殿下の視察3
「必要がなかったからですわ」
私は早速、殿下へ理由を伝える。
簡潔だけれども、嘘は言っていない。
流石に種籾が均しによって、ジリ貧になっているからだとは言えない。
それに統合したら、「必要がなかったから」。それに辿り着くから。
「必要がなかっただと?」
「ええ」
私は悪役令嬢としての笑みを見せる。
今は元女子大学生としての笑みばっかりだけど、この時は、ね。
「それは王都の制度を否定する発言だな」
はっきりと、私を攻撃するような発言。
仕方ないけれど。
「……制度ではなく、結果を見ろということか」
「そうよ」
私は頷く。
「中に入らせてもらおう。よろしいか?」
許可に関しては村長にあるのだけど……。
「少々お待ちを」
私は村長の家へ。
そして彼を呼び出して、倉庫の前へ。
「王太子殿下! ようこそ、こんな辺鄙な村へ」
モルガンは殿下を見た途端、跪いて挨拶をしていた。
「こちらの倉庫を見てもよろしいか?」
殿下は彼を見るなり、そう問いかけた。
「……も、もちろんですじゃ!」
彼は一瞬どもりながらも、肯定の返事をしていた。
断れないよね。
「あら」
殿下が倉庫に近づくと、猫が静かに道を空けていた。
ちゃんと通れるように。
「……やっぱり、待ってるみたい」
カメリアは、この様子を見てそう呟いた。
にっこりとしながら。
撫ではしなかったが。
「そうなのか」
殿下はカメリアの言葉を聞いた後、そのまま倉庫の中へと入ろうとする。
「メリッサ嬢、均しは続いていると報告されていた」
入る直前にそう私に言い放った。
「過去の話ですわ」
即答するように返事をして、少し空気がピリつくような感じに。
イラッとしているのかもしれない。
「穀物袋が置かれているんだな」
扉を開けて入ると、静かに袋が置かれていた。
昨日と配置は変わっていない。
「ええ、倉庫ですもの」
私は平然と答える。
その時ーー。
サラ……。
袋が揺れた。
風が入ったわけではない。
それなのに、動いた。
「おや、どうしたんだ?」
殿下の呟きに応えるように、揺れの正体が現れる。
「ネズミ?」
小さいネズミが一匹、袋の下から出てきた。
この場所では害獣。
私達を見ても、逃げようとはしていない。
「猫達が……!」
カメリアの発言と共に、出てきたネズミに猫が反応していた。
座っていたのに、動けるように立ち上がっている。
「まだ音がするな」
カサカサカサ……。
確かにネズミは出てきたはずなのに、まだ揺れるような音がしている。
正体は時間が掛からずにはっきりとする。
「まだいたのね!?」
別の袋の下から、ネズミが数匹出てきた。
このネズミ達は倉庫を飛び出して、猫達に食べられていた。
「食べましたね」
殿下はこの様子を何も言わずに見ていた。
何を考えているのか、分からない感じで。
「……自然が判断してますね」
カメリアはそう呟いた。
猫がネズミを食べ終わると、殿下は周りを見ていた。
倉庫を見て、猫を見て、そして私を見た。
そして何か納得したようだった。
「均しをやめたら、こうなりましたわ」
納得したのを感じたから、私は殿下に伝える。
(言い訳をした瞬間、負ける気がした)
はっきりとした言葉で。
言い訳なんて出来ないよね。この状況は。
むしろ言い訳したら、ややこしくなりそうだし。
随行していた書記官が、ゆっくりと新しい紙を取り出した。
「……正直だな」
ため息をつきながら、殿下は口を開いた。




