視察前日1
セシリアがやってきて、紅茶のカップを置いていく。
そのままお盆を持ったまま話を聞いていった。
「畑には来ていないんですけれど」
ルシアはそう話している。
来ていないのはまだ良さそうだけど……。
畑にやってきたら面倒だし、畑をトイレ代わりにされたら困るから。
「倉庫の周りに集まっていて」
それもそれで面倒じゃない。
「ネズミ目当て?」
「……それもありそうですが、違うみたいなんです」
倉庫だったらネズミが出てくるからだと思ったのに、違うの?
ただ一応、目当てではあるんだ。
穏やかじゃない感じになってきたわね。
「やってきた猫なんですが、農作物は荒らさないんです」
被害は出ていないって訳ね。
それだけが幸いなのかな。
「しかも、人は避けているんですが、逃げなくて同じ方向を見ているんです」
「へんてこね」
猫ってそんな感じの習性があるけれど。
「ずっと……穀物倉庫を見ているんです」
「倉庫をね」
するとセシリアの顔が警戒しているように強張っていった。
どうして?
「そこから動かないのね?」
「はい」
うろうろしているはずなのに、猫がじっとしているなんて。
気になって仕方ない。
「……見に行くしかないじゃない」
本当は行きたくないけれども、こんな話を聞かされたら、行かないと。
カメラがあったら、写真を撮りたいわね。
「ルシアは歩いてきたのかしら?」
「いえ、馬に乗ってきました」
「凄いわね」
乗馬が出来るなんて。
私なんて、記憶を戻す前でも無理よ。
「セシリア、行きましょうか」
立ち上がって、行く準備をする。
「大丈夫でしょうか? 前日なのですが」
「仕方ないわよ」
苦笑いしながら、セシリアに返事をした。
馬車に乗り込んで、農村へと向かっていく。
ルシアは馬に乗り込んで、先に戻っていた。
「領主様、急なのに申し訳ありません」
村長のモルガンが、出迎えていた。
「いいのよ。本当に猫がいるわね」
すると、倉庫の周りにはずらっと大量の猫が座っていた。
ニャーニャーと鳴いていなくて、静かに。
「あら」
私が近づくと、猫は少し下がった。
ちょっと撫でようかなって思ったけれど。
触らせようとはしなかった。
まるで何かを待っているから、それどころじゃないかのように。
「最近、ネズミの動きがおかしいのじゃ」
モルガンがそう答える。
「一応……猫が食べているのね」
ルシアが言っていた話を村長にも確認する。
「そうみたいですじゃ」
頷きながら返事をするモルガン。
そこに農作業を終えた村人がやってきた。
「猫がやってくる少し前には、ネズミが増えていたけれどな」
私達の会話に入ってきた。
やっぱり兆候はあったのね。
「あの、穀物の保管場所、変えましたよね?」
「そうだな。均しをやめたから、均していたはずの分はこういった倉庫に」
「つまり、そのためにネズミも増えたのですね」
いつもよりも増えている訳なのね。
それに伴って、ということか。
「全部、繋がっているの?」
マドレーヌ辺境領内で、ひとつ変えるとさらなる変化が起こるの。
こんなの、殿下に誤魔化しようがないじゃん。
(あれ?)
遠くでマドレーヌがパンを食べていた。
普通に買っているのかしら、あのパンは。
「変化は、いつも動物から始まるの」
遠くからでも聞こえるような声で。
ただ、セシリア達には聞こえていないけれど。




