾く。

 備蓄量の欄が、段階的に削れていくように減っていた。


「……減り方が、綺麗すぎますわね」


 私がぽつりと言うと、殿下は小さくうなづいた。


「飢饉なら、乱れる。だがこれは――このままでは、飢えが起こる可能性がある」


「…………」


 私は言葉が浮かばなかった。

 追放した王都では、危機が起ころうとしている。


「ただ、一つ仮説がある」


「仮説ですの?」


「均し制度が”集めすぎていた”という仮説だ」


 集めすぎていた。

 それって、均しの弊害へいがいが出ているって事じゃない。


「これまでは均しは善政だと思っていたが……吸い上げていたのかもな」


 農村アイゼンポールで均しをしていた時には、東の集落を守ろうとしていたから均しが続いていた。

 余剰もあったので、他国に流したりしていた。

 それをやめたから余剰が無くなった。

 弊害かと思っていたけれど。


(私、壊したんじゃなくて、止めただけ?)


 均しをしていたら、種籾がジリ貧になっていた。

 続いたら、無くなった可能性だって。

 そう考えてみたら、止めたともいえないことはない。


「君は制度を壊したのではない。流れを止めただけだ」


 そして私をじっくりと見て、殿下は言葉を放つ。


「問題はーー誰がこの制度を維持し続けたかだ」


 殿下の言葉に、セシリアの指先がぴたりと止まった。

 彼女は帳簿ではなく、先ほどの王都からの書簡を思い出したように視線を落とす。


「……財務局の担当者名」


 小さな声だった。


「ゴメス、でしたね」


 私の背筋が冷えた。

 あの名前は――“今”の王都の人間じゃない。


「殿下。その書簡、誰が起案きあんしたのですか?」


 セシリアが初めて、王族に対して踏み込む声を出した。

 殿下は一瞬だけ笑った。


「……やはり気づくか」


 ここでは、過去の成功がそのまま今まで続いていた。

 やめたら過去の否定になるから、変えられなかった。

 ただ、本国では違うかもしれない。

 それは何故なのか。



 窓の外で、潮風が一度だけ強く吹いた。

 紙が、机の上でほんの少しだけ揺れる。


(――“余り”は、勝手に生まれない)


 私だけに聞こえる、声とも息ともつかないもの。


(誰かが、作っていたのよ)


 私は思わず、握っていた指に力を入れていた。

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