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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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殿下の視察5

 殿下は周囲を見回しているけれど、何も言わなかった。

 沈黙の間が流れていく。

 風の音と農作業の音だけが入ってくるようだった。


(何か言ってほしいけれど……)


 私も何も言葉が浮かばなかった。

 カメリアも周りを見て、何かを感じているようだったけれど。


(見ているのね)


 遠くで農作業をしている村人が、こっちを見ている。

 話し声は聞こえてこない。

 やがて殿下は無言で歩き始めた。


(怒るなら今よ)


 静寂せいじゃくを破ってほしいという気持ちもあったから。

 いっそ怒ってくれればいいのに。

 私にとって、この間はキツい。


「畑の休耕は?」


 歩きながら、殿下が話しかけた。

 畑に関することね。


「完全な休耕ではありませんわ。半分だけ休ませて、半分は別作物にしていますの」


 帳簿から、状況を把握はあくして、答えていく。


「つまり育てているのもあるのか」


「ええ。全部止める余裕はありませんもの。ここ、辺境ですし」


 もしかしたら、王都の方が余裕がないかもしれない。


「輪作しているのか?」


 少し考えた様子を見せて、次の質問を出してきた。


「している……というより、せざるを得ませんでしたわ」


「それはどうしてだ?」


「同じものばかり植えると、すぐに土が死にますもの」


 私が答えたのは、前世で見た教科書での知識もあるけれどね。


「じゃあ、余剰よじょうはどこに回していたんだ?」


 殿下は三つの質問をしているけれども、淡々とした口調で訊いていた。


「余っていたのではありませんわ」


「どうしてだ?」


 少し声の調子が変わっている。


「余剰は誰かの不足でしたもの」


 私は村人と東の集落を見ながら答えた。


「そうなのか。それは、報告書には書かれてはいないな」


「帳簿には書けませんもの」


 そう答えると、再び殿下は静かになった。

 何とか乗り越えたのかしら。


「みんな、急いでいないですね」


 少しして、カメリアが口を開いた。

 それと共に全員が立ち止まった。

 周りを見て、気がついた。

 確かにそうかもしれない。

 のんびりとしていて、農村アイゼンポールには、長閑のどかな雰囲気が流れている。


「王都近くの農村では、かなり忙しい感じでしたので」


 そっちも視察しているのね。

 こっちよりも、見やすいのだろうけれど。


「……誰も、隠していないですね」


 カメリアはそう呟いた。

 誰も視線を逸らさない。 誰も作業を止めない。


「ああ、そうだな」


 再び殿下は見回した。

 少し表情が柔らかくなっている。


(殿下……評価が良くなっているのかな)


 でもまだ分からないよね。

 再び歩いていって、殿下は他の倉庫も見ていった。

 やはり猫が座っている。

 ネズミが出てきているのね。


「成功か失敗かはまだ分からん」


 殿下がゆっくりと口を開いた。

 ならしの結果は、完全にはまだ出ていない。

 だからこそ、時間が評価することになる。


「それでも、崩壊はしていない」


 殿下は倉庫ではなく、村人の手元を見ていた。

 作業はゆっくり。

 でも、無駄な動きがない。

 ーー監視されている動きではない。

 良かった。

 最悪の評価じゃ無さそう。

 私は胸を撫で下ろした。

 横を見ると、セシリアが小さく息を吐いていた。

 まだ終わっていないのに。

 それでも、最初よりは空気が軽くなっている。


「さて、次は港町だな」


 まだ視察は続いているんだった。


 猫が一匹、こちらを見ていた。

 そしてゆっくりと港の方角へ歩いていく。

 まるで案内するみたいに。

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