殿下の視察2
屋敷を出ると、殿下は周囲を観察するように見回していた。
「余剰を運搬する荷車は無いんだな」
彼はそんな事を口にしていた。
やはり均しに関することを見ようとしているのね。
「静かだな」
そしてそんな感想を呟いていた。
「辺境ですもの。刺激はありませんわ」
私は殿下の言葉に対して、そんな返答をしていた。
のんびりとしているってアピールをね。
「そうか。じゃあ、農村へ行こうか」
殿下とカメリアは王家の馬車に。
私はいつもの馬車に乗り込んで、農村へと向かう。
「メリッサ様、殿下とやってきてから様子が変わっていますが」
一緒に馬車へ乗ったセシリアからそう訊かれた。
まあ、そうなるよね。
いつもと違っていたら。
「そうね。かつての話し方をしているだけかな」
「どうしてですか?」
「不安なのもあるし、主導権を握りたいから」
セシリアに理由を伝えていく。
「均しをやめていますから、突っ込まれないようにですね」
「そうよ」
頷いて、セシリアを納得させる。
こうなったんだったら、この感じで通していくから。
「馬車、遅めね」
私達の後ろに走っているが、殿下達の馬車は距離が出来ているように感じた。
もしかして視察をするために、スピードを落としているのかな。
「ここが農村ですわ」
馬車がアイゼンポールに着いたので、馬車から降りて説明する。
殿下もカメリアも降りて、農村を眺めていた。
にっこりと、彼に表情を見せる。
「こちらが、王都で成功と呼ばれている均し制度の跡ですわ」
どうせ均しはやめている。
それだったら、皮肉を込めたっていいと思ったから。
私の言葉を聞いて、何かに気づいたように表情を変えていった。
「そうなのか」
殿下は農村の風景や倉庫を見ていく。
「……余剰の倉が無いんだな」
まあ、自虐的な事を言ったから、そこまで驚いている様子はなかった。
「必要ないものを置く趣味はありませんの」
微笑みながら、強気に返事を。
それがどうしようもない状況を乗り切ろうとしている、私の防衛手段かもしれないけれど。
「ここ、好きです」
カメリアはにっこりとしながら、周りを見ていた。
「え?」
思わず、きょとんとしてしまう。
彼女って天然なのは知っているけれど、この状況でも同じなのね。
「そうなのか」
殿下はカメリアの様子を見て、興味深そうにしていた。
そして殿下達は倉庫の方へと向かう。
「あっ、危ないわよ」
すると昨日と同様に猫が座っている。
倉庫を囲むように。
殿下が邪魔するとキレるかもしれない。
そう思ったから、咄嗟に素が出てしまった。
少し殿下が私を見たが、気にせずに倉庫を見ていく。
「可愛らしいですね」
カメリアは猫を見て、そう呟いていた。
撫でることはしなかったが、見つめている。
「……ただ、待ってるみたい」
そう感想を口にしていた。
殿下の表情が少し変わる。
猫は座ったままだったが、一匹だけ倉庫の扉を見ていた。
倉庫を見ていって、殿下は思っていることを冷静に打ち明けた。
「均しは続いていると報告されていた」
やはりそうよね。
むしろ、それじゃなきゃ来ないから。
「報告は過去のものですわよ。均しの跡があるだけですわ」
私は誤魔化しもせず、真実を伝えるのだった。
それを聞いた殿下は静かに笑っていた。
何を考えているんだろうね。
セシリアは緊張しているみたいだけど。
私も緊張している方。悪役令嬢としての喋り方で、上書きしているだけ。
「……止めた理由を訊こう」
「ええ」
まあ、いつかはバレるから、これでいいのよ。




