殿下の視察4
「だが、報告を怠ったのは事実だ」
殿下からそう言われて、私の胃は痛みを感じた。
「制度を変えるなら、王都を動かす覚悟が要る」
そんなに重いのね。
色々と考えたけれど。
「ええそうね」
痛みに耐えながらも、殿下の発言に肯定した。
猫がネズミを食べ終わると、倉庫の中は静けさが戻ってきた。
まるで図書館のように。
倉庫の周りに、猫が再び座っている。
「いつから均しをやめたのだ?」
続いて殿下が質問をしてきた。
村長は顔を青ざめているようだった。
均しが王都に知られている状況だから、変なことを言えば処罰されると思ったのかもしれない。
「そ、それは……」
モルガンは言い淀んでいる。
「秋くらいですわ」
私は言い訳をせずに、はっきりと答えた。
誤魔化せるけれども、正直と。
「誰が決断したんだ?」
「私ですわね」
そう、責任は私に。
あの時、農村の人達に伝えた時から決めているもの。
「なぜ報告しなかったんだ?」
「する必要がありませんもの。それに、必要がない制度を、続けていると嘘は書けませんでしたわ」
領地内での状況だから。
まあ、殿下に伝わっているとは知らなかったんだけどね。
私が答えていくと、殿下は色々と考えているようだった。
「均しは王都では成功例とされている」
そしてそんな言葉を発した。
「だが現場では違うのか」
「ええ」
私は軽く頷く。
「あれ?」
周りを見ていたカメリアが呟いた。
「どうしたんだ、カメリア嬢」
殿下が問いかけていた。
「皆、怖がっていないですね」
猫やネズミ、それに村を眺めながら思ったことを打ち明けるカメリア。
「それに、穀物が報告よりも多いですね」
他の場所は違うかもしれないけれど、ここだけは増えている。
東の集落が減っているのは、確実だけどね。
「土の匂いが違います」
さらにカメリアは付け加えた。
「やめたことは成功しているのか?」
殿下が怪訝な表情をしている。
確かにネズミが増えて、猫が増えているのは、その証拠かも。
「そういえますわ」
状況に合わせながら、返答する。
カメリアに助けられるなんてね。
やはり、乙女ゲームのヒロインよ。
「王都では余剰不足が問題になっている。だから均しの成功例を確認しに来た」
「あら、そうだったのね」
向こうも向こうで大変なのね。
同じ国だから、無関係とはいえないけれど。
内陸国部分だから、もっと穀倉地帯が広がっていると思うんだけど。
「収穫量が減っているのかしら?」
「様々あるみたいだが、こちらで全ての状況が分からないんだ。少なくとも、同じ畑で同じ作物を続けていると聞いた」
「そうですのね」
天候が悪いのか、害虫が大量発生しているのか。
少なくとも育てすぎはあるのね。
私は見ていないから、分からないけれど。
「そっちの前領主の報告が、今も基準だ」
均しをしていた時のね。
もしかしたら、それに合わせるとマドレーヌ辺境領と本国では違うから違いが出てくるのかも。
「情報が届いていないのね」
物理的な距離が、阻んでいるのね。
前世だったらネットや電話ですぐに届くけれど……。
「ああ」
殿下が倉庫や猫とネズミを眺めた。
「王都では、数字しか見ていないのかもしれないな」
ふと彼が呟く。
「制度ではなく、現実が答えを出しているんだな」
そして軽く笑って、私を見ていた。
「君は制度を壊した。だが土地は壊れていない」
農村での結論はそれだった。
「視察を続けよう」
「ほらね。世界は説明しないって言ったでしょう」
どこかでマドレーヌの声がした。




